いつまでも変わらぬ愛を 夫婦映画特集

前号では「愛の映画特集」をお送りしましたが、今回は夫婦映画をお届けします。私事ではございますが、先日入籍いたしました。良い夫婦とは何かを改めて考えるようになり、筆を取った次第です。付き合っていた頃とは異なり、夫婦になって気付くことが沢山あると思います。良いことも、良いことではないこともすべて…。

結婚前後で関係値に大きな変化がある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、どんな困難が待ち受けていても、いつまでも変わらぬ愛を貫き通したいものです。夫婦映画を通して、しっかりと学んでいきましょう。

目と目を合わせることの難しさ
「LOVE LIFE」

住宅団地に住む、ごくごく普通の3人家族に舞い込んだ凄惨な事故から始まる人間ドラマ。カンヌ国際映画祭の常連である深田晃司さんが監督しています。会話シーンがメインで派手さは無いものの、わずかな視線の切り替えや会話のボタンの掛け違いによってキャラクターの心情を説明する、最小限の演出で最大限の効果を見せている巧みな映画です。

突然飛び交う手話や主題が見えないようにも感じますが、今作のテーマはごく単純で「二人が目線を合わせ向き合うこと」、それだけです。夫婦という関係性だからこそ、難しい時もあるのかもしれません。互いに言いたいこと言えない。だから話さない、向き合わない。そんな時こそ見つめ合うことを大事にしたいものです。

2022年製作 日本映画 上映時間:123分 配給:エレファントハウス
監督:深田晃司 出演:木村文乃、永山絢斗、山崎紘菜ほか

演技とは思えぬ妻の佇まい
「マリッジ・ストーリー」

夫婦の離婚調停中のドタバタを描いた都会派コメディ。決して離婚を悲観的な描き方でなく、あくまで「ネタ」にしている冒頭のシーンで大爆笑し、グッと心を掴まれます。

また、今作で注目すべきは役者の演技。夫を演じたアダム・ドライバー、妻を演じたスカーレット・ヨハンソン。スターウォーズのカイロ・レンとアベンジャーズのブラック・ウィドウ…なんともド派手なカップルに見えますが、今作では演技派の面が際立ちます。

二人の出会い、結婚生活、そして離婚へと至るまでの積年の怒りを、ワンカット長回しで5分以上に渡って語り、最後には自然と涙を流す。私としては、妻が怒りを溜めないように、真􄼨に向き合うことだけです…。

2019年製作アメリカ映画上映時間:136分制作:Netflix
監督:ノア・バームバック 出演:アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソンほか

最後の一言で背筋が凍る
「ゴーン・ガール」

数ある夫婦映画の中でも、最も恐ろしい作品ではないでしょうか。幸せな生活を送っていた夫婦。しかし、ある日を境に妻が行方不明になってしまう。必死になって妻を捜索するも、全く糸口が掴めない夫。

最初は完全なミステリーなのですが、中盤から夫婦映画にシフトチェンジします。詳細は本編を観て頂きたいのですが、夫婦として「日頃の行い」がいかに大切か、よく分かる作品になっています。妻が失踪する前の回想シーンでは、夫とはじめて出会った時から結婚するに至るまでの生活が妻視点で描かれていきます。どんな時でも夫は表面上「良き夫」に見え、夫としても「良き夫婦」だと思っているのですが、どうやら妻の見方は違っていたようで…。とある人物の最後の一言は、夫の背筋が凍ること間違いなしです。

2014年製作 アメリカ映画 上映時間:148分 配給:20世紀フォックス映画 監督:デビッド・フィンチャー
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイクほか

ずっと初恋の気持ちで
「ファーストキス 1ST KISS」

結婚15年目。倦怠期で不仲な状態の中、突然夫が事故で亡くなってしまう。第2の人生を歩もうとした矢先、ひょんなことからタイムトラベルが可能になり、夫と初めて出会った時まで遡ってしまった。改めて夫と向き合い、もう一度恋に落ちようと決意するも…。

突拍子もないSF設定と恋愛要素の組み合わせは沢山ありますが、夫婦の関係性に着目した映画は珍しいと思います。タイムスリップ先の夫は妻を全く認知しておらず、夫に振り向いてもらおうと必死に努力する妻に泣き笑いできる作品です。特に今作を観て感じたのは、常に初恋の気持ちで妻に向き合うこと。ずっと近くにいる人だからこそ、敬意を払って一緒に居てくれることの感謝を伝えることが大切だと強く思いました。

また、妻を松たか子さん(現48歳)、夫をSixTONESの松村北斗さん(現30歳)が演じています。全く年齢差を感じさせず、どの年代でも同い年の夫婦(カップル)に見えるのも素晴らしかったです。

2025年製作日本映画 上映時間:124分配給:東宝 監督:塚原あゆ子
脚本:坂元裕二 出演:松たか子、松村北斗、吉岡里帆ほか

人生は、◯◯だ
「永い言い訳」

突然の交通事故によって妻を無くした夫。長年連れ添った妻だったが愛情と呼べるものは持ち合わせおらず、妻が亡くなっても悲しみに暮れることができない。そんな中、同じ交通事故で妻を失った家族と交流を深め、なぜか共同生活を始めていく。

インテリで傲慢。社交的なため表面上は良き人に見えるが、決して他人に心を開かない。たとえ、妻でさえも。そんな夫が他者と交流して心を開くまでの映画です。夫のキャラクター造形は少し異様にも見えますが、自己開示が苦手という点では多くの男性に通じることではないでしょうか。

単に妻への興味がなかった訳でなく、人間に対する興味がなかった。他の家族という、ただでさえ干渉してはいけない領域に主人公が踏み込んでいく。2時間をかけて夫の心境の変化を味わえる映画です。最後に夫が手帳に書く「人生は、◯◯だ」には心が揺れました。妻を無くした夫は、人生に何を思ったのか。ぜひ本編で確認してください。

「永い言い訳」(C)2016「永い言い訳」製作委員会
配給:アスミック・エース
2016年製作 日本映画 上映時間:124分 配給:アスミック・エース
監督:西川美和 出演:本木雅弘、深津絵里、竹原ピストルほか



(Up&Coming '25 盛夏号掲載)

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