連載【7回】

「冷え」に対するセルフケア

profile

関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。

現代はストレスの時代といわれます。仕事の負荷や複雑な人間関係、猛暑や豪雨などによる環境の変化など、日々私たちはさまざまなストレスを受けています。ストレスによって体調はいつも万全でいるわけではなく、天気のように晴れたり曇ったり時に嵐のように、私たちはカラダの「ゆらぎ」を抱えながら生きています。そんな自分自身のカラダの「ゆらぎ」と上手につき合い続けるために、まずは自分のカラダの小さな変化に意識を向けること、カラダをみつめる習慣からはじめましょう。

「冷え性」と「冷え症」

不定愁訴症状の中で「冷え」を訴える人は多く、成人女性の2人に1人は訴えると言われています。一般的には、特に明らかな原因なしに手足や腰が冷えやすい状態を冷え症と呼んでいますが、冷え症という言葉は疾病の名称ではなく、社会通念としての概念です。

一方、冷え性は東洋医学的な概念で、寺澤による冷え性診断問診票(表1)によって非冷え性と冷え性に分類されます。冷え性を西洋医学的には身体の特定の部分だけが特に冷たく感じる状態を指し、末梢循環不全及び自律神経活動の低下がその主因とされています。そのため循環ホルモン、プロスタグランディンE剤、ビタミンB1やE剤の服用が勧められます。

設問

※各症状は6ヶ月以上に渡っていることを前提に、あてはまる項目に○をつけてください。
1 他の多くの人に比べて“寒がり”の性分だと思う。
2 腰や手足、あるいは身体の一部に冷えがあってつらい。
3 冬になると冷えるので電気毛布や電気敷布、あるいはカイロなどをいつも用いるようにしている。
4 身体全体が冷えてつらいことがある。
5 足が冷えるので夏でも厚い靴下をはくようにしている。
6 冷房の効いているところは身体が冷えてつらい。
7 他の多くの人に比べてかなり厚着する方だと思う。
8 手足が他の多くの人より冷たい方だと思う。

断診

※A~Cに一つ以上該当するものを冷え性者とする。
A 質問項目1~3の中から2項目以上○がある
B 質問項目1~3の中から1項目、質問項目4~8の中から2項目以上それぞれ○がある
C 質問項目4~8の中から4項目以上○がある

表1

体温と冷え

私たちの体温(腋窩温)は36.5±0.5度ですが日常生活活動や環境によって多少上下します。

とくにストレスを受け続け緊張した状態では、自律神経である交感神経が優位の状態で血管収縮により低体温となりますが、逆に不活発すぎると副交感神経優位の状態が続くことで代謝が抑制され低体温になります。若い女性で低体温に悩む人の中にはダイエットをして、筋肉が少ないことが一因です。

隠れ冷え性

手足が冷たい人だけが冷え性ではありません。自分では冷え性と思っていなくても内臓が冷えている隠れ冷え性があります。直接お腹に触れると手足や他の部位と比べて冷えていると感じたり、よく顔がほてったりのぼせたるする、胃腸が弱い、冷たい飲み物をよく飲む、体温が35度台で、肩こりがあり、お風呂はシャワーであるなどのうち一つでもあると隠れ冷え性といえます。内臓の冷えは、免疫力や肝機能、ひいては不妊にもつながります。

日常生活でのセルフケア

日常生活のなかで簡単にできる「冷え」の対策を紹介します。

1) 食べ物 野菜や果物は収穫場所と旬が大切で、暑い地方で収穫されたもの、夏が旬のものは体を冷やします。冷え性の人はとくに、冬に体を冷やすものは避けて、なるべく体を温める作用のある冬収穫の根菜類をとりましょう。表2に体を温めたり、冷やしたりする食べ物をあげています。また「赤・黒・オレンジ」色の野菜は温める、「青・白・緑」は冷やす傾向があります。さらにできれば薬味として使われる、ネギやショウガ、ニンニクは体を温める効果があり、積極的に取り入れていきましょう。

温めるのが最も強い食べ物
のぼせ気味の人、血圧の高い人は避ける

トウガラシ、コショウ、ニンニク(生)、シナモン

温める食べ物、体がおだやかに活性化
冬に収穫される野菜が多い、旬に食べる

ニンジン、カボチャ、タマネギ、レンコン、ヤマイモ、ショウガ、カブ、ニラ、シソ、ワサビ、黒砂糖、エビ、鶏肉、鮭

温めたり、冷やしたりする傾向が
少ない食べ物

シイタケ、キャベツ、ブロッコリー、ジャガイモ、アボガド、リンゴ、コンニャク、小豆、白米、 牛乳、豚肉、牛肉

寒よりは弱いが体を冷やす食べ物

ダイコン、ハクサイ、コマツナ、セロリ、モヤシ、ナス、ミカン、イチゴ、小麦、豆腐、緑茶、ウーロン茶

冷やすのがもっとも強い食べ物
体に水分を補い、炎症を抑制する。
冷え性の人は控える

トマト、ナス、キュウリ、モヤシ、スイカ、バナナ、キウイフルーツ、昆布、塩、醤油、アサリ

表2 中医学に基づいた食材の性質

2) 衣服 自覚的に冷えを感じやすい部位は、圧倒的に足です。全身の筋肉の約70%が下半身にあるため、下半身を温める腹巻、レギンス、スパッツ、靴下とくに5本指の靴下などを使うのがいいでしょう。また夏でも一枚ストールを持ち歩く、綿やシルクの下着を選んでください。寒冷期には首を冷やさないためマフラーが欠かせません。
3) ウォーキング 末端が冷える原因のひとつが、腸腰筋の過緊張。長時間座り続けるなどで筋肉が圧迫されると大腿動脈の血流が滞り、足先の冷えが現れます。これを解決するには、大股で歩くこと、足の根元から歩きだすような感覚でウォーキングを行うと腸腰筋が鍛えられます。
4) 入浴 38~40度で10分から30分つかる入浴。冷えた体でお湯につかると温度差が大きくのぼせやすいため、かけ湯が良いとされています。どの季節もシャワーだけはおすすめできません。
5) ラベンダーの精油で足浴 ぬるめのお湯をはった洗面器に、ラベンダーの精油を3滴ほど垂らして足浴(くるぶしの上あたりまで)をします。足浴だけでも十分ですが、おふろに5滴ほど垂らしてよくかき混ぜ、10分から15分全身浴をするのも効果的です。

(Up&Coming '19 秋の号掲載)