vol.4 (最終回)

コミュニケーションは、想像力(イメージ力)

~相手とどう関わりたいか、相手に何を伝えたいかが、表情、態度、声に表れる~

株式会社パーソナルデザイン 代表取締役

唐澤 理恵 Rie Karasawa

プロフィール

お茶の水女子大学被服学科卒業後、株式会社ノエビアに営業として入社。1994年最年少で同社初の女性取締役に就任し、6年間マーケティング部門を担当する。2000年同社取締役を退任し、株式会社パーソナルデザインを設立。イメージコンサルティングの草分けとして、政治家・経営者のヘアスタイル、服装、話し方などの自己表現を指南、その変貌ぶりに定評がある。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科経営学修士(MBA)、学術博士(非言語コミュニケーション論)。

安倍改造内閣の各閣僚が発表されました。もっとも注目された小泉進次郎さん。新顔ぶれへの囲み取材では、小泉さんへの取材は18分でしたが、他の新閣僚に対する取材は1~5分とのことですから、その人気ぶりは圧倒的です。彼がなぜこれだけの注目を集めるのか。恵まれた容姿のほか、歯切れのよい声、話し方にはお父様に似た独特の個性があります。さらに、原稿を見ることなく自分の言葉で語る姿勢、話の内容についても具体的な情景がイメージしやすいように工夫され、聴き手を惹きこむ魅力があります。これまでの日本の政治家にはいないタイプです。

 

長期政権を続ける安倍首相も恵まれた容姿ですが、第一次安倍政権では人気が失速。結局、辞任されるわけですが、あのころから自身の印象変革を考えていたようです。第二次安倍政権では髪形を変え、スーツを見直し、ネクタイの結び目も変わりました。さらに、身振り手振りをつけたスピーチ、口元が小さいためか滑舌がよくない安倍首相ですが、口の開け方を工夫して、かなり滑舌はよくなりました。世界のリーダーにも見劣りしない堂々とした雰囲気は努力の賜物と言えます。

 

一方、経済界で注目に値するのが、トヨタの豊田章夫社長です。官僚的な真面目ないでたちだった同氏ですが、ここ数年でガラッと印象が変わりました。サイドを刈り込んだすっきりとした髪形、眼鏡を太い黒縁セルフレームに変え、スーツはからだのラインに沿った若々しいスタイルに変わりました。スピーチにおいては、身振り手振りを交え、間の取り方、目線などもかなりトレーニングされたのだと推察します。テレプロンプター(※演説や放送などで使われる原稿表示装置)を上手く活用されている点も見逃せません。

 

このように、プレゼンテーションを苦手としてきた日本のリーダーたちも、グローバル化の下、次第に意識が変わってきました。20年前に使命感をもって、この仕事を始めた私にとって嬉しい限りです。

 

さて、彼らはコンサルタントやトレーナーをつけてご自分の印象変革をしてきたわけですが、そこまでは・・・・・・という方のために、パーソナルデザインの総括的なポイントをお伝えします。

個性とともに、清潔感が大切です

パーソナルデザインの目的は、コミュニケーションを豊かにスムーズに進めるためですから、まずは自分が何者であり、どんな人物なのかを第一印象でわかりやすく相手に伝えることが第一歩です(※図1)。高度経済成長時代のように集団に群れ、一働きバチとして目立たないように生きる時代ではありません。個性を活かすことこそ、パーソナルデザインの真骨頂です。個性とは、なにも飾り立てることではなく、地味なスタイルであっても独自の個性になれば良いのです。例えば、菅官房長官はとても地味なスタイルです。髪形を変えればこんな印象になるに違いないと想像している私ですが、あの方の個性を考えると、現職の間は今のままで良いでしょう。現に「令和おじさん」と呼ばれ、若い人たちに「かわいい」とまで言わしめる存在感は大したものです。

菅さんがなぜよいのか。それは清潔感があるからです。地味で無造作なスタイルで清潔感がなければいけません。一方、流行のファッションを着こなし、髪をビシッとスタイリングしていても清潔感のないビジネスマンも少なくありません。

