vol.5
色を味方につけて、相手の「心」をつかむ
株式会社 パーソナルデザイン
プロフィール
唐澤理恵(からさわ りえ)
お茶の水女子大学被服学科卒業後、株式会社ノエビアに営業として入社。1994年最年少で同社初の女性取締役に就任し、6年間マーケティング部門を担当する。2000年同社取締役を退任し、株式会社パーソナルデザインを設立。イメージコンサルティングの草分けとして、政治家・経営者のヘアスタイル、服装、話し方などの自己表現を指南、その変貌ぶりに定評がある。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科経営学修士(MBA)、学術博士(非言語コミュニケーション論)。
あなたが毎日身につける色、どんな基準で選んでいますか?
その日の気分ですか?それとも狙いをもって選んでいますか?
ある男性ファッション誌のアンケート調査によると「上司が部下に着てほしいスーツの色」はダントツに「ネイビー」(54%)でした。第二位が「チャコール」で26%。無難と思われるグレーは11%、黒は9%でした。
さらに「好印象なVゾーンのイメージは?」という問いに、半数が「さわやかなブルー系」と答えています。
重要な商談に同行させる部下の外見印象は、上司にとってみれば本人以上に大切なものです。上司は、部下に「若々しいフレッシュさ」「信頼感、清潔感」のあるブルー系の装いを望んでいるのです。つまり、色には想像以上に相手側の期待があるということです。
青色を味方につける
謝罪会見におけるネクタイは濃紺、あるいは紺が定番です。大企業の社長就任時のトレーニングとして開催される模擬記者会見で必ず教わる内容です。濃紺か紺のネクタイを揃って締めて謝罪している経営陣の姿をテレビでみたことのある人は少なくないと思います。20年前はそうでもなかった謝罪時の濃紺タイですが、皮肉にも謝罪する会社が増えてきたここ10数年で、多くの経営者が学んだようです。
ともかく、青には神経を落ち着かせ、血圧を下げる働きがあります。青い空や海を見ていると、ゆったり時間が過ぎ、リラックスできますね。謝罪会見時のネクタイ以外にも、その心理効果を利用しているのが、バーカウンターの青い壁や熱帯魚が泳ぐ水槽です。それだけ、青や紺は人を安心させる色なのです。
警備員やパイロット、電車の運転手、警察官など、何よりも「堅実・安全」が求められる職業の制服に紺が多いのはそのためです。制服の色は職業観の表現。だから、シンプルで明確なイメージを伝えられる色が選ばれるのです。
第二次安倍内閣でどんどん自信をつけていった往年の安倍元首相がよく身に着けられていたのが、明るめのネイビースーツです。明るい青には、「快活さ」のイメージが加わり、スポーツ選手のユニフォームにもよく使われます。明るく前向きな印象が、当時の安倍首相にはぴったりのイメージだったのでしょう。今でも鮮やかに記憶に蘇ります。
すべての事象は一長一短。青が持つポジティブな印象は、「落ち着き・格式・堅実性」ですが、同時に「保守的・堅苦しい」というネガティブイメージを併せもっていることを知っておく必要があります。とにもかくにも、青い色を「落ち着き」や「堅実性」を表現したいビジネスシーンでフル活用するに限ります。
赤色を味方につける
あなたはどんなときに真っ赤な色を身に着けますか?真っ先に浮かぶのは、還暦祝いの赤いチャンチャンコでしょうか。最近では、赤いドレスでディナー、なんていうマダムも多いようです。東京の巣鴨商店街には、赤い下着を販売している店が並び、高齢者が赤い下着をまとめて買っていくようです。赤には、青とは逆に精神を高揚させ、血圧を上昇させる働きがあります。直接肌につけるふんどしや腰巻、巣鴨の下着はこうした赤い色の効果を取り入れるためでしょう。
色は光の波長によって、視覚では色としてとらえますが、実は肌でもその色の波長を感じています。赤外線など赤い光には熱を感じるというのも同じ原理です。赤だけでなくすべての色には波長があり、それを私たちの肌がとらえている。非常に興味深い現象です。
ダイナミックで情熱的、大胆さを感じさせる赤を味方につけるには、決起大会のように歓喜を誘う環境や戦いの場面で取り入れることです。戦国時代、武将の鎧兜にもよく使われた赤。色の論理などなかった時代にも自然に活用していたわけです。
一方、赤には感情の起伏が激しく、暑苦しいイメージが伴います。ビジネスシーンで何気なく使うのは危険です。まれに、赤いフレームの眼鏡をしている紳士とお会いしますが、私の頭は「?マーク」で満たされるばかりです。気になってしまうと話している内容が入ってこない、なんてこともありそうですね。赤は相手の心拍数を上げてしまうことも知っておく必要がありますね。
黄色を味方につける
