▲ 今回のサマーワークショップポスター
毎夏、世界の様々な都市・地域で開催してきたWorld16によるサマーワークショップですが、コロナ禍のため2020年はオンラインでのバーチャル開催となりました。4日間にわたるワークショップの様子をレポートします。

World16とは

VRを利用した都市モデルの可視化・シミュレーションの専門家16名によるプロジェクトです。サマーワークショップでは、共通のプラットフォーム(UC-win/Road)を使い革新的な研究開発を目指しております。個別の研究成果発表を行う学会とは違い、少人数・固定メンバーでおこなうサロン形式を採用しており、さまざまな地域・国における研究・教育・文化・産業などの幅広い課題を議論します。過去にはWorld16メンバーの活動拠点を中心に、アメリカ・アリゾナ州立大学(2008)、日本・箱根(2009)、アメリカ・カルフォルニア大学サンタバーバラ校(2010)、イタリア・ピサ大学(2011)、アメリカ・ハワイ(2014)、ギリシャ・テッサロニキ(2015)、日本・大阪大学(2016)、アメリカ・MIT(2017)、ニュージーランド・ビクトリア大学ウェリントン校(2018)、フランス・パリ(2019)で開催されてきました。当初は台湾での開催を予定していましたが、春の段階でバーチャル開催へと変更しました。

▲ 時差を乗り越え、世界7か国からWorld16のメンバーがオンライン上に集結

リモートワークショップ

といっても初めてのことで、何をどうしたらよいのかまったくわからない状態だったので、とりあえずオンラインのワークショップで必要なTIPSを検索しました。以下の5つの項目が重要だとあったので、私なりの対処方法を手短に説明します。

  1. 参加者が十分準備できていること
    :プレ会議を実施
  2. スケジュールが妥当であること
    :時差を考えた余裕のあるスケジュール
  3. コラボツールを利用すること
    :Slackを利用
  4. 気持ち・精神的な配慮をすること
    :チャットやその他のツールを利用した柔軟な意思疎通
  5. ファシリテーションを考えること
    :To-do-listをシェアし、分業を簡素化

米国の大学では3月からすべての授業をオンラインに移行しており、ZOOMミーティング(zoom.us)というテレビ会議システムを使ってきました。ワークショップまでの期間に経験を積んでいたので、ある程度の問題には対応できると思っていました。また卒業グループプロジェクト授業では、Slack、Trello、Discord、Git、Googleといったコラボツールを長年使ってきたので、そのノウハウがあったことも助かりました。

ワークショップ一カ月前に、時間帯の合う数人でZOOMによるプレ会議を行いました。それによって、各自が提案しているプロジェクトを事前に知ることができ、また担当するFORUM8の開発者を前もって選出することができました。ツールの事前確認も含め、十分な準備ができたと思います。一番の問題は、やはり世界各地のメンバーが参加できるようなスケジュールを組むことでした。日本の時間帯を中心にした世界時差マップを用意し、重要な発表以外の時間帯をできるだけ自由参加とすることで対応しました。プレ会議では、参加を忘れている人にSNSのメッセンジャーで呼びかけることも同時できるようにしました。コラボツールとしては、World16メンバーが各自のプロジェクトを提案し、FORUM8側の開発者が複数のプロジェクトを受け持つことを考慮し、スラックというツール(Slack.com)を採用しました。チャット機能を大勢のグループで使うためのもので、各グループごとにアクセス制限が設定できます。ファイル共有などがメールを介さずにできるため、非常に効率よくコミュニケーションが図れます。

▲ 時差マップ:毎日日本時間の午前(緑枠)と午後(青枠)
にワークショップが行われた
▲ Slack上で、プレゼンテーションやワークショップ内容の共有等、コミュニ
ケーションをとった

