2024年映画ベスト5+今年の映画総括「継続は力なり」

今年もこの時がやってまいりました。昨年は配信含め90本の新作を鑑賞(11 月末時点)。絞りに絞ったベスト5とともに、今年の映画総括について語っていきます。

5位: ナミビアの砂漠

史上最年少でベルリン国際映画祭に招待され、世界から注目される山中瑶子監督の最新作。主演はドラマ「不適切にもほどがある!」でお茶の間を沸かせた女優・河合優実。学生時代に監督の作品を見て一目惚れ。監督に直接会いに行き、「女優になります」と手紙を渡し、今作のタッグに繋がったそう。まるで映画のような話が、現実に起こったのです。

脱毛サロンで働く河合優実を中心に若者の日常が描かれていくのですが、誰が見ても主人公には共感できない。常にやり場のない感情を抱き、突然烈火のごとく怒り出す。若さ故の過ち、では説明できない理解不能な行動に、周囲のキャラも観客も圧倒されてしまいます。鋭度の高い刺激的な会話劇にも注目。唯一無二の青春映画です。

日本映画 上映時間:137分 配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:山中瑶子 出演:河合優実、金子大地ほか

4位: シビル・ウォー アメリカ最後の日

19世紀半ば、アメリカが南北で分断された南北戦争。内戦という意味で「シビル・ウォー」とも呼ばれますが、今作はもし今のアメリカに内戦が起きたら?というifの物語。主人公は軍に属さない報道記者の立場。実は監督自身も報道記者志望であり、自分がもし記者になれたなら、という想いも込められています。

どこか見覚えのある風体の大統領の演説シーンから始まり、あまりにもリアルな内容。一番印象的だったのは戦争に参加している市民。軍隊のように制服も規律も存在しない中で、私服で談笑しながらの銃撃戦、戦争を大義名分に非人道的な行為に没する無法者。普通の戦争映画では絶対に見られない光景がそこにありました。

アメリカ映画 上映時間:109分
配給:ハピネットファントム・スタジオ 監督:アレックス・ガーランド
出演:キルステン・ダンスト、ケイリー・スピーニーほか

3位: 猿の惑星/キングダム

1968年にヒットした「猿の惑星」シリーズ。2011年にリブート(リメイク)が始まり、2017年にその幕を閉じたはずでした。しかし、2024年になぜか新章が再スタート。完全に終わったはずだったのに、大丈夫なのだろうか…と心配しましたが、見事に杞憂に終わりました。

前作よりも遥かに猿の知能が高度化し、「文明」を形成する時代に。一方の人類は文明を失った野人と化し、一部の知識人は「王国」を築いた猿に仕える身となってしまう。人間と猿が完全に形勢逆転した中で、主人公の青年(猿)が大冒険を繰り広げるアドベンチャームービーです。

アメリカ映画 上映時間:145分 配給:ディズニー
監督:ウェス・ボール 出演:オーウェン・ティーグ、フレイヤ・アーランほか

2位: クワイエット・プレイス: DAY1

3位の「猿の惑星」と同じく、終わったはずのシリーズの仕切り直しとして撮られた作品。前回は家族が主人公でしたが、今回は全く新しい女性主人公が描かれます。音に反応する得体の知れないモンスターとのサバイバルを描きながらも、共に逃げる男女2人の人間ドラマも絶妙に挟まれる。

壊れゆく日常の中で温め合う2人の関係性。音を出さなければ、何事もなく幸せに暮らせるのに…。NYを舞台に繰り広げられるド派手なモンスター映画と、繊細なヒューマンドラマが見事に融合した奇跡の映画です!

アメリカ映画 上映時間:100分 配給:東和ピクチャーズ
監督:マイケル・サルノスキ 出演:ルピタ・ニョンゴ、ジョセフ・クインほか

1位:動物界

人間が動物に変形する恐ろしい疫病が流行している設定のフランス・ベルギー映画。徐々に羽が生えたり爪が伸びたり、最後は言語さえも失い完全に動物になってしまう。デフォルメされた可愛らしい動物人間ではなく、リアルな動物と人間の「界」≒境界を描いています。

母が病により動物になってしまい、父と2人暮らしの息子が主人公。転校先の学校で楽しい学校生活を始めるも、徐々に自身も動物へと変形していく。一般に人間と動物が混じった存在は、神話のケンタロウスだったり狼男だったりと現実から浮世離れしたものになりがちです。しかし今作は、動物化した人間に対する人種差別や医療福祉など、現代に通じる社会問題を想起させます。そして、何よりも最後の着地点が素晴らしい。一見するとジャンル映画的にも思える内容を、深い家族愛と人間愛溢れるドラマに仕上げています。圧倒的でした。

「動物界」 絶賛上映中 配給:キノフィルムズ
© 2023 NORD-OUEST FILMS - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINÉMA - ARTÉMIS PRODUCTIONS.
フランス・ベルギー映画 上映時間:128分 配給:キノフィルムズ
監督:トマ・カイエ 出演:ロマン・デュリス、ポール・キルシェほか

今年の映画総括:「継続は力なり」

今年の新作映画は、思わず「なぜ今になって?」と感じる作品が多かったように思えます。2000年代を彷彿させるラブコメディを描いた「恋するプリテンダー」。「ソウX」や「エイリアン:ロムルス」は数十年続くシリーズの最新作。70歳を超えてもなお軽快に動き続けるタカ&ユージの「帰ってきた あぶない刑事」。フジテレビでは「室井慎次」シリーズが令和になって復活。また、本記事3位・2位に入っている作品も、既に終わったものだと思っていたシリーズがまさかの復活を遂げたのです。

驚くべきことに、そのどれもが面白い…。次々と新作が生まれては消える中で、常に高いパフォーマンスを出し続けることに脱帽です。まさしく、継続は力なり…。



(Up&Coming '25 新年号掲載)

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