「黄色は光にもっとも近い色彩である」といったのは、かの文豪ゲーテです。また、黄色の部屋に住み、生涯にわたって黄色を追求し続けた天才画家・ゴッホは、黄色で絵を描くことによって、自らの心の闇に光を与え続けたといいます。
大人になるとなかなか身近にない黄色ですが、幼稚園児の帽子は黄色。遠くからも目立つわりには、赤のように強すぎない。信号機でいえば、赤はNO、黄色は注意なのです。何かを相手に伝えるためのコミュニケーションカラーともいいます。
そんな黄色を味方につけるには、アクセントとして活用すること。とくに面積が小さいパーツがお勧めです。男性であれば、スーツスタイルやジャケット&パンツスタイルに合わせるポケットチーフです。海外ブランドのチーフには、黄色と紺、黄色と紫、黄色と茶などのように小さい面積で黄色を多用します。黄色単体でなく、柄の中に黄色が存在しているという使い方がよいでしょう。
太陽に向かって大輪の花を咲かせるひまわりのように「ほがらか・元気」というイメージがあり、「ビタミンカラー」といわれるように元気になりたいときやテンションを上げたいときに有効なので、政治家の選挙にもよく使われます。一言でいうと嫌われない色。ポケットモンスターのピカチューのようなキャラクターにもよく使われる色です。しかし、一方で「落ち着きがない・子どもっぽく、幼稚」というネガティブイメージも伴うため、とにもかくにも使う分量を間違えないようにしてください。
黒を味方につける
「上司が部下に着てほしい色」で、わずか9%しか選ばれなかったのが黒です。
それは、ビジネスシーンでは、黒いスーツは存在感があって目立ちすぎるからです。
一見、「黒子」といわれるように目立たないように思える黒ですが、実は非常に目立つ色です。そのため、ビジネスシーンでは全身に使うことは避け、靴やベルト、バッグなど周辺の基本アイテムに持ってくると、控えめで落ち着いた印象を与えます。
黒を身に着ける傾向にあるファッションスタイリストという職業は、主役はスタイリングされる俳優やタレントです。先ほどあげた黒子も主役は役者。ホテルコンシェルジュやレストランのソムリエの制服も黒が多いようです。
「黒」は自身の存在を消し、相手を引き立たせる役割をもっていますが、自身のプロフェッショナル性を静かに主張する色なのです。
すべての光を吸収する黒は、重厚感があり、神秘的で高貴さを感じさせる色。冠婚葬祭に黒が使われるのはそのためです。裏を返せば、「暗い、無表情、けだるい、謎」というネガティブイメージもあるため、ビジネスシーンでは黒は小物として味方につけることです。
白を味方につける
女性にファッションアドバイスをする際には、ビジネス用に白ジャケットを1枚もっておくことをお勧めしています。白ジャケットといえば、蓮舫さんを思い出す人が多いかもしれませんが、白は好き嫌いがなく、清潔で軽やかに女性の存在感を引き出すには最高の色です。とくにスピーチやパーティでは着る人を品よく目立たせてくれます。
白は色のない色。だからこそ、周囲の色を際立たせてくれる。それを考えると、男性のスーツに合わせるシャツは白しかないといっても過言ではありません。ほぼスーツは、濃紺、チャコール、グレイなどダークカラーです。ビジネスシーンで精悍さやシャープさ、スマートさを表すにはメリハリが一番。もっともメリハリ感があるのは、白とダークスーツの組み合わせ。さらに付け加えれば、ポケットチーフも白。パリッとしたリネンのチーフを胸元に挿せば、最高の紳士の完成です。
すべての光を反射する白は「無」の色、無限に対する畏怖の色です。洋の東西を問わず、神にひれ伏す、宗教的な意味合いを含む色でもあります。無垢で清楚、素直なイメージを持つのもそれが故なのでしょう。
さて、そんな白を味方につけるには、使う割合を考えることです。全体に占める白の割合によってイメージがどう変わるか。
白 100%(白系で統一)・・・気品と清潔感。インパクト
白 50%(例:パンツだけ、あるいはジャケットだけを白に)・・・軽やかさ、着痩せ効果。
白 30%(例:濃い色ワンピースに白のロングストール)・・・全体を重く見せない効果
白 10%(例:白シャツ、白いアクセサリー)・・・白がワンポイントでメリハリ、映える
色にはネガティブイメージとポジティブイメージの両面があります。それを理解して取り入れていくことが大切ですが、「無の色」である白にはネガティブイメージはありませんし、他の色と組み合わせたとしても不協和音もありません。すべての色を味方につけるには、白を味方につけること。だからこそ、できる人は「白シャツ」を選ぶのです。
(Up&Coming '24 盛夏号掲載)
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