Day1 オープニング

正午(日本時間帯)からフォーラムエイト代表取締役の伊藤裕二社長の挨拶からはじまり、基調講演、フォーラムエイト奨励賞社員による成果発表を行いました。

伊藤社長の挨拶では、FORUM8のさまざまな活動報告が行われました。昨年度の業務実績、第8回ものづくり日本大賞(経済産業大臣賞)受賞、あたらしい支店開設情報、一般財団法人・最先端表現技術推進協会の活動、ICTマスターコース教育プログラム、有名タレント・パックンを起用した会社広報用テレビコマーシャル、あらたに開発・販売するスイートシリーズ(クラウド経理システム、千鳥ゲームエンジン、データ廃棄サービス)、CES2020やSiggraph Asiaの展示会参加などの情報でした。続いて、開発部マネージャーのペンクレアシュ・ヨアン氏によるUC-win/Roadの新しい機能4Dシミュレーションのデモをしていただきました。ガントチャートによるプロジェクト管理状態の編集がVRツール内で可能となったことで、さらなる4DのVR利用が期待できます。加えて、C++での開発が可能となったので、一般的なツールとのシームレスな開発ができそうです。現在開発中のWeb版VRビューワーも紹介いただきました。

今年の基調講演は東京大学・山崎俊彦教授による:「Your Message Matters(あなたのメッセージが大事!)」でした。山崎先生とは3年前のとある講演からでお知り合いになり、私の海外集中講座やWorld16の楢原教授のサバティカルなどでご協力いただいております。AI技術を利用した魅力工学に関する3つの研究についての講演でした。

最初の研究は、プレゼン動画を自動的に評価するシステムの話でした。ビル・ゲイツ氏とスティーブ・ジョブス氏のTEDでの発表での評価結果がおもしろかったです。ゲイツ氏の発表は”説得力・鞭撻”といった項目が検出され、一方ジョブス氏の発表は、”魅力的・独創的・楽しい”といった項目が検出されたそうです。

2つ目の研究は、SNSにおける人気の研究でした。ある画像に対してどういった#タグをつけるとより多くの「いいね」がもらえるかといった研究です。あるポルトガル人のタバコをすっている画像に対して、”#ポルトガル”よりも”#喫煙”とタグを打つと4倍くらいのビューの違いがでるそうです。インスタグラムのビックデータを利用して、アクセス量を加速させるためのタグをAIによって自動提案してくれるシステムを開発し、実際に効果的な結果を出しているそうです。

3つ目の研究は、画像の連想性に関する研究です。スターバックスの画像を見る人は、どのようなファッションが好きか?ということを提案してくれるシステム開発に関してのお話でした。「マクドナルド」の画像を見る人は、期間限定・炭酸水・Fitnessなどと連想が強く、一方「ケンタッキー・フライドチキン」の画像を見る人は、ジャンクフード・デブ活・激辛・ニンニク・家系ラーメンといったもの(食べ物ばっかり)を連想する人が多いそうです。これを利用した結果、「いいね」数を10倍近く上昇させることに成功したそうです。

質疑応答では、建築・都市関係への利用として、都市にどういった建築が魅力的、あるいは反魅力的かが判断できれば、今後の計画に役に立てられそうだとお話しくださいました。

毎年、ワークショップではフォーラムエイト奨励賞社員による成果発表もおこなっております。今年はポール・バレ、福島直樹、中畑恵梨香、澤畑圭佑、岩切康治の5名が受賞され、構造計算、クラウド、Webアプリ、4Dツール、移転学習AI機能などの開発結果を英語にて発表していただきました。

Day2-3 ワークショップ

メンバーのショート・プレゼンが終わると、実際のワークショップへと移行しました。毎日午前9時から11時と午後3時から5時にZOOMミーティングを用意することにしました。時差による問題のため強制することはせずに、会話が必要なときに利用してもらうこととしました。ただし、毎日一度は挨拶と進行状況の確認のために、顔見せをしてほしいとお願いしておきました。

