Vol.3
常願寺川
常願寺川は、その源を富山市北ノ俣岳(きたのまただけ)(標高2,661m)に発し、立山連邦山間部で称名川、和田川等の支川を合わせながら流下し、富山平野を形成する扇状地に出て北流し、富山市東部を経て日本海に注ぐ、幹川流路延長56km、流域面積368km2の一級河川です。3,000m級の立山連峰から日本海までの56kmを一気に流れ下り、河床勾配は山地部で約1/30、扇状地部で約1/100と、我が国屈指の急流河川です。
NPO法人 シビルまちづくりステーション
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治水(河川改修・砂防・海岸)の歴史
常願寺川の治水は1581年(天正9年)越中守護職佐々成正(さっさ なりまさ)が富山城下を守るため、馬瀬口に堤防を築造したのが最初だと言われています写真1(建設中の常西(じょうさい)用水路の底面に堤防天端が見える)。
なお、成正は天正15年に隈本(くまもと)に転封となりましたが、検地断行を機としての肥後全土に起った国人一揆を秀吉から問責され、翌年に切腹を命じられています。
写真1
江戸時代には、富山藩主前田利興が水防林として松を植えさせたという記録があり、現在も「殿様林」として100本程残っています写真2。
写真2
江戸末期の1858年(安政5年)4月9日に飛越地震(跡津川断層による地震で、M=7.3程度)により、断層東端の鳶山(とんびやま)一帯が大崩壊し、常願寺川上流の湯川や真川を塞き止めましたので、下流は大洪水の恐怖に怯える日々を過ごしましたが、その2週間後の余震等で土石流となって決壊し、下流扇状地に壊滅的被害をもたらしました。
この時の崩壊土砂は4億m3で、このうち2億m3が下流に流出し、カルデラ内にまだ2億m3が残っていると推定されており、これ以来 常願寺川は名立たる荒廃河川となったのです写真3。
写真3大鳶山抜図(富山県立図書館所蔵)
写真4の巨大石はこの時に流下したのだと伝えられています。
写真4
飛越地震の後土砂流出災害が頻発したため、富山県は1906年(明治39年)から砂防工事に着手しましたが、その後1926年(大正15年)からは国直轄事業となりました。
一方1891年(明治24年)7月、大出水があり、下流でも県による本格的な改修事業が同年から開始されました。
計画策定にあたったのがオランダ人技師デ・レーケで、 1)堤防破堤の原因となっている農業用取水口の統合、 2)新川開削による白岩川との河口分離、 3)堤防・護岸の新設、補強等で、明治26年に完了しました。
その後昭和9年7月洪水を契機に、1936年(昭和11年)に国直轄河川として改修事業に着手し、扇状地の河川改修のほか、扇頂部上流で本宮及び岡田の両砂防ダムが河川事業として実施されました。以来上流から河口まで水系一貫の砂防・河川事業のモデルとして事業が実施されています。昭和24年から42年には、タワーエキスカベーターによる大規模な河床掘削も実施されました。
一方、従来木造枠に石詰だった水制に代わって考案されたのがコンクリート製のピストル水制や十字ブロック工法写真5で、これらの工法で現在天井川状態は殆ど解消されています。
写真5
また、この工法はその後全国各地の急流河川で採用されています。 開発者は6代富山工事事務所長の橋本規明氏で、その後氏は名古屋工業大学教授となり、昭和30年には紫綬褒章を受賞しました。
見どころ寄りどころ
写真6は常願寺川支川の称名川沿いの立山黒部アルペンルートで、弥陀が原と呼ばれる台地を走っています。
奥の山は立山連邦の最高峰・大汝山(おおなんじやま)(3,015m)等です。立山は大汝山、雄山(3,003m)、富士の折立(2,999m)の3山の総称で、 立山という単独峰はありません。文字通り天国のような台地で、隣接する立山カルデラが地獄のような崩壊地なのと対照的な趣を持っています。しかし最近立山での地震増加や噴煙活動の活発化が見られ、平成28年に気象庁は常時観測火山に追加しました。 今後が気になるところです。
写真6
写真7は称名の滝で、落差350m(4段)で日本一の滝です。
写真7
利水・親水等
利水については、農業用水として約7,900haへのかんがいに利用されているとともに、発電用水として利用され、27ケ所の発電所で最大出力は約81万kWです。 このうち有峰ダム関連の5発電所で53万kWの発電をしています。
なお有峰ダムは高さ140m、総貯水容量222百万m3の重力式コンクリートダムで、黒部ダム(199百万m3)よりも大容量のダムです。
<参考文献>
1) 国土交通省HP http://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/jiten/nihon_kawa/
2) 「富山工事事務所六十年史」 建設省北陸地方建設局富山工事事務所 平成8年2月発行(非売品)
(Up&Coming '20 春の号掲載)