はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第26回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はドイツ・フライブルクとゴスラーの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.26 

フライブルク:環境首都
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

フライブルクとゴスラー

再び、ドイツへ。今回はフライブルクとゴスラーを。

フライブルクは、ドイツ南西部に位置する都市。シュバルツバルト(黒い森)のふもと、ライン川の近くに位置しており、自然環境に恵まれている。市内には1457年に創立されたフライブルク大学がある。1992年、ドイツ環境支援協会による自治体コンクール「自然・環境保護における連邦首都」において最高点を獲得し、「環境首都」として表彰されたことから世界的に知られるようになった。人口は約23万人。

ゴスラーは、ドイツ中北部に位置する歴史都市。ランメルスベルク鉱山の拠点として発達し、11世紀には皇帝ハインリヒ3世がここに城を築いた。1200年頃には、北ドイツで最も豊かな町になったとされる。現在の人口は約5万人。

大聖堂広場の朝市

高さ116mもある美しい尖塔をもつフライブルク大聖堂【図1】。1354年に着工し、150年以上もの歳月をかけて、1513年に完成した。塔に上るとまちなみが美しい【図2】。

訪問したのは秋。大聖堂広場(ミュンスター広場)では朝市が開かれていた。寒くなりかけた早朝の旧市街を散歩するのはとても気持ちよい。射し込む朝日が石畳を金色に輝かせる【図3】。


【図1】フライブルク大聖堂

朝市では、パン、ワイン、ソーセージ、チーズ、野菜、果物、花卉、雑貨など様々なお店が屋台を出している。近隣の農家が直接売りに来るそうだ。生産者と消費者との顔見合わせ【図4】。ラップ、プラスチックトレイ、過剰包装のない販売形態。パラソル、棚や篭の高さや角度、それぞれの野菜の色を活かした並べ方、と、お金をかけずともデザイン性が感じられる屋台が楽しい。マイバッグを持ったおじさま多し。同行した西村君は名物のソーセージを朝食代わりにパクリ【図5】。


【図3】早朝の旧市街
【図4】朝市
【図5】西村君の朝食

【図2】フライブルク市街とシュバルツバルト    

フライブルクの交通

フライブルクは、増え続ける自動車交通量に伴い街の機能が低下すると共に、シュバルツバルトの酸性雨問題、住民の郊外部への流出など日本でも見られる都市問題が発生していた。そこで1984年、市内への自動車乗り入れ制限政策をとり自動車交通量を制限した。その一方で総合的交通システムを拡充させ、市民の生活基盤を確保している。現在、4系統のトラム(LRT)、数多くのバスが運行されている【図6】。

公共交通の利用促進に向けた工夫のあれこれ。ハード面では乗り換えの利便性を追求。ドイツ国鉄フライブルク中央駅に着くと、トラムの電停が見える。国鉄駅とトラムの電停はエスカレータで結ばれており、利便性が高い。国鉄を跨ぐ新しい陸橋はトラム専用橋として作られた。かつての道路橋は南側に架けられており、今は人道橋として使われている。また、トラム終着駅ではフィーダーバス(支線バス)とのスムーズな接続を実現。乗換駅にはキオスクも設置されている。電停の電光掲示板には、次のトラムの発車時刻が4つ先まで表示される。日本でもお馴染みとなってきた、パークアンドライド(P+R)はトラムの終着駅に複数あり、郊外からやってきたドライバーは自家用車を駐車場に停め、トラムに乗り換え、市街地へアクセスしている。

ソフト面ではお得感。大勢の市民が自家用車から公共交通機関への転換を図れるよう、レギオカルテ(地域定期券)と呼ばれるシステムを導入している。定期券1枚で地域内の路面電車、バス、ドイツ鉄道などがほぼ乗り放題。貸与も可能であると聞いた。レギオカルテに関する話題として、筆者らはフライブルク中央駅前にある普通のビジネスホテルに滞在したがチェックイン時に滞在日数分、トラムとバス乗り放題のチケットを頂いた。素直にうれしい。観光客にとって海外で初めて来た地は何かと不安であり、疲れもある。乗り物のチケットを購入するシステムも千差万別である。乗り放題チケットのプレゼントは、そんな煩わしい気持ちを吹き飛ばしてくれるサービスであるし、何より環境都市をPRできよう。こうして今では、公共交通機関は全体交通量の約3割を分担している。人口20万人の都市とは思えないほど、公共交通の利用が進んでいることを実感した。


【図6】トラム

【図7】トランジットモール

中心市街地はトランジットモール。一般車両の通行を禁止し、公共交通機関と歩行者の通行だけが許される。トラムがいない時、人々は道路を自由に横断している【図7】。車のための道路ではなく、人のための広場となっていることを体感する。平日の昼間なのに、歩いている人の多さはといえば、日本の同規模の街では中々想像し難い。併せて、中心市街地では、家具屋や家電販売店など、大きな搬入車が入る必要のある店舗や、客が車で買い物に来る店舗は営業できないそうである。

