連載【第21回】

機能性胃腸症(FD)

profile

関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了・医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬三敬塾クリニック院長を経て、現在ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人 未来工学研究所研究参与、東京大学大学院新領域創成科学研究科共同客員研究員、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・業務執行理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。

機能性胃腸症(FD)を知っていますか

国民の約4人に1人が胃のあたりの痛みや不快感などを訴えており、その中の3人に1人が医療機関を受診しているといわれています。またこのような人の2人に1人は内視鏡検査をしても何も異常がなく、機能性胃腸症(Functional Dyspepsia、以下FD)といわれています。以前には胃下垂、神経性胃炎、症候性胃炎や胃けいれんといった診断名がつけられていました。

FDは命にかかわるような疾患ではないのですが、日常生活の質を低下させ、何回も受診しては検査を受けている人も少なくないといえます。またFDは日常のストレスで症状が悪化したり、FDがあることがストレスとなっています。特に、不安障害(不安神経症)などの精神障害を伴っていることがよく知られています。今回、「胃に不安」を抱えているこのFDを取り上げてみます。

FDの診断基準

RomeⅣ基準(2016年)では、FDは症状の原因となりそうな器質的な疾患ではないにもかかわらず、胃・十二指腸領域由来と考えられる、心窩部痛(みぞおち辺りの痛み)、心窩部灼熱感(みぞおち辺りの焼ける感じ)、食後の胃もたれ、早期飽満感(食事開始後すぐに胃が充満した感じとなり、食事を最後まで摂取できない状態)の4つの症状のうち、1つ以上の症状があること、これらの症状は辛いと感じるものであること。さらにその症状は6か月以上前から出現し、週に数回程度、症状があることが3か月は持続する状態と定義されています(図1)。

図1 国際的な診断基準であるRomeⅣ基準

さらに、心窩部痛・心窩部灼熱感のいずれかが存在する病型を心窩部痛症候群(Epigastric Pain Syndrome: EPS)、辛いと感じる食後の胃もたれ・早期飽満感のいずれかが存在する場合を食後愁訴症候群(Postprandial Distress Syndrome: PDS)として2つの病型に分類されています。なお、この2つの病型が重複することもあります。

FDの病態

FDの原因は明らかにはなっていませんが、精神的なストレスや消化管運動異常、知覚過敏等が原因の一つと考えられています。最近では細菌やウイルスによる感染性腸炎からの治癒後にFDが発症していることも報告されています。また、ピロリ菌の除菌によって症状が改善する場合はピロリ菌関連ディスペプシアとして、FDから切り分けられるようになってきています。

常における不規則な食事、過労、精神的ストレスが悪化の要因で、喫煙、アルコール摂取量、不眠などの生活習慣はFDの症状に関与しています。特に高脂肪食は一部のFDの症状の増悪が報告されています。FDの病態と臨床像の関係と悪循環を図2に示しています。

図2 機能性胃腸症の病態と悪循環
心身医学2015年Vol55 No12 より一部引用

FDの悪循環

授業、会議や交通機関の利用など長時間の拘束や緊張状態が続くことで、「胃が痛くなったりらどうしよう」と頭の中に浮かび、その予期的な不安から痛みはさらに強くなり、行動が制限されたり、その緊張状態を避けるようになっていきます。また、症状があることで、注意が症状に集中して不安が増していき、その不安感からさらに症状が悪化していく心身相関の悪循環に陥っていきます。FDであることが不安を増悪し、その不安からFDの症状が悪化し、FDにとらわれていきます。症状と不安との悪循環から社会行動が制限され不登校や失業にいたることもあります。

FDの治療

1) 食事におけるセルフケア
自分の食事の状態を評価することが大切です。高脂肪食は避ける、脂肪摂取量を少なくするのがよいでしょう。香辛料等の刺激物は症状を悪化させることが多いので、大量に摂取したり夜間に摂取したりすることは避けましょう。

2) ストレスマネジメント
規則正しい生活、十分な睡眠が重要である。FDの症状に関連して困っている日常生活での現実的な問題とりあげ、解決していくようにしましょう。

3) 投薬治療
プロトンポンプ阻害薬(PPI)に代表される酸分泌抑制薬(胃酸を抑える薬)や消化管運動改善薬(胃の動きを良くする薬)が多く用いられています。漢方薬である六君子湯はFDの症状の改善効果が報告されています。アコチアミド(Acotiamide)は食後愁訴症候群の患者さんの食後の胃もたれや早期飽満感、さらには胃の辺りが張る症状に有効との報告があります。ピロリ菌に感染している場合はピロリ菌関連ディスペプシアの可能性を考え、ピロリ菌の除菌療法もおこなわれています。

(Up&Coming '23 春の号掲載)