本連載は、「システム開発」をテーマとしたコーナーです。フォーラムエイトのシステム開発の実績にもとづいて、毎回さまざまなトピックを紹介していきます。今回は、建設現場での重機のオペレーター不足等の課題を解決する糸口として、VRとラジコン連携によるバーチャル/リアル対応重機シミュレータについてご紹介します。

VRとラジコン連携によるバーチャル/リアル対応重機シミュレータ

はじめに

重機のオペレーター不足は建設業界にとって喫緊の課題であり、効果的な技術者養成が求められています。実際の建設現場で本物の重機を用いて訓練する場合、多大なコストが掛かってしまうため、VRで模擬環境を構築することが望ましいと考えられます。このような課題を解決する糸口として、今回はVRとラジコン連携によるバーチャル/リアル対応重機シミュレータ以下、本シミュレータの開発事例をご紹介いたします。

シミュレータ概要

本シミュレータは、VRとラジコンが連携することで、コックピット操作によってバーチャル/リアルのバックホウ操作を実現しています。

VRシステムの機能を見ていきましょう。弊社が開発した3DVRソフトウェア「UC-win/Road」および関連プラグインを用いています。ジョイスティックによる重機の運転操作とモーションシートから受ける運転操作中の傾きや振動が特徴です。さらに、VR上にバックホウモデルを配置し、走行やアーム昇降などの動作機能によって、仮想空間での操作模擬が可能となります。

ラジコン側では、組込システムであるRaspberry PiとArduinoを接続しています。Raspberry Piはジョイスティックと接続しており、VR/ラジコンいずれかのバックホウ操作を分配する役割を担っています。Arduinoはラジコンのバックホウに操作信号を無線通信で送ります。これにより、ジョイスティックの操作がラジコン型バックホウに伝達されます。

VRのバックホウモデルとラジコン型バックホウの操作切替えは簡単で、ラジコンのスイッチをONにするだけでラジコンのコントローラ操作に切り替わります。

同じジョイスティックでVRと現実(ラジコン)の操作が可能となり、UC-win/Road上のVR空間、ラジコンに取り付けた広角カメラの映像のいずれかがコックピットを覆うように設置された球面スクリーンに投影されることによって、没入感の高い重機シミュレーションを可能にしています。

図1 システム概要

組込システムの開発

(1)ArduinoとRaspberry Piによる組込システム開発

本システムを実現するにあたり、ジョイスティックの入力をUC-win/Roadとラジコン駆動用マイコンの2つに配信する必要があります。そこでRaspberry Piを使用して操作入力を受け付け、UC-win/Roadと回路制御用のArduinoに送信する仕様としました。

(2)Raspberry Piによる操作受付・配信機能

Raspberry Piではジョイスティックの入力を取得するように実装しました。ジョイスティックの入力をUC-win/RoadとArduinoに対してそれぞれTCP/IP通信とUART(シリアル)通信を用いて操作量を送信できます。

(3)Arduinoによる回路制御機能

Raspberry Piからジョイスティックの入力をArduinoが受信し、操作内容に応じたリレーの接点を切り替えることでラジコンに動作指令を送ります。

ラジコンの操作チャンネル数(操作の種類)分のリレー駆動用の電力を確保するために、2台のArduinoを連携し、制御を分担しました。2台間の操作入力の共有はI2C通信によって行われます。

(4)ラジコン送信機の改造

ジョイスティックによってバックホウラジコンを操作するため、ラジコン付属のコントローラ回路の改造を行いました。コントローラの各ボタンやレバーの稼働による接点のON/OFFをプログラムによって制御するために配線を引き出してArduinoと接続し、ラジコンがジョイスティック経由で操作可能になりました。

図2 組込システム配線

展示会での操作体験

本シミュレータは、2024年9月11~13日に大阪で行われたJAPAN BUILD 建設DX展にて「バーチャル建機教習所」として、建設ITワールド様企画のもと、Paper Dome様、平賀建設様と共同で展示を行いました(本誌イベントレポートに掲載)。

VRシミュレーションによる操作練習や掘削体験、実機(ラジコン)による遠隔操縦体験の2パターンを体験でき、ガチャガチャのカプセルをラジコンで拾うミニゲームも交えながら多くの方に体験頂きました。

図3 VRシミュレーションで土を掘削

図4 ラジコンによる土の掘削模擬

図5 展示会のラジコン型バックホウ

図6 展示会のVRバックホウ

おわりに

VRとラジコン連携によるバーチャル/リアル対応重機シミュレータの開発事例をご紹介しました。今回は展示用のためラジコンによる模擬現場を構築しましたが、システムを拡張することで様々な分野に応用できます。

無線通信ではなくインターネットを経由した手段に変更し、実機と相互通信が行えるようになれば、遠隔地からの操縦が可能になります。例えば、オフィスから現場の重機を遠隔操縦、現場の重機視点や作業員視点では確認できない広範囲の施工状況の確認、遠隔地からの教育訓練システムなど、デジタルツインの環境構築により業務効率化が期待できます。今後の開発にぜひご期待ください。

(Up&Coming '25 新年号掲載)



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