はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第24回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はギリシャ・ヴォロスの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.24 

ヴォロスとアテネ:素敵な小広場
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

ヴォロスへ

ギリシャの首都・アテネからバスに乗って4時間半。ギリシャ中部最大の港町、ヴォロスに着いた。この地域はギリシャ神話の舞台。例えばアルゴー船のお話では、ヴォロスの東側に迫るピリオン半島(ピリオン山)から木を伐りだして人類史上最初の大型帆船アルゴー船を造り、ヘラクレスらギリシャ神話で活躍する英雄たちが黄金の羊の毛皮を持ち帰るためにヴォロス港から出航したとされる。ピリオン半島は、オリンポス十二神(神々の王ゼウスを中心とする12名の男神・女神)が選んだ夏の住まいでもあり、半人半獣ケンタウロスの故郷でもあるとか。次々と紹介される話は、伝説なのか、史実なのか。陽気な地中海性気候も手伝って、フワフワした気分になる。

失礼ながら、eCAADe2006国際会議が無ければ一生訪れることがなかったかもしれないヴォロス【図1】。なのに、もう一度行ってみたい小広場がある村に出会った。ヴォロスがあるパガシティコス湾は天然の良港。エーゲ海に通じる。ジモティはビーチで朝から泳いでいる。港に面するプロムナード沿いには建物が並び、建物低層部はレストランやバーが連なる【図2】。人々は夜8時を過ぎた頃から集まりだして、日本人の感覚では少々遅い時間から夕食をはじめる。子供連れの家族も普段着でやってきて、平日でも夜遅くまで食事と会話を楽しんでいる。

ギリシャは、古い歴史、優れた人物を輩出した国家として知られる。紀元前にはポリス(都市国家)が形成されるなど、政治、経済、文化においてめざましく発展したが、その後2000年間は被占領時代が続き、現在の国家として独立したのは1829年、アテネに遷都されたのは1834年と、意外に最近のことである。

【図1】eCAADe2006ランチ

さて、日本から持ち込んだガイドブックにヴォロスの情報はほとんどなかった。そこで、ヴォロスのインフォメーションセンターへ。観光パンフをもらいに窓口に行ったら、パンフやマップと共にチプロの小瓶をくれてビックリ。チプロはこちらの地酒で焼酎のような蒸留酒。入手したパンフレットをパラパラとめくっていると、丁度、高松市で4町パティオプロジェクトを進めている最中だったこともあって、素敵な小広場の写真にアンテナがピクピク。詳しい情報を窓口で聞いてみると、ピリオン半島の山あいにある、ポルタリアという村にある広場らしい。ダウンタウンからは12km、路線バスで30分ほどということなので、行ってみることにした。


【図2】ヴォロスのプロムナード


路線バスでポルタリアへ

地元の路線バスに乗ると、自分が降りたい駅で果たして降りることができるだろうか、不安になることが多い。国内でも不安になる位だから、海外では尚更。電車とは違って降りる人や乗る人がいない駅には停まらずにスルーされてしまうから、バスが停まった駅の数を数えながら路線図と見比べても意味がない。さらに、ギリシャの公用語はギリシャ語。ギリシャ文字Αα、Ββ、Γγ、Δδ、Εε、Θθ、Φφ、Ωωなど、数学の世界がここには溢れている。路線地図を眺めても、見覚え聞き覚えがない地名が並んでおり中々ピンとこない。というか、まず読めないし、読めても意味が分からない。例えば、【図3】の看板の右上には、「Ταβεργα」とある。これは「タベルナ」と読むが、その意味は「レストラン」。何だか変な感じ。

こうして、目的の駅はいつやってくるのか、降りる時は前後どちらのドアを使うべきか、運賃はいくらか、車内で両替はできるのか、など、特に混み合ったバスではドキドキさせられる。という訳でバスのあれこれに詳しそうなジモティに聞こうとする。

たまたま隣の席に座っていたギリシャ人のおじさんがジモティに思えた。で、ポルタリアの駅について教えてもらおうとしたが、おじさんは英語が通じず、こちらはギリシャ語が通じないから会話にならない。不用意に話しかけたものの会話にならず、隣人と気まずいことになってしまったと落ち込みそうになったが、意外に親切な方だったので、お次は筆談戦法。何とかギリシャ語でΠορταρι?(ポルタリア)と書いたら、筆者の行きたい場所や想いが通じた模様。良かったヨカッタ。苦労はしたが車内はローカルの匂いが充満しており、路線バスはやはり乗ってみたい交通機関である。

【図3】レストランは「タベルナ」


何度も訪れてみたい広場

ポルタリアに着いた。標高は600mほどだろうか。バス停前のお店に並ぶフルーツのシロップ漬けがかわいい【図4】。早速、例の小広場(ポルタリア・スクエア)へ【図5】。心地よい風と大木の緑陰、広場に面したレストランの爽やかなもてなしが最高にマッチ。辺りは複数の広場が有機的に繋がっている。地面には大判の自然石が敷き詰められ、花の手入れも行き届く。こんな環境で食事をしていると、大らかな気分に。イスラエルから来られたという隣席のお客さんとも会話が自然とはじまった【図6】。

