連載【第18回】

「うつ」とつきあうために知っておきたいこと

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関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾クリニック院長を経て、現在公益財団法人未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科客員研究員、統合医療アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著など多数。

今回は誰でもが経験する「うつ」について考えてみます。

「うつ」は日常用語で、落ち込み、気分が沈む、つまらない、やる気が起こらない「こころ」の状態で、日ごろの短い時間での経験です。「コロナうつ」という言葉も一時耳にしました。新型コロナウイルス感染によるによるストレス反応としての「うつ状態」のことですが、「うつ」が長期化することで、「うつ状態」へ、そして「うつ病」に進展していきます。「うつ状態」という言葉は、精神科疾患、身体疾患、ストレス反応のひとつの状態像(症状)として用いられます。このうつ状態が長く続き、日常生活が支障をきたし、ほとんど一日中、しかも2週間以上続く場合、疾患としての「うつ病(大うつ病)」になります。 うつ病になるまでにいろいろな身体症状が出現します。一番多いのは睡眠のパターンが変わってくることです。夜なかなか眠れなかったり(入眠困難)、途中で何度も起きたり(中途覚醒)します。睡眠時間が短くなり、朝早く目を覚まします(早朝覚醒)。また悪夢も見るようになり、朝が起きれない、身体が鉛のように重い感じます。逆にいつまでも起きれない、ずっと寝ている過眠状態になることもあります。食欲もなくなり。無理して食べている、味を感じない、砂をかんでいる感じがしたりします。過食になることもあります。甘味や炭水化物ばかり食べるようになります。自分がうつ病であると気が付かないで、このような身体症状を訴え、内科を受診する人もすくなくありません。

「うつ」の悪循環

「うつ」がつづくと動けなくなり、出来たこともができなくなります。そうすると自信もなくなり、だめな自分と否定的に考え、さらに落ち込みます。そしてますます動けなくなる負のスパイラル(悪循環)に入っていきます。自分でこのスパイラルから抜け出し、何とかしようとすると泥沼にはまった車がアクセルをかけるように空回りするだけです。その結果、そのスパイラルに「とらわれ」ていきます。このような「うつ」の悪循環にいる状態、とらわれている「こころ」のあり方は「こころ」をかたくしていきます。図1には「うつの悪循環」を示しています。

図1

「うつの悪循環」に陥りやすい人は

  • 完全主義「べき」主義、理想主義:「~すべき,かくあるべき」ねばならない考え、理想と現実の自分とのギャップが大きい「100点か0点」
  • 心配性で周りの環境に敏感:細部にこだわる
  • 他人からの評価を意識する、傷つきやすい
  • 過剰適応:まじめにやりすぎる、過剰にやりすぎる
  • 自分で何とかしようとする:何とかそこから抜け出そうと努力する
  • 気分ばかりで行動・事実がみえていない
  • 過去のすんだことを思い悩み、落ち込む
  • 先のことを予期し、より不安になる

の傾向があります。考えれば考えるほど悩み、過去を振り返れば「うつ」になり、未来を思案するとより不安になります。「うつ」と違い不安はもともと「こころ」を守る防御機制ですが、量的に過度となったり、反復して出現するようになると病的になります。「うつ」や不安は「こころ」をかたくしていきます。マインドフルネスストレス低減法(MBSR)や森田療法などは「こころを緩める方法」といえます。図2にMBSRで行うマインドフルネス瞑想の7つの姿勢を示します。「~すべき、ねばならない」という完全主義から悪循環に陥り、固くなった「こころ」から「まあいいか」と現実を受け入れる緩い「こころ」が「うつ」から抜け出すことになります。先を考えたり、過去を振り返るのではなく、「今・ここで」を大切にするマインドフルなこころは、自然な「こころ」のあり方といえます。そうはいってもなかなか難しいという人は、まず「こころ」を緩めるには頭で考えることを休めることです。頭で考えて考えて自分でなんで、どうしてと堂々巡りする中で、頭を働かせることよりも、身体を動かすこと、呼吸に意識を向けるだけで少しずつ変わっていきます。まず頭を働かせないことからはじめてください。

図2

(Up&Coming '22 盛夏号掲載)