女性でも、エクステ(※地毛に化学繊維などを接続して装着することで長く見せる手法)まつ毛に、厚塗りファンデーション、真っ赤な口紅などのパーティメイクをビジネスの場で施している人をみかけますが、残念ながら清潔感があるとは言えません。では、清潔感とはなにか。

人間が感じる感覚だけに一言では表現しにくい清潔感ですが、毎日、鏡を見て、身だしなみを整え、きちんと折り目正しい自分を演出しているかどうかです。無駄なものを排除して、すっきりとありのままの自分(外見(1))を活かしながら、付随物(外見(2))を整えているかどうかという意識にかかっているといえるでしょう。(※図1参照)

図1 スムーズで豊かなコミュニケーション

視覚情報より聴覚情報が重要?!

講演会の講師が登場した瞬間、聴衆は視覚情報である姿勢や歩き方、髪形、顔、服装などから第一印象を捉えます。魅力的な講師であれば、十分聴く気になるでしょう。しかし、見た目では惹きつけられなくても、知識欲がある限り、聴く気は失せるものではありません。視覚が進化した私たち人間は、パッとしない服装を着ている人に対して、この人も服装を変えればいくらでも変化することを理性的に知っているのでしょう。

しかし、聴覚情報は視覚情報ほど甘くはありません。視覚よりも本能的な影響力を持つ聴覚は、もっとシビアに聴衆に働きかけます、つまり、嫌な声は聴いていられないのです。例えば、風邪をひいて苦しそうに話す講師の話は、聴衆も苦しく感じます。男女の恋愛も相手の声が大きく影響するといいますが、聴覚は非常に原始的な感覚であり、視覚よりもコミュニケーションの結果を左右すると言っても過言ではありません。服装は変えられても、声は簡単には変えられない。つまり、その人そのものであることを本能的に感じているのでしょう。

肉体が奏でる声こそ、あなたそのもの

赤ちゃんは、『おぎゃ~』と泣いてこの世に誕生します。最初の肺呼吸による吐く息が第一声です。そして、亡くなるときは息を吸って、この世を去ります。「息をひきとる」とはそういう意味です。つまり、吐くという行為こそ生命エネルギーのなせる業。その吐く息に声帯でつくられた音が載り、声となります。元気が良いかどうかは声を聞けばわかると言うのも、吐く息の力強さによるところが大きいでしょう。

また、お相撲さんの声は低く、からだの小さい人の声は細く高いと言われます。管楽器で言えば、小さなピッコロの奏でる音は高く、大きなチューバは低い音を奏でるように、人間もからだの大きさによって声の高低が変わります。また、男女の声の違いは、声帯の大きさや太さによるものです。

プロの声楽家は毎日のボディトレーニングを欠かしません。足腰の筋肉もさることながら、体全体の柔軟性が声に大きく影響します。ある声楽家にボイストレーニングを受けたときのこと。先生が「理恵さん、左側の股関節、硬いでしょ?」と尋ねます。「どうしてわかるのですか?」と返すと、「発声を聞けばわかるわよ」とおっしゃる。つまり、もともとの体格のほか、からだの状態によって声が変わるのです。さらに、緊張すれば声が上擦ったり、失語症は脳との関連で声が出なくなる病であることからも、心理状態によっても声は大きく影響されるのです。つまり、からだの構成要素が声をつくる。からだそのものが楽器と言えます。

声を磨く

健康状態や心理状態まで相手に伝わってしまう声だからこそ、ビジネスパーソンは声をおろそかにはできません。からだが楽器なのですから、楽器であるからだを磨く必要があります。楽器が安定していないと良い音を奏でないように、からだも安定第一です。そのため、足腰を安定させること。日々のトレーニングとして『粘り腰エクサイズ』(※図2参照)をお薦めします。私は20年間、毎朝実行しています。

図2 粘り腰エクササイズ

上半身がリラックスしていることも大切です。肩が凝ったり緊張しているときに多い堅い声は聴衆を緊張させてしまい、頭で理解したが腑に落ちないという結果を生んでしまいます。上半身をリラックスさせるには、肩回しや、振り子のように両手を前後左右に振る運動です。五十肩防止にも効果がありますから、ぜひ毎日実践してみてください。