また、会話だけではどうしても理解できない場合は、タブレットを使い手書きでアイディアを書きながら説明をしました。これは実際に私の授業でも使っているテクニックです。

▲ オンラインでのワークショップ中、会話だけでは伝わらないことも、手書きのアイディアで説明

Day4 発表

最終日の成果発表は午前11時から正午と午後2時から3時半の2つの分けておこないました。最初のセッションでは、アメリカからの発表者を中心とし、午後はヨーロッパ中心で行いました。そうすることで、アメリカでは深夜前に、そしてヨーロッパからは朝7時あたりから発表することが可能です。以下各プロジェクトの要約です。

バージニア工科大学のトーマス・タッカー教授は、五感を利用できるVRシステムの提案を行いました。VIVEトラッカーというモーションセンサーをつかい、実際に3Dプリントしたオブジェクトを触りながらVR空間でもインターラクティヴな演出を体験できるようなシステム構築を目指しています。アート利用と同様に、エンジン分解などの工学的な学習目的にも活用できればと考えています。

▲ トーマス・タッカー氏(アメリカ:バージニア工科大学)

マイアミ大学のルース・ロン氏は、交通事故によるトラウマ治療ためのVR利用の研究プロジェクトに従事しており、その利用を提案していました。コロナ禍でプロジェクトが停止しているため、UC-win/Roadの衝突物理エンジンのテストと自動車事故の検証システムの提案になりました。

▲ ルース・ロン氏(アメリカ:マイアミ大学)

大阪大学の福田教授は、VR酔いを検証できるツール開発を提案しました。カメラの相対速度や絶対速度をVR表示中に警告色として表示するシェーダーを実装しました。今後ユーザ検証などを行い、VR酔いを防ぐようにカメラのモーションを変更できるようなツールの開発を目指します。

▲ 福田知弘氏(日本:大阪大学)

バージニア工科大学のドンソー・チョイ氏は近隣点群データから平均法線を計算し、その角度によってRBGの色を表示するツールを開発しました。通常点群はスキャンした時の色か単一色での表示が一般的ですが、それでは複雑な建築や遺跡のデータを表示したときにデータ構造を認識することが難しい問題があります。今後実際のデータに活用し、簡単な操作で色付けをかえるようなシステムの実装を目指します。

▲ ドンソー・チョイ氏(アメリカ:バージニア工科大学)

ジョージア工科大学のマシュー・スワォーツ氏は、現在研究開発しているCOVID-19のAgentモデルによるウィルス拡散シミュレーションとUC-win/Roadの統合システムを提案しました。マスク有無やソーシャルディスタンス、大衆移動ルートなどの変更によって、コロナの感染危険度がどのように変わるかを可視化できるようにしました。

▲ マシュー・スワォーツ氏(アメリカ:ジョージア工科大学)

カルフォルニア大学サンタバーバラ校のマルコス・ノバック教授は、人工知能を利用した画像変換ツールとUC-win/Roadをシームレスにつなげることによって、立体視映像をリアルタイムにアート的表現に変換するシステムを提案しました。

▲ マルコス・ノバック氏(アメリカ:カルフォルニア大学サンタバーバラ校)

ヴィクトリア大学(ニュージーランド)のマーク・アウエル教授は、VR空間でユーザが何を注視したかを可視化するために、ヒートマップ表示するシステムの提案をしました。視線計算をして衝突した物体の位置にキューブを生成表示し、なおかつ凝視時間によって色を変化させるツールを開発しました。

▲ マーク・アウエル氏(ニュージーランド:ヴィクトリア大学)

中国・同済大学のコスタス・タージディス教授は、RNN(リカーレント・ニューラルネットワークの人工知能)を用いて信号待ち時間を最適化ができる信号システムの提案を行いました。今回は、信号待ちしている交通量を待ち行列データのマルコフ連鎖モデルとして表現し、人工知能に入れ込めるフレームワークを開発しました。

▲ コスタス・タージディス氏(中国:同済大学)

