はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第35回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はメルボルンの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.35 

メルボルン:マルチカルチャー
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

メルボルンへ

2016年3月末、CAADRIA2016出席のため、関空から成田経由でメルボルンへ。メルボルンは、イギリスの経済誌「The Economist」の調査部門が発表する「世界で最も住みやすい都市」のNo.1。全豪オープンテニスの開催地、世界中の学生が留学する教育の街、緑豊かな公園が点在するガーデンシティ。2009年に訪問した様子と併せてご紹介しよう【図1】。

カフェ文化


【図1】フリンダース・ストリート駅
【図2】センタープレイス(左)
【図3】セブランズウィック・ストリート(右)

メルボルンでは、カフェ文化が様々な場所で楽しめる。見て回るだけでも楽しいストリートが沢山。

シティ(CBD:中心業務地区)では、センタープレイスやデグレイブス・ストリート【図2】。路地にもオープンカフェが並ぶ。CBDの北に位置するカールトン地区のライゴンストリートは、メルボルン大学の近くにあって、イタリア料理店が多い。フィッツロイ地区のブランズウィック・ストリートのコーナーには必ずオープンカフェが立地している。古びたホテル1階のカフェも人気【図3】。CBDの南東に位置するサウスヤラ地区のチャペルストリートはオシャレ。


質の高い公共交通

メルボルン空港から市内へは約20km。スカイバスの車内はWiFi完備。2階建ての大型バスでシティ西端のサザンクロス駅まで行き、小型バスに乗り換える。小型バスは、滞在ホテルまで送迎してくれる。

最も有名な公共交通はトラム(路面電車)。路線網は250km、系統数は25、駅数は176と、世界最大規模だ。低床式の新型車両もレトロな旧型車両も楽しめる【図4】。尚、CBDを走るトラムは2015年元旦よりFree Tram Zoneとして、すべて無料になった。

図書館とビジターセンター

1854年にオープンした、今なお現役のビクトリア州立図書館。蔵書数150万冊。1854年といえば、日本は日米和親条約を結び鎖国が終わった年。大阪・中之島図書館は1904年オープンでこちらも長い歴史がありながら未だに現役であるが、メルボルンの図書館はさらに50年先輩。夜になるとライトアップされ、大勢の人が図書館前の広場でくつろぐ【図5】。

CBDの南端に位置する、フリンダース・ストリート駅の向かいにあるのが、フェデレーション・スクエア【図6】。特徴的な意匠であり、一年中を通じてイベントが開催される中央の広場を囲むように、施設が点在している。LAB architecture studio設計。ビジターセンターに入れば、メルボルン、そして、ビクトリア州に関する観光や街の情報を得ることができる。パンフレットの充実ぶりがすごい。


【図4】旧型トラム車内

【図5】ビクトリア州立図書館

【図6】フェデレーション・スクエア

水辺

CBDのすぐ南をヤラ川が流れる。川幅は100mほどであり大きな川ではないが、市民にとって貴重な親水空間。フェデレーション・スクエア側から川を見下ろすと、堤防のような構造物にカフェが併設されており、その向こうにはオープンスペースが広がっている【図7】。

CBDからビーチの広がるセントキルダ地区へは、6km足らず。何と、トラムでビーチへアクセス可能。マリーナでは、ボートで魚釣りに向かう人々多数。ここからCBD方面を望む風景がいい【図8】。300万人を超える大都市なのに、ダウンタウンからビーチがこの近さ。羨ましい限りである。



【図7】ヤラ川沿い


【図8】セントキルダ地区

ヤラ・バレー

CAADRIA 2016のエクスカーションはメルボルンから東へ60kmほど離れたヤラ・バレーへ。名前の通り、メルボルン都心へ流れ込むヤラ川の中流域にあたる。

ヒールズヴィル・サンクチュアリは、コアラ、カンガルー、ワラビー、ウォンバット、カモノハシ、ディンゴ、タスマニアデビルなど、オーストラリア固有の動物が飼育されている動物園。1934年オープン。オーストラリアン・ワイルド・ライフ・ヘルスセンター(動物愛護病院)も動物園の中に併設されている。動物はほぼ放し飼いにされており、森の中を歩いていると、ロープ1本の向こうにカンガルーがいたり、園路を白い鳥が歩いていたり(鳥は人を全然怖がらないが、幼児は涙・・・)、スタッフがヘビを腰に巻いていたりと、かなり動物と人間の距離が近い【図9-12】。


【図9-12】ヒールズヴィル・サンクチュアリ

いよいよ、2か所のワイナリーへ。ビジターセンターが整ったロッチフォード・ワインと素朴な感じのドミニク・ポーテットへ。シャルドネ、ピノ、スイートワインなど、テイスティング。丁度収穫期ということもあり、緑が綺麗で、気候も良く、CAADRIAメンバーとワイン片手にコミュニケーションできたことが最高【図13,14】。

【図13(左),14(右上)】ワイナリーDominique Portet 【図15】CAADRIANとの再会

メルボルン大学


最後に、CAADRIA2016学会について【図15】。筆者は、3編の論文発表に加えて、選挙管理委員長と表彰委員長を仰せつかった。選挙管理委員長は次期(2年任期)の会長(President)、秘書(Secretary)、会員担当(Membership Officer)の幹部を決める大切な役割。幸いにも、複数の立候補者があり、投票システムができていなかったため、学会員は私宛にメールで投票するシステムとした。御蔭で沢山の投票メールを頂戴することになり、また、接戦となったので、かなり、気をつかう作業になった。何とか、公平で健康的に次期3役が決まって良かった。

学会場となったメルボルン大学デザイン学部の建物は近年リニューアルされて、とても斬新になった【図16】。2階のアトリウムは開放的な空間であり、まず、巨大な木製オブジェがランドマークとなっている(オブジェの内部はミーティングルーム)。

また、建物内には、マレーシア・シアター、シンガポール・シアター、和室など、オーストラリア以外の国の部屋が備えてあり、ここにも、マルチカルチャーらしさが窺えた。学生たちが自習を熱心にしている風景を眺めることができるのも印象的。このアトリウムに、オーストラリアワインや食材をケータリングしてのCAADRIA閉会式と表彰式は実に洒落ており、交流するのにふさわしい場であった【図17】。
【図16】メルボルン大学デザイン学部棟 【図17】CAADRIA2016 クロージング


3Dデジタルシティ by UC-win/Road
「メルボルン」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、ヤラ川沿いで開発が進んでいるサウスワーフのウォーターフロントをメインとして作成しました。中心市街地と港湾工業地帯の接続点となるメルボルン国際会議・展示場や川沿いに林立した現代建築ガラスウォールの反射、ユニークな橋などの水面の映り込みを表現しています。また、市民が散策を楽しむプロムナードと水辺を行き交うボートといった和やかな景観のほか、巨大なジャンクションやトラムなどの交通網も表現しています。
ロリマー地区 メルボルンの交通
MELBOURN EXHIBITION CENTER Webb Bridge

 

CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・メルボルンのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。


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(Up&Coming '16 秋の号掲載)
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