ハイブリッドシステムを搭載した“ラリー1”導入2年目
開催カレンダーと各チームの動向をチェック
ラリーは第2戦スウェーデンまでを終え
Mスポーツに移籍したタナックが選手権リーダーに
各チームの戦力は拮抗、熾烈な戦いの幕が上がる
2023年シーズンの世界ラリー選手権(WRC)が、今年もラリーモンテカルロで華やかに幕を開けた。
昨年はハイブリッドパワートレインを搭載した新規定マシン『ラリー1』が導入され、日本でのWRCが12年ぶりに復活。トヨタのカッレ・ロバンペラが、22歳の最年少記録でドライバーズ選手権を制するなど、エポックな1シーズンとなった。迎える23年シーズンは、さらに熟成が進められた車両が接戦を繰り広げる。参戦マニュファクチャラーは前年と同じく3社だが、全13戦が行われるカレンダーにはいくつか動きがあった。
まず、第3戦のラリーメキシコ(3月16〜19日)が20年シーズン以来3年ぶりに復帰を果たした。標高2000メートル以上の高地に点在するグラベル(未舗装)ステージを走行するため、エンジンとブレーキに厳しい一戦とされる。そうした要素がハイブリッドパワートレインにどのような影響を及ぼすのか、注目の一戦だ。第11戦(9月28日〜10月1日)としてラリーチリも復活。チリ中南部の都市コンセプシオンを拠点とするグラベルラウンドが、WRCとして開催されたのは19年の一度のみ。20年と21年はカレンダー入りを果たしながら、新型コロナウイルスや政情不安を理由に開催を断念してきた。熱狂的なラリーファンの多いチリだけに、待望のWRC復帰と言えるだろう。
また、新たにターマック(舗装)イベントとして開催されるのがドイツ、チェコ、オーストリアの3カ国で行われる第12戦セントラル・ヨーロッパ・ラリー(10月26〜29日)だ。ドイツ南部のバイエルン州パッサウを拠点に、スタートはチェコの首都プラハで行われる予定。ドイツでのWRC開催は19年以来、オーストリアに至ってはWRC元年の1973年に行われた「オステリッチ・アルペン」から、50年ぶりとなる。また、シュコダの地元であり、ラリー人気が非常に高いチェコにとっては、待望のWRC初開催。その名のごとく、欧州の真ん中で開催されるこのイベントには、周辺国から多くの観客が集まることになりそうだ。
開幕戦では、モンテカルロのカジノ前広場でスタート前のプレゼンテーションを行った。荘厳な雰囲気のなか新シーズンが始まる。
ラリーモンテカルロの歴史あるSS『チュリニ峠』には、今も昔も多くの観客が集まる。
3チームの戦力が拮抗
23年シーズンを戦う3マニュファクチャラーは、ドライバー布陣に大きな動きがあった。
2年連続のダブルタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racingは、現チャンピオンのカッレ・ロバンペラと、エルフィン・エバンスが全戦にエントリー。セバスチャン・オジエは今年もラリーを選んでの参戦となる(2月末時点では、すでに勝利した開幕戦モンテカルロに続き、第3戦メキシコへのエントリーが確定している)。
オジエが参戦しないラリーに関しては、勝田貴元がTOYOTA GAZOO Racingのマニュファクチャラーズ選手権登録ドライバーとして出走。オジエが参戦するラリーに関しては、4台目のGRヤリス・ラリー1をドライブする。22年シーズン、抜群の安定感を披露した勝田にとっては念願の初勝利を目指しつつ、チームにマニュファクチャラーズポイントを持ち帰るという、真価が問われる1年になる。
ラリー1規定元年、チャンピオンマシンとなったGRヤリス・ラリー1は、23年シーズンに向けてエアロダイナミクスを中心にアップデート。空力効率の改善を目指して、冷却用のエアインテーク形状を変更し、パワーユニットも出力向上を目指した改良が行われている。
そしてトヨタは、勝田に続く日本人ドライバー育成企画「TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラム」2期生のプロジェクトもスタート。昨年から大竹直生、小暮ひかる、山本雄紀の3名がフィンランドを拠点にトレーニング&ラリーへの参戦を続けている。先日のWRC第2戦スウェーデンでは、ついにWRCデビューも果たした。
2023年世界ラリー選手権主要ドライバーズラインナップ
ドイツを拠点とするヒョンデ・モータースポーツは、前任のアンドレア・アダモの退任以来、空席となっていたチーム代表に、シリル・アビテブールが就任。フランス出身のアビテブールは、これまでルノーやケータハムのF1チームにおいて、代表や経営幹部を経験してきた経歴を持つ。ラリーでの経験こそ少ないものの、タイトル奪還を狙うヒョンデにとっては待望のリーダー登場と言えそうだ。また、22年はチーム副代表としてWRCチームを率いてきたジュリアン・モンセは、本来の役割である技術畑へと戻ることになる。
ドライバーラインナップは、昨シーズンランキング2位のティエリー・ヌービルをエースに据え、トヨタから移籍したエサペッカ・ラッピが念願のフル参戦を実現。Mスポーツ・フォードから移籍したクレイグ・ブリーンと、ベテランのダニ・ソルドが3台目のシートを分け合う。