【図4】フルーツのシロップ漬け

【図6】隣席のご夫婦




【図5】ポルタリアの小広場

ピリオン半島は冬場に雪が降ることもあって、豊富な雪解け水で知られる。村は坂道や階段だらけで風景がダイナミックに変化する。至るところで水がわき出ており、外国人である我々も口にできる【図7】。飲んでみると、市販のミネラルウォーターより確かにおいしい。住宅の玄関には、ブドウ棚、クリ、キウィ、イチジクなど日本でもおなじみの果樹が出迎えてくれる。正に、エディブル・ランドスケープ【図8】。アテネからヴォロスまでの道中は緑が少なく山の色も赤茶けた印象が残っていたのだけれども、この付近は日本のように溢れんばかりの緑で、何百歳にもなろうかというフウの大木が至る所にある。

下り坂に差し掛かるとパガシティコス湾に出会える【図9】。どこもかしこも、フォトジェニックな風景ばかり。谷をひとつ跨いだ隣の斜面には、マクリニツァの村が見える。マクリニツァは「ピリオのバルコニー」といわれ、丸く平たい石葺きの白っぽい屋根が連なっている【図10】。街並みの保存を行うために、建築ルールは厳格なのだそうだ。今度は、紅葉の季節に小広場沿いのホテルに滞在したいと思いながら、村を下りた。


【図7】湧き水スポット
【図8】エディブル・ランドスケープ

【図9】パガシティコス湾を眺める 【図10】マクリニツァ

アクロポリスの丘

首都アテネに戻る。古代ギリシャの聖地・アクロポリスの丘は市街地との比高が70mほどあり、坂をえっちら上っていく【図11】。この丘は6000年にもわたって住居として、聖所として、要塞やシンボルとして利用されていた。今も至る所で工事が行われている。

前門・プロピュライアを通過すると、いよいよパルテノン神殿だ【図12】。

【図11】アクロポリスの丘を仰瞰する 【図12】パルテノン神殿


パルテノン神殿は、15年の歳月を費やして紀元前432年に完成した。ギリシャ神話の女神アテーナー(ゼウスの娘)を祀る神殿。大理石でできたドリス式の石柱(46本)に囲まれた、男性的で雄大な姿だ。この建物には一見判らないが様々な工夫がなされている。たとえば、

  1. 床面は平らに見えるが、実は曲面と曲面を組み合わせており中央部が周縁部よりも高くなっている。水はけを良くするためか。
  2. 各柱は上部にいくに従い細くなっているが、中間部はふくらんでいる。樹木を意識してか。
  3. 角柱は他の柱よりも太くなっている。建築美学と現実的用途を考慮してか。
  4. 柱は内側に傾いている。屋根の重みを支えるためか。
エレクティオンは、パルテノン神殿の西側に位置する。イオニア式の柱と6人の少女像を柱とした柱廊が張り出しており、優美で女性的。高低差のある場所に建築されているため、複雑な構成となっている。
【図13】ゼウス神殿とパナティナイコ・スタジアム  

丘から東を眺めると、ゼウス神殿とパナティナイコ・スタジアムが見えた【図13】。ゼウス神殿は、2世紀に完成。 コリント式の柱が15本残されている。その向こうにちらっと見えているのがパナティナイコ・スタジアム。1896年、古代オリンピックの復活として、第一回近代オリンピックが開催されたスタジアムであると共に、2004年のアテネオリンピックでは女子マラソンの野口みずき選手が最初にゴールしたスタジアムでもある。

今年はいよいよ、ブラジルでワールドカップが開催される。本稿を執筆している最中に、1次リーグのグループが決定。何と、日本はギリシャと同じ組に。半年後が楽しみである。

【参考URL】
    1. 高松4町パティオプロジェクトは、拙書「VRプレゼンテーションと新しい街づくり(エクスナレッジ)」に詳しい。
    2. Kritsa公式ホームページ: http://www.hotel-kritsa.gr
    3. Acropolis: Ancient Cities, Artmedia Press


3Dデジタルシティ・ヴォロスとアテネby UC-win/Road
「ヴォロス」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回はヴォロス市街の背後のピリオン山(Pelion)にある村、ポルタリア(Portaria)の小広場(Portaria Square)をVRで作成しました。広場の中央にあるフウの大木は3Dモデルで詳細に作成し、その木陰のレストランで人々が寛いで会話を交わす様子を再現しました。石畳の道路の走行ではガタガタした坂道をリアルに体感できます。
小広場(Portaria Square)とフウの大木 ホテル クリトサ(Hotel Kritsa)
自然石が敷き詰められているレストラン 小窓のある建物


CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGレンダリングサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・ヴォロスとアテネのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。


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(Up&Coming '14 新年号掲載)
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