山中湖へ

富士五湖は、富士山の噴火によって生まれた「堰止湖(せきとめこ)と呼ばれる湖である。山中湖はその中で最も大きく、湖の標高は約980m。これは富士五湖の中で最も高く、関西で例えると六甲山の山頂よりも高い位置に湖面があることになる。

2024年10月25日から約2週間にわたり、「山中湖夕焼けの渚 紅葉まつり」が開催された(図1)。

【図1】 山中湖夕焼けの渚 紅葉まつり露店

このイベントでは、日が沈んだ後に「ミステリーサークルとバーチャルサウンド」と呼ばれる展示が登場し、デジタル映像と指向性スピーカーを使ったサウンドが楽しめる。来場者は自由に体験でき、夕暮れの美しい風景に溶け込む幻想的な音と光の演出を味わうことができる。

「夕焼けの渚」は山中湖畔に位置しているが、「日本の渚100選」に選ばれている特別な場所である(渚100選には海辺のスポットが多く選ばれている)。この場所は、富士山と夕焼けを一望できる絶好のビュースポットで、春と秋には、富士山頂から夕陽が沈む「ダイヤモンド富士」も見ることができるそうだ(図2)。

【図2】夕焼けの渚より

「ミステリーサークルとバーチャルサウンド」体験

山中湖のほとりにある旭日丘湖畔緑地を歩いていると、やがて「ミステリーサークルとバーチャルサウンド」の入り口が見えてきた(図3)。このエリアでは、緑地の園路にプロジェクターで円形のデジタルアートがリズムよく映し出されており、ゆったりとしたペースで色や形が変化していく。青緑色のアートは地球を思わせるようであり、赤い色のアートはまるで火星やヨーヨー釣りの風船を彷彿とさせる(図4)。

【図3】「ミステリーサークルとバーチャルサウンド」入り口

【図4】赤い色のアート

来場者たちは園路に沿って進みながら、さまざまな色や形のミステリーサークルを眺めていく。時にはデジタルアートの映像と人影が重なり合い、新しい風景が生まれる瞬間も見られる(図5)。

【図5】デジタルアートと人影の重なり合い

園路の地面は黒っぽい素材で舗装されているが、ミステリーサークルによってまるで色とりどりの絨毯のように華やかに変わる。また、周囲には指向性スピーカーが設置されており、各アートに合わせたBGMが耳に届く。来場者は、まるでアートと音に包まれたような独特の空間を体験することができる。

2024年の夏は特に暑さが長引いたせいか、標高1000mのこの高地でも紅葉は始まったばかりだった。それでも、プロジェクターの光が紅葉を照らし出し、葉の色がデジタルアートと交じり合っているように見えることも(図6)。紅葉が自然の色か、アートによるものかは見分けがつかないが、感じ方は人それぞれの自由である。

【図6】紅葉とデジタルアートの交じり合い

【図7】階段に描かれた「ミステリーサークル」

園路を進んだ先にある終点の階段には、大きな「ミステリーサークル」が描かれている(図7)。園路に映し出されたアートは地面に水平に投影されているが、階段では垂直に近い角度で映し出されているため、同じデザインでも角度の違いから異なる雰囲気が生まれている。

湖畔はとても静かで、指向性スピーカーから流れるBGMは音量が控えめにもかかわらず、まるでそっと耳に届くような心地よさがあった。

時空を超えて

筆者が初めて山中湖を見たのは、約半世紀前のこと(図8)。当時の記憶は断片的だが、昔の写真を見返すと、湖畔でキャンプをして、夜明け前から富士山に登り始めたことを思い出す。その途中で、クジラやワニのような形をした山中湖の姿を見たような記憶もある。

「ミステリーサークル」は「デジタル掛軸」から派生したアート。両者を創造した長谷川章さんは、デジタル掛け軸を「時空を超えた芸術」と表現しているが、半世紀経ても変わらずに佇む山中湖も、同じく「時空を超えた芸術」と呼べるかもしれない。

【図8】富士山から山中湖とご来光(1975年8月)

(Up&Coming '25 新年号掲載)




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