連載【第13回】

正しく「新型コロナワクチン」について知ろう

profile

関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。

新型コロナワクチンの接種が2021年2月から日本でもはじまりました。インフルエンザワクチンや麻疹ワクチンなどこれまでのワクチンと違った新しいタイプのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン、ウイルスベクターワクチンであることから不安になっている人も少なくありません。その不安を少しでも軽減するために今回、「新型コロナワクチン」を取り上げてみます。

ワクチンの効果

免疫は感染症への抵抗性を獲得し、感染しにくくなったり、感染しても軽くすむようになったりする状態のことです。ワクチンを接種することにより、免疫が獲得されると、感染予防、発症予防、重症化予防の効果が期待されます。それは自分自身を守るだけでなく、周りの人を守る事に繋がり、ひいては社会を守ることになります。集団の70~80%が免疫を獲得すると、1人感染者がでたとしても、その⼈から排出されたウィルスが周辺の人に感染し増殖する機会が減り、感染が伝播されにくくなり、感染自体が終息していきます。

新型コロナワクチンについて

日本では主にmRNA ワクチンやアデノウィルス・ベクターを使ったワクチンとなります。図1に主な新型コロナワクチンを示しています。mRNAというのは、細胞内で作るタンパクの配列情報を伝える遺伝子の⼀種です。

図1

図2は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染のメカニズムです。

図2

ファイザー社のBNT162b2とモデルナ社のmRNA-1273は、SARS-CoV-2がヒトの細胞内に入り込むときに必要なスパイクタンパク(S)の遺伝⼦配列情報を記したmRNAを、人⼯的に脂質ナノ粒子に内包させ、mRNAを細胞内に取り込むことを可能としたワクチンです。接種部位である筋肉組織等の抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)に mRNAを内包した脂質ナノ粒子が取り込まれ、mRNAが細胞質に放出されます。翻訳されたスパイクタンパク、または 翻訳後プロセッシングされたスパイクタンパク由来ペプチドが所属リンパ節でT細胞やB細胞に提示され、細胞性免疫と液性免疫が誘導されるようにデザインされています。ワクチンのmRNAは細胞内に取り込まれて⼀過性にタンパク合成を指令したあと分解され、そのままで染色体に取り込まれる事はありません。一方、アストロゼネカ社のChAdOx1nCov-19は、チンパンジーのアデノウイルスをベクターとして用いており、SARS-CoV-2のスパイク遺伝子を筋肉細胞に発現させ、免疫を誘導するようにデザインされています。アデノウイルスは、遺伝子を細胞に導入するベクターとして広く研究で利用されています。

mRNAワクチンの有効性

ファイザー社のmRNAワクチンにおける臨床試験は米国、ドイツ、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカの6か国において実施されました。ワクチンを接種する人とプラセボ(生理食塩水)を接種する人に分け、約3週間の間隔で2回接種した時、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症がどの程度抑制されるか比較されました。発症の確認に当たっては、発熱や咳、息切れ等、感染が疑われる症状が1つ以上あり、PCR等で陽性となった人を、COVID-19が発症した人と定義されました。約4万人の被験者を対象に、2回目の接種後7日以降の発症の有無が比較されました。その結果、過去にCOVID-19の感染歴がない場合で95.0%のワクチン有効率が確認され、感染歴の有無を問わない場合でも94.6%のワクチン有効率が確認されました。日本人の健康成人160人を対象におこなわれ、海外における臨床試験と同程度以上の結果でした。

mRNA ワクチンの副反応

1)注射部位の副反応:
痛み(70%前後)、発赤・腫脹(10%弱)などの頻度が高く、2回目の注射後の方が強いようです。注射後2~3日で症状は治まります。

2)全身性の副反応:
発熱、倦怠感、筋痛、関節痛、頭痛などで特に2回目の注射後に強く50%~70%にみられます。注射後2~3日で治まりますが、症状により鎮痛解熱剤などで対応されました。これらの反応は、ワクチンにより免疫反応が開始されたことに伴う反応で、⼼配する必要はありません。

3)アナフィラキシー反応:
アレルギー反応のうちで全身に激しく症状がでるもので、頻度は 100万人当たり11人です。ワクチン接種後15分~30分に発症し、蕁麻疹、血管浮腫、発疹、喉頭閉鎖感などで、アナフィラキシーショックは大きく血圧が低下し生命にかかわるものです。発症には薬物や医療製品、食品、虫刺されなどによるアレルギー歴や過去のアナフィラキシー歴を有することがリスクとなります。mRNAワクチンに対するアレルギー反応は、mRNAを保護し、細胞に取り込まれやすくするために使っているナノ粒子の成分ポリエチレングリコール 2000(PEG2000)に対するアレルギーだと考えられています。PEG2000に抗原構造が似通っているポリソルベ ートに対するアレルギーを持っている人も、リスクが高い可能性があります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症において、長引く症状は「Long COVID」と呼ばれ、その後遺症で苦しんでいる人は少なくありません。COVID-19にならないためには新型コロナワクチンを正しく知って接種するかどうか考えてください。

(Up&Coming '21 春の号掲載)