トラム軌道について。中心市街地は石畳舗装であるが、郊外や中心市街外縁部では芝生軌道が見られる。また、トラムの架線を支える架線ポールにも緑化が施されている。

加えて、フライブルクでは自転車は重要な交通機関と捉えられ、市内交通量の約3割を分担している。1976年から1998年にかけての伸び率は実に1割。市内の至るところで自転車道が整備されて、時速30kmでビュンビュンと走ってくる。大人もヘルメットや自転車スーツを着用している人が多い。まちなかの自転車屋さんに立ち寄ってみると、店内はそれほど大きくないが、自転車整備用パーツが数多く置かれていると共に、自転車関連の書籍も多数。書籍ブースでは人が座り込んで本を読みふけっていた。


環境住宅地計画

リーゼルフェルトとヴォーバン、2つの環境住宅地計画を。

リーゼルフェルトは、中心市街地の西に位置するニュータウン。かつては下水処理場であったこの地に、1994年よりモデル的都市計画として優れた地域マネジメントにより開発が進められている。開発用地320haのうち250haを景観保護地域に指定し、残り70haに4,100世帯、10,000~11,000人分の住宅地区を段階的に建設する。住宅地だけでなく、小学校、教会、レストラン、診療所などもある。計画人口1,500人の第1期より中心軸上にトラムを走らせ、全ての住民が400m歩けば電停に到着するように計画されており、トラム利用の習慣化を目指している。いわゆるTOD(Transit Oriented Development:公共交通指向型開発)。地区内を歩くと、3~5階建ての建物が中心で、最上階のファサードデザインが他の階と異なっており、単調な意匠になるのを避けている。前庭に菜園が設けられた建物もあり、コンポストや雨水貯留槽が設けられている【図8】。散歩途中、遊んでいた男の子達から「ニーハオ!」と声をかけられた。ならば、と、「ボンジュール!」でお返し(笑)。

【図8】リーゼルフェルト
【図9】ヴォーバンの週末

ヴォーバンはフランス軍の占領地であった35haの跡地を市が連邦から買い取り、新たな住宅団地として開発された。中心市街地の南に位置する。1994年、NPOフォーラム・ヴォーバンが設立され、市民参加型により計画が推進されてきた。地区は、2,000世帯、約5,000人が生活できる街として計画され、様々な世代の暮らせるエコタウンとしてパッシブハウスを代表する省エネ建築やカーフリー住宅、緑化・ゴミ対策などが取り組まれている。また、メインストリートにはトラム軌道が敷設され、わずか10分で中心市街地にアクセス可能である。先ほど「カーフリー」と書いたが、団地外縁部には共同駐車場が整備されており、自家用車を所有する人がヴォーバンで住宅を購入する場合、住宅と同時に約1,800ユーロの共同駐車場使用権を買い取らなければならない仕組み。訪問したのが土曜日午後ということもあってか、ビオトープの周辺で一輪車に乗る女の子達や、住民たちが清掃活動に励む姿が見られた【図9】。

シュバルツバルト

フライブルクの背後に広がるシュバルツバルト。この1,300mの森へ、市街から意外と短時間で登ることができると聞いた。トラム2番線の終点まで行き、そこからバスに乗って、ロープウェイ乗り場へ。数人乗りのロープウェイは標高473mから1,219mまでみるみる上昇。次第にフライブルクの全景が見えてくる。頂上にはハイキングコース。ドイツらしい牧歌的な高原の集落が目に飛び込んできた【図10】。

【図10】シュバルツバルトの集落

ゴスラー

古都ゴスラー。小さな町だが、世界遺産だけあって、多くの観光客で賑わう。この地には、15世紀から19世紀にかけての半木造家屋が相当の範囲に渡って相当数保存されている。1550年以前に建てられた木組みの家だけでも150軒以上あるそうだ。相当古い建物だが、しっかり維持管理されており、宿泊できるホテルもある。ドイツの電機メーカー、シーメンスの先祖が商売を始めた家もある。

建物の特徴として、ひとつは、屋根と壁にスレートが使われておりモノトーンの渋い堅牢な表情を見せる建物【図11】。もう一つは、木骨組建築(ハーフティンバー)といわれる、柱、梁、筋交いなどの軸組を外観に現した建物が印象的である。ヨーロッパでは、道に面して妻入りの建物が多いため三角屋根が並ぶまちなみの印象を持たれることが多いが、ゴスラーでは平入りの建物が多く見られ、新鮮である【図12】。


【図11】スレート壁の家
【図12】ハーフティンバー・平入りのまちなみ

【参考資料】
  1. 三浦幹男ほか:世界のLRT,JTBパブリッシング,2008.



3Dデジタルシティ・ドイツ by UC-win/Road
「フライブルクとゴスラー」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回はドイツ(Germany)の環境首都フライブルク(Freiburg)のヴォーバン住宅地(Vauban)をVRで作成しました。ソーラーパネルや屋上緑化が整備された集合住宅や、雨水を緑地に浸透させる雨水コンセプトを可視化、子どもに安全な住宅地の様子をVRで表現しました。また、世界遺産の古都ゴスラー(Goslar)では、平入りの建物が並ぶ小さな町をリアルに再現しています。
ソーシャル・エコロジー住宅地 ヴォーバン 芝生軌道のLRT(トラム)
長屋式集合住宅のある敷地内 ゴスラーの木骨組建築(ハーフティンバー)


CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGレンダリングサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・ドイツのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。


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(Up&Coming '14 盛夏の号掲載)
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