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本連載は、「組込システム」をテーマとしたコーナーです。大手メーカー新規商品、特注品、試作機等の組込システムを約30年間に渡って開発してきた実績にもとづいて、毎回、関連のさまざまなトピックを紹介していきます。第12回は、デジタル化による車社会の大変革とそれを支える技術について解説いたします。

執筆 組込システム開発チーム

VRシステムをはじめとした関連分野における展開を推進。組込システム開発、マイコンソフトウェアの受託開発、コンサルティングを中心とした事業を展開。
車社会のデジタルトランスフォーメーション

■車社会のデジタルトランスフォーメーション
デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation:以下、「DX」という)とは、企業環境のデジタル化に対応し、企業活動やビジネスモデル、組織・文化といった企業そのものを変革していく一連の取り組みです。デジタル技術とデータの活用が進むことによって、様々な情報システムすべてが有機的につながる世界になり、社会・産業・生活のあり方が根本から革命的に変わって行きます。その中で、車社会も大変革が進行中です。デジタル化による安全運転支援、自動走行、交通管制制御と車情報の連携による交通渋滞の緩和、車とサービスの連携によるライドシェア、自家用車や駐車場と公共交通網の連携、流通サービスとの連携によるラストワンマイル、ドライブカメラと警察との連携による犯罪防止などの様々な社会の変革が期待されています。


■変革を阻害する課題
DXでは、最初から明確な課題や要求が存在するわけではありません。未知の領域のため全貌や対効果を見極めることは極めて困難です。常に社会環境変化が激しく、システムへの要求は流動的に変化します。また、革新は一つの会社の利益を超えたトータルの社会メリットの追求が必要になります。そのため、新たな事業やサービスの企画には、AIやIoTといった最新のデジタル技術に詳しい人材だけでなく、業界や専門分野の異なる領域の知識を融合することが必要になります。明確にシステム要求や期待効果が定まらず、広範囲の分野にまたがる専門知識や人材不足、そして高額な開発費により、変革のスタートを躊躇せざるを得ません。

■DXのカギはアジャイル開発
見極めることができずノウハウの少ない新規領域においては、実際に試してみなければ分からない試行錯誤の開発を進める必要があります。アジャイル開発とは、流動的な要件に対して、小さく始めて短い期間でスピーディに部分的なシステムを作り、そして、改善をしながら完成度を高めていく方法です。開発を大規模・計画的に行うのではなく、むしろ小さくはじめて、軌道修正することが必要です。これによって、効果が出ないものは早めに終了させ、効果が出たものには加速させるなど、機動的な改善をしながら施策効果を最大化させていくことができます。事前にすべてを予測し計画していくことは、難しさが増しています。一方で、デジタル技術の進展は、やり直しのコストを極小化させ、様々な効果測定や検証を可能にする手段を次々と生み出しています。

■DXを実現するためのAUTOSARの展開
●アジャイル開発を可能にする統合シミュレーション環境
車載関連のさまざまなセンサ、機器、サービスを連携させた実車実験レベルの開発は、どうしても大規模になってしまいます。そのため、統合シミュレーション環境を構築し、運転走行、道路網情報、サービスなどの様々なシミュレーション機能と利用可能な既存開発の実機、そして必要最小限の新規試作開発を連携させることで実車に近い評価を行うことが可能になります。これにより、企画モデルの概念やアイデアをより簡単に理解し、ダイナミックな洞察による検証を行うことができ、より高度な課題の抽出と新たなソリューションの発見、関係者との共通理解による様々な専門知識の統合が可能になります。