さらなるポイントは腹式発声です。一朝一夕でできるものではありませんから、深呼吸を習慣化し、日常の呼吸は横隔膜を意識し、その吐く息に声を乗せるイメージをもって発声しましょう。深い呼吸によって緊張状態もほぐれ、心理的にリラックスできるうえに、堂々とした印象を醸し出します。声を磨くためにはからだを磨く! それに尽きます。

表現力を高める

通常会話に必要なボキャブラリーは、日本語が10,000語に対して、フランス語は2,000語、英語は3,000語、ドイツ語は5,000語だそうです。圧倒的に語彙数が多い日本語を勉強する外国人にとって、その習得は容易ではありません。一方、国際会議の場で、身振り手振り表情豊かにスピーチする欧米人と比較し、日本人はなんとも表現力に乏しいというのは誰もが感じていることです。声の抑揚や高低強弱が少ないのは、言語だけで相手に詳細を伝えられるからなのでしょうか。単一民族単一言語であること、また、その多い語彙数のおかげで、平坦な話口調、発声が身についてしまったのかもしれません。

しかし、語彙数が多い日本語だから表現力が乏しいのは仕方がないというのも拙速のように思います。というのも、歌舞伎や人形浄瑠璃の唄いの人たちの表情も声も、とても表現力豊かです。彼らは口を大きく縦に開いて唄いますが、実は、日本語の母音「あいうえお」は口を縦に開いて発声することで、滑舌もよく、響き渡る音になると長唄奏者は言います。さらに、顔が平坦で表情の鈍い日本人も口を縦に開けることで豊かな表情になるそうです。

豊かな表情力こそ感染力となる!

あなたは、初デートのときのことを覚えていますか。初デートの次の日、仕事をしていても自然に顔がにやけてしまう自分に気がついた経験はありませんか。

私たちは意識的に表情をつくることもできますが、無意識につくられている表情もあります。ポートレイト撮影の際、自然な笑顔まで時間がかかります。最初は不自然な笑顔だった人も慣れてくると次第に自然な笑顔に変わっていきます。つまり、最初は緊張して意識的な笑顔しかできない人も、カメラマンとのやりとりを繰り返す中で緊張感がほぐれ、無意識にでる自然な笑顔に変わっていきます。意識的につくられた笑顔では観る人を惹きつける魅力的な写真にはなりません。赤ちゃんの笑顔に誰もが惹きつけられるように無意識にでる笑顔こそ感染力につながります。

社長だから威厳をださないといけない、部下に尊敬されなくてはいけないという気持ちから意識的に表情をつくっても相手には感染しません。一方で、意識的に笑顔をつくりながら接しても、無意識に相手を馬鹿にしたり蔑んだりしているとそれが表情にでてしまい、パワハラやセクハラの原因をつくってしまうこともあるのです。感染力のある無意識からの表情だからこそ、無意識そのものからでる表情を引き出すことが重要です。

謝罪会見においては、心の底から謝罪する気持ちがなければ、観る側にもそれが伝わってしまうということです。

目は口ほどにものを言う

コミュニケーションにおいて、アイコンタクト(※視線と視線を合わせること)は大切なマナーです。国際社会では相手と視線を合わせて握手を交わしますが、思わずお辞儀をしてしまいがちな日本人は視線を合わすチャンスを逃してしまうこともありそうです。では、なぜアイコンタクトが重要なのでしょうか。

愛犬と話をするときに互いに目があうのは普通のことです。ほ乳類全般において、互いの目を見ることは、まさに非言語コミュニケーションの一形態です。アイコンタクトによって相手の考えていることや感じていることをつかみ取る直観力が高まると言われます。

まさに無意識に行われる偉大な力です。スピーチの最中、聴き手と視線を合わすことで相手の理解度を感じて、話の内容を組み替えていくこともアイコンタクトの効果です。

ちなみに、相手と視線を合わすと嘘をつけなくなるようです。浮気した夫に「あなた、私の目を見てそれが言えるの!」というドラマのシーンがありますよね。アイコンタクトによって内面を見透かされているように感じてしまうのでしょう。ですから、過度なアイコンタクトも逆効果。通常、アイコンタクトは3秒前後が適当な時間とされますので、注意しましょう。

