連載【第31回】

マイクロスリープかどうかチェックしましょう

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関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了。マウントシナイ医科大学留学。東京慈恵会医科大学助手、帯津三敬塾クリニック院長を経て現在、ピュシス統合医療クリニック院長。公益財団法人未来工学研究所研究参与、統合医療 アール研究所所長。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会登録指導医、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本医師会認定産業医。日本統合医療学会業務執行理事・認定医。日本メディカルホメオパシー学会専務理事・専門医。Institute for Mindfulness-Based Approaches認定MBSR講師。全米ヨガアライアンス認定RYT500。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『花粉症にはホメオパシーがいい』『がんという病と生きる森田療法による不安からの回復』共著。『1分で眠れる4-7-8呼吸』監修など多数。


仕事中に気が付かないうちに眠りに落ちていることはありませんか。日中会話していたり、車を運転していたり、テレビをみたりしているとき、意識が一瞬飛んでいたのを経験したことはありませんか。今回は数秒間だけ意識が途切れる非常に短い睡眠状態にあるマイクロスリープを取り上げてみました。

 

マイクロスリープについて

マイクロスリープとは、フラッシュスリープ、瞬眠とも言います。日中覚醒している時に、数秒間の無自覚の瞬間的な睡眠状態のことです。脳の一部が局所的に眠っている状態に入り自分では気がつかないまま、数秒間意識がない状態になっています。眠気がないと思っていても眼を開けたまま瞬間的に眠っていることもあります。一般的に意識レベルは低下しますが、脳の血流が保たれているので、容易に目が覚めます。

仕事中に何度もマイクロスリープになると、仕事の効率の低下だけでなくミスが増え、会議中などは集中力がなくなり、記憶も飛んでいくことが起こります。特に車の運転や危険な作業をしている時にはとても危険です。

原因は、睡眠不足、睡眠リズムの乱れ(夜勤・交代勤務、時差ボケ、夜更かし)、疲労、睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群、不眠症、周期性四肢運動障害)、薬剤(睡眠薬、抗転換薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬)、低酸素症や長時間の単調作業などです。特に日々の睡眠不足が少しずつ蓄積される状態である「睡眠負債」がマイクロスリープの原因として重要です。脳は覚醒システム(網様体賦活系など)が疲弊し、制御不能になるため、脳が「強制的に休む」ためにマイクロスリープが発生します。

症状を図1に上げています。マイクロスリープかどうかのチェックポイントです。

意識の一時的な途切れ
  • 数秒間、周囲の音や会話が「聞こえていなかった」と感じる
  • 会議や授業中に話が進んでいて驚く
  • 運転中に「気づいたら前方が変わっていた」などの記憶の飛び

身体の反応の変化
  • 頭がカクンと前に落ちる(うなずくような動き)
  • まばたきが異常にゆっくりになる
  • 目がトロンとして焦点が合わない
  • 手元の作業が止まる、またはミスが増える

抗眠気行動(無意識の眠気対策)
  • 顔や頭を触る、貧乏ゆすりをする
  • 大きなあくびや独り言を言う
  • 意図的に身体を動かして眠気を払おうとする

運転中の異常挙動
  • 蛇行運転や不自然な減速
  • 信号や標識の見落とし
  • 車間距離の維持ができない

図1

診断は、主に脳波検査です。日中に脳波を測定し、15秒未満の短い睡眠(徐波)、fMRIでは前頭前皮質などの活動低下が見られます。自覚症状が乏しいため、本人の行動や日常的サインの観察も参考になります。

予防は、毎日7~8時間の規則正しい睡眠をとること、昼休みに10~20分の短時間の昼寝をすること、長時間の単調作業の合間に休憩を挟むこと、室内の温度や照明を調整して眠気を防ぐことなどがあります。「寝だめ」などは効果がありません。脳と体の根本的な疲労のケアが大切です。

睡眠負債について

日々の睡眠不足が少しずつ蓄積され、単なる一時的な寝不足とは異なり、慢性的な睡眠不足の状態です。平日の睡眠不足(睡眠負債)を休日に取り戻そうと長い睡眠時間を確保する「寝だめ」の習慣がある人は少なくありません。睡眠負債でのいくつかの問題点があります。図2にその問題点をあげています。

休日の「寝だめ」の問題点
(厚生省健康づくり睡眠ガイドライン2023より)
  • 平日の睡眠不足(睡眠負債)を、休日に取り戻そうと長い睡眠時間を確保する「寝だめ」の習慣がある人は少なくありませんが、このような習慣で、実際には眠りを「ためる」ことはできません。
  • 国際的には週末の眠りの取り戻し(Weekend catch-up sleep)と呼ばれ、毎週末(休日)に時差地域への旅⾏を繰り返すことに類似していることから、社会的時差ボケ(Social Jetlag)とも呼ばれます。
  • 社会的時差ボケは、慢性的な睡眠不足による健康への悪影響と、頻回に体内時計のずれが生じることによる健康への悪影響の両側⾯を有しており、肥満や糖尿病などの生活習慣病の発症リスク、脳血管障害や心血管系疾患の発症リスク、うつ病の発症リスクとなることが報告されています。
  • さらに、休日の寝だめでは、平日の日中の眠気は完全には解消できず、メリットは極めて限定的との報告もあります。40~64歳の成人を対象とした近年の調査では、平日6時間以上寝ている人に限り、休日の1時間程度の寝だめは寿命短縮リスクを低下させることが示されていますが、平日6時間未満の睡眠時間の人は、休日の寝だめをしても寿命短縮リスクが有意に高まります。
  • 休日に長時間の睡眠が必要な場合は、平日の睡眠時間が不足しているサインであり、平日に十分な睡眠時間を確保できるよう、睡眠習慣を見直す必要があります。
  • さらに、寝だめのために休日の起床時刻が大きく遅れると、体内時計が混乱し、時差地域への海外旅行と同様の時差ボケが生じる結果、健康を損なう危険性が生じると考えられます。
  • 睡眠には1日の活動で蓄積した疲労やストレスから回復させる重要な役割があるため、睡眠休養感(睡眠で休養がとれている感覚)を向上させることも重要です。
図2

ナルコレプシーとの違い

ナルコレプシーはマイクロスリープと同じように「突然眠ってしまう」過眠症です。

遺伝素因や環境素因といった複数の因子が作用し、発病に至る多因子疾患ですが、脳内の覚醒維持機能の障害(覚醒ホルモンであるオレキシンの欠乏)が原因と考えられています。特徴は強い眠気が日中に繰り返し起こる。笑ったり驚いたりすると脱力する「情動脱力発作」があり、夜間の睡眠が浅く、夢を見る時間が異常に早く訪れる(REM睡眠の異常)などがあります。日中の過度な眠気が少なくとも3ヶ月以上続いていることが必須の症状となります。

持続時間は数分から30分程度で完全に眠ってしまうことも多い疾患です。若年期に発症しやすく、慢性・進行性で治療が必要となります。一方、マイクロスリープは生活習慣の改善で予防・対処が可能です。

(Up&Coming '25 秋の号掲載)