●事前主義からオープンイノベーションに舵を切った統合シミュレーション開発環境
車載システムから社会サービスシステムまでを連携した統合シミュレーション環境は、様々な分野のスキルが必要であり、簡単に構築することが出来ません。一つの会社で開発するレベルでは、局所的なものしかできません。そのため、企業間を横断した統合シミュレーション環境の構築が望まれます。オープンイノベーションとは、製品開発や技術改革、研究開発や組織改革などにおいて、自社以外の組織や機関を巻き込むことにより自前主義からの脱却を図ることです。これからのシステムは、特定企業グループの縄張り・覇権争いによる利用者への不便をもたらさないオープンな社会インフラであることが重要です。各企業は、オープンなシステムの成長を通じて、より自社の強みが社会貢献できるしくみを構築し、顧客から見て価値ある一連の統合的サービスとして提供することが重要です。これまでは業種・製品起点で開発が進みましたが、これからは、垣根は大きく崩れ、トータルでの社会のメリットの追求するための生活者の価値を革新する課題別へと置き換わる必要があります。

●AUTOSARベースの統合オープンシミュレーション環境
車載ソフトウェアは、自動車メーカーと多くのサプライヤにより作成され統合されています。AUTOSARは、これらのソフトウェアを容易に、安全に、確実に統合させるためのソフトウェアの構造の定義と基本ソフトウェア、そして統合させる仕組みと統合システムから成ります。これにより、各サプライヤのソフトウェアは、定義に従った開発を行い、容易に車載ソフトウェアの一部として統合することが可能なります。
AUTOSARの仕組みと様々なシミュレーション機能が連携することにより、統合オープンシミュレーション環境を構築することができます。新たな企画のための試作開発において、新規の機能を持つ処理やサービス機能とハードウェアのみの開発を行い、できる限りAUTOSAR上の既存ソフトウェアを利用し、さらにシミュレーションに必要な機能の情報に対応するAUTOSARの設定をシミュレータ連携処理に切り替えることにより、高度な実車運転に近いシステム評価が行えるようになります。
統合オープンシミュレーション構造の基本的な構造を図に示します。AUTOSARソフトウェア構造のアプリケーション層にシミュレータ連携ソフトウェアを構築します。シミュレータ連携ソフトウェアは、AUTOSAR ECU上の情報をCAN通信によりシミュレーションベースシステムに送ります。シミュレーションベースシステムは、ドライブシミュレータを中心に交通網のための車群シミュレータや各種サービスシステム、あるいは、シミュレーションデータベースや分析のための計測記録データベースと連携します。計測記録データベースは、評価中のドライバーの生体情報などの測定情報をシミュレータ連携処理からシミュレーションベースシステムを通じて収集記録します。蓄積された評価結果は、AIを用いたダイナミックな分析によりシステムの有効性や新たな気付きを抽出できます。



■フォーラムエイトの取り組み
AUTOSAR上のアプリケーション層にシミュレータ連携ソフトウェアを開発し、CAN経由でAUTOSAR ECUとドライブシミュレータであるUC-win/Roadが連携できるシミュレーションシステムの開発を行いました。UC-win/Roadは、運転情報や制御情報を取得しマルチモニタによりVRによる走行シミュレーションを行うだけでなく、音響装置や振動装置と連動し限りなく実運転に近い環境を適用できます。また、交通流シミュレーションや車線からの距離の管理なども行え、視線追跡などとも連動ができます。AUTOSARソフトウェアとUC-win/Roadを連携することにより、AUTOSAR上の既存ソフトウェアを活用した様々な実車に近い運転実験シミュレーションを行うことが可能になります。
フォーラムエイトは、UC-win/Roadをベースに、車社会のDXに向けた様々な車社会の統合オープンシミュレーション開発環境の開発と車載ソフトウェア開発を支援させて頂きます。


超スマート社会のためのシステム開発
~日本のものづくりを足元から見直しませんか~
・・・第4次産業革命を実現する“コト”の生産技術革命・・・
(システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注会社/受託会社のために)



■著者 : 三瀬 敏朗 
■発行 : 2018年11月
■価格 : \2,800(税別)
■出版 : フォーラムエイトパブリッシング
約30年間に渡って大手メーカー新規商品、特注品、試作機やマイコンソフトウェア等の受託開発に携わった豊富な経験にもとづいて、これからのスマート社会を支える上で不可欠な組込システム開発の考え方・知識・手法を紹介。システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注/受託に関わる方は必読の手引き書です。

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