昨年、開幕戦モンテカルロでの1勝のみに終わったMスポーツ・フォードは、オィット・タナックがチームに帰ってきた。トヨタ、ヒョンデを渡り歩いたタナックの復帰は17年以来。昨シーズンはかつての王者セバスチャン・ローブのスポット参戦はあったものの、ブリーン、ガス・グリーンスミス、アドリアン・フルモーといった勝利経験のないドライバー布陣で戦ったMスポーツ・フォードだけに、トヨタやヒョンデのエース格に対抗できるタナックの加入は、まさに“待ちに待った”と言ってもいいだろう。実際、タナックは第2戦スウェーデンでは「まだプーマ・ラリー1に慣れているところ」と語りながらも、難しいコンディションのラリーでチームに1年ぶりの勝利を持ち帰っている。タナックとコンビを組むのは、かつてのターマックスペシャリストであるイブ・ルーベを父に持つ26歳のピエール-ルイ・ルーベ。昨年の段階で表彰台まであと一歩のスピードを見せており、次にブレイクが期待されているドライバーのひとりである。
スタートを待ちズラリと並ぶラリー1車両。遠くのバナーにはフォーラムエイトの文字が。
毎日の競技後は監督や選手のトークセッションを実施。多くの観客で賑わう。
期待が集まる勝田貴元。第2戦ではSSベストタイムを記録する速さを見せたが、惜しくもリタイアという結果に。
2度目の開催を迎えるジャパン
23年シーズンは、トヨタにロバンペラとエバンス、ヒョンデにヌービルとラッピ、Mスポーツ・フォードにタナックと、WRC勝利経験を持つドライバーが3チームに分散することになった。なかでも各チームのエース─ロバンペラ、ヌービル、タナックがタイトル争いの軸となる。この3人は路面やラリーのキャラクターを選ばずに勝てる力を持っており、トラブルなく走り切れば必ず僅差の展開が期待できる。昨シーズン未勝利に終わったエバンスとラッピも十分勝てる力を持っており、常時5人以上が勝利を狙う大混戦を楽しみにしたいところだ。
そしてここに、オジエという選手権タイトルを狙わない“ジョーカー”も絡むことになる。開幕戦モンテカルロで証明したように、彼は難しい路面状況における経験値で群を抜いている。未だ勝利へのモチベーションは高く、彼がエントリーすれば、間違いなく優勝候補のひとりに挙げられる実力の持ち主だ。また、ダカールラリーやラリークロスへの参戦を続けるセバスチャン・ローブも、昨年同様にMスポーツ・フォードと参戦に向けた交渉を行なっていると言われており、彼もまた優勝争いをかき混ぜる面白い存在になる。
日本期待の勝田は、“ワークスノミネート”ドライバーとして、これまで以上にプレッシャーのかかる立場となる。コ・ドライバーを務めるアーロン・ジョンストンとのコンビネーションも確実に深まっており、2年連続で表彰台に上がっているサファリでは、自身初となるWRC勝利を狙いたい。
開幕戦モンテカルロはトヨタのオジエとロバンペラが1-2フィニッシュ。第2戦スウェーデンでは、多くのクルーがタイヤマネージメントに苦しむなか、タナックがMスポーツ・フォードに昨年のモンテカルロ以来となる勝利を持ち帰った。ただ、開幕2戦はコンディションなどの不確定要素が大きく、各チームの正確な戦力や実力が測りにくいという側面もある。“ノーマルな”グラベルの第3戦メキシコ、ターマックの第4戦クロアチアを終えた段階で、今シーズンの趨勢が見えてくるはずだ。
そして、日本のラリーファンとしては、第13戦(11月16〜19日)として2度目の開催が待たれる「フォーラムエイト・ラリージャパン」は外せない。
愛知県・岐阜県を舞台とする2年目のフォーラムエイト・ラリージャパンは、愛知県豊田市・岐阜県恵那市を運営主体としてWRCを開催することが決まった。自治体がラリーを主催するのは、日本では初の試みとなる。現時点で開催計画に関する公式発表はまだ明らかにされていないが、サービスパークは昨年と同じく豊田スタジアムに置かれ、ステージは10〜15%程度がリニューアルされる予定だという。
開催初年度は、安全性の観点からスペシャルステージ観戦エリアはかなり絞られていたが、2年目は観戦エリアの拡大、さらに新型コロナウイルスに関する政府の規制緩和を受けて、より“観戦しやすい”ラリーとなりそうだ。豊田スタジアム内でのSS開催を計画しているとの発表もあり、これが実現すれば、より多くの観客が世界最高峰の走りを目の前で楽しむことができるようになる。
すでに2戦を終えた2023年のWRC。今年も最終戦フォーラムエイト・ラリージャパンまで、一瞬たりとも見逃せない戦いが続く。
第2戦スウェーデンで勝利を飾ったオィット・タナック。選手たちはスパイクタイヤを装着したラリーカーを操り、氷雪路を正確なテクニックで駆け抜ける。
サービスパークに設けられた各チームの整備拠点は一度に複数台を収容し作業ができる。写真はヒョンデ。
(執筆:合同会社サンク)
(Up&Coming '23 春の号掲載)
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