私たち日本人は照れがあり、アイコンタクトは苦手という人が多いようですが、今後ますます求められる価値観の異なる相手とのコミュニケーションにおいて、アイコンタクトを活用しないわけにはいきません。

ボディランゲージが語るあなたの感情

3歳に満たない子供たちが幼稚園の砂場で遊ぶ様子をみていると、元気な子供たちは胸が広がり、意気揚々と遊びます。一方、元気のない子供たち、心なしか肩が下がり、胸を狭めてひとりで砂いじり。誰に教わるでもなく自然にその時の感情がからだの動きに表れます。そして、それを見ている相手に情報を提供し、コミュニケーションの材料となります。これこそがボディランゲージという非言語情報です。

このボディランゲージも表情と同じように意識して行う場合もあれば、無意識に行っている場合もあります。からだを揺すって話す癖、顔を手で触る癖、猫背は長い間の癖によってつくられた姿勢です。この癖も実は内面を表すものであり、だからこそ、相手からすれば貴重な内面情報です。ちなみに、人と話す時に最初から腕組をしてはいけません。

腕組みは、ボディランゲージでは「拒絶」を意味します。外からの情報を排除し、自分の頭の中で整理する心理状態です。相手がとても話しにくい態度です。そのほかにも、夏の暑い日に扇子で仰いだり、ボールペンをクルクル回したり、足で拍子をとるなど相手の話を真摯に聞く姿勢ではありません。こういったボディランゲージがコミュニケーションの妨げとなり、誤解を生んでしまう場面も少なくありません。

コミュニケーションは、想像力(イメージ力)

体操の内村航平選手が大会前に行うイメージシミュレーション。優れたアスリートたちが欠かさないイメージトレーニングこそ、良いパフォーマンスを生み出す効果的な手法です。睡眠中、夢を見るように脳裏に映像を浮かべることが、まさにイメージすることです。

アスリートは成功したイメージを明確に脳裏に描き、パフォーマンスを高めていきます。失敗するイメージが湧いてくることもあるでしょう。しかし、それを成功するイメージが打ち負かす。だからこそ、イメージトレーニングが必要なのです。

コミュニケーションやスピーチも、アスリートのパフォーマンスと同じです。例えば、会話するときに、相手とキャッチボールするイメージを描きます。どうイメージするかで会話の効用が変わるのです(※図3参照)。また、実際のキャッチボールでも投げたボールは見ている方に飛んでいくと言いますが、アイコンタクトがその役割を果たします。

図3 会話中に行うイメージトレーニング

スピーチのとき、聴衆を巻き込み、情報を共有しているイメージをもてるかどうか。プレゼンテーションのとき、自分がお薦めしたい商品の使い方や使っている消費者が効用を得ている場面が明確にイメージできているかどうか。人にすすめたいラーメンの映像、香り、味わい、店の雰囲気までも明確にイメージしているかどうか。それが共感を生むのです。

そして、このイメージ力が自然な表情に繋がり、身振り手振りを誘導し、ひいては聴衆を巻き込む説得力・共感力となり、コミュニケーションが豊かなものになっていきます。小手先ではない内面からにじみ出る表現が大切なのです。

ここまでお読みいただいた皆様は、パーソナルデザインとはファッションやおしゃれの話ではないことをお分かりいただいたと思います。図1の外見(1)(2)(3)すべてがパーソナルデザインを創造します。外見(1)(2)は意識によって如何様にも変わります。しかし、外見(3)は内面が大きく影響し、意識だけではどうしようもありません。つまり、100%完璧なパーソナルデザインに到達することはないのです。言い換えれば、パーソナルデザインの創造は一生続きます。紙面でお付き合いいただいた皆様が、これからの人生においてパーソナルデザインを楽しみながら実践していただくことを願い、筆を擱きます。
1年間『パーソナルデザイン講座』をお読みいただき、ありがとうございました。

(Up&Coming '19 秋の号掲載)