ハルピン大学のロー教授は、卓上で利用できるようなVR・ARアプリケーションのために、カメラと投影行列を獲得してUC-win/Roadと連携するツールを提案しました。今回C++のフレームワークが利用できるようになったので、そのテストもかねています。

▲ スカイ・ロー氏(中国:ハルビン大学)

イスラエル・シェンカー大学のレベッカ・ヴィタル教授も、点群データの表示問題に対して別のアプローチを提案しています。点群の単一な色の変わりに、お絵かきソフトなどで利用するストローク(毛筆)画像を使い、カメラが接近しても、点群の隙間ができないようなツール開発を提案しました。実際のモデルに利用してその効果が見えたので、今後いつくかの改善をくわえて実務でつかえるようなクオリティにしていく予定です。

▲ レベッカ・ヴィタル氏(イスラエル:シェンカー大学)

イタリア・ピサ大学のパオロ・フィアマ教授はIFCデータをUC-win/Road内で編集・修正できるようなUIを実装し、道路デザインによる見積・積算が簡単にできるツールの提案を行いました。時間の制約上、IFCのデータ編集ツールの実装はこれからの課題としました。

▲ パオロ・フィアマ氏(イタリア:ピサ大学)

ロバート・ゴードン大学(UK)のアマル・ベナルジ教授は大学でのデザイン競技をVR空間で行うシステム開発を現在おこなっています。折しも、FORUM8があたらしいWeb用ビューワーを開発中であったため、そのツールの評価と今後必要な機能などの検証を行いました。住宅デザインの課題であったため、単なるウォークスルーだけではなく、扉を開いたり、ユニットデザインのバリエーションなどを効率よく見せるための機能を今後実装していく予定です。

▲ アマル・ベナルジ氏(イギリス:ロバート・ゴードン大学)

今回は初めてのバーチャル開催となったワークショップですが、予想以上にWorld16のメンバーが面白いプロジェクトを提案していたため、全員に奨励賞として11月のデザインフェスティバルへの招待が提供されました。乞うご期待!

おまけ:VRツアー

張り詰めた発表ばかりでは精神的に厳しいので、いくつかリラックスできるような時間とツールを準備しておきました。Day4のお昼休みの間に、自由参加のVRツアーというセッションを設け、以下のツールを利用したアクティビティを用意しました。

クラスター(cluster.mu)は自分の作った3次元空間を多くの参加者と共有できるバーチャルイベント用のオンライン・システムです。参加者を限定する場合は50名までですが、一般公開のイベントを作ることも可能であるため、コロナ禍で人気のサービスとなっています。実際の手順としては、FBXのファイルを用意し、データをアップロードするだけなので、初めてでも1時間程度で自分のVRイベントを作成することができます。今回は私の授業で利用している都市データと、FORUM8のゲームエンジン千鳥のチュートリアル用ドラゴンを使って、「ドラゴン検察イベント」を参加者に行ってもらいました。

▲ cluster:スマートフォンやPCなど様々な環境からバーチャル空間に集うことができるサービス

Spatial.Chatもコロナ禍で人気となったグループチャットのウェブサービスです。ZOOMの場合は、会話している一人がスピーカーを独占してしまうために、複数人が同時に話すことができません。しかしこのSpatial.Chatでは、会話したい人の周りに自分のアイコンをもっていくと、その周りだけで会話をすることができるので、井戸端会議をみんなでできます。参加者も楽しんでいました。

▲ Spatial.Chat:アイコンの近い人同士での会話が楽しめるビデオチャットサービス

FaceRigは、ZOOMミーティングで自分の顔の代わりに3Dのキャラクターを利用できるツールです。現在8ドル程度かかりますが、リアルタイムに顔認識を行うため、Youtuberの間でも利用されています。話題提供のために、私がアライグマになってデモしました。

▲ Facerig:Webカメラを介し、顔の表情や動きをキャラクターに反映できるソフトウェア

執筆:小林 佳弘氏(アリゾナ州立大学准教授)


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セミナーレポート

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