Vol.4

頻発・激甚化する
洪水災害に備える

最近の洪水や土砂災害等気象災害の実績を見ますと、平成27年9月の関東・東北豪雨で鬼怒川堤防が決壊し、30年7月の西日本豪雨では、高梁川(岡山県)の堤防決壊や肱川(愛媛県)でのダム計画を大きく上回る洪水による氾濫がありました。 さらに翌年(令和元年)10月の19号台風では信濃川(長野県内では千曲川)、阿武隈川、北上川等多くの河川で過去最高洪水位を記録し、国・県管理の71河川で140箇所の堤防が決壊しました。
以下気象災害のうち、主として洪水について述べることとします。

激化する洪水災害

堤防決壊の原因は、(1)越水(洪水位が堤防高より高くなり、溢れて堤防を決壊)、(2)洗堀(洪水が堤防等を洗堀して決壊)、(3)浸透(堤防に浸透した洪水が漏水やパイピングして決壊)、(4)その他(狭窄、湾曲、橋梁等障害物による決壊)の4要因で、19号台風による140箇所の86%(120箇所)は(1)の越水が原因でした図1

図1

なお、国管理河川では83%、県管理河川では54%の箇所では越水しても堤防決壊はしていません。 なお、気象災害には洪水氾濫以外に、内水(ないすい)*1、高潮、土砂災害による災害も、 最近益々厳しくなってきています写真1写真2

写真1令和元年千曲川堤防決壊
(長野県長野市)北陸新幹線車両基地も浸水

写真2同左 による土砂崩壊(群馬県富岡町)
崩壊6戸、死亡3名

*1

内水(ないすい) 堤防を境に私達が住んでいる方を堤内地、川側を堤外地と言い、堤内地での雨水(うすい)出水(しゅっすい)を内水と言います。 内水被害の軽減方法には、堤内河川の本川下流への付替や排水機設置等があります。

原因と対処方針

こうしたことの原因は、図2図3に示すように海水温の上昇や豪雨発生の増大等地球温暖化に起因すると考えられています。

図2海水温度の変化

図3時間雨量50mmの発生頻度

こうした豪雨によって、堤防決壊、浸水、急傾斜地崩壊、土石流、強風による樹木倒壊等の災害が頻発しており、多くのダムでも計画を超える流入洪水のため、その洪水調節目的を十分には果たせないことが多くなっています。 国交省では、水災害による被害を防止・軽減するため、「施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの」との考えのもと、「水防災意識社会の再構築」の推進に取組んでおり、こうした考え方のもとで平成27及び29年の2回、水防法が改定されました。

  1. 1.(最大規模洪水等の設定)従来の浸水想定区域は、その河川の治水計画の基本となる規模(1/50~1/200*2の降雨による洪水)の浸水区域を想定していましたが、計画規模を上回る洪水実績が多くなったことから、想定し得る最大規模の降雨を対象とする洪水・内水・高潮による浸水区域を想定することにしました。

  2. 2.想定し得る最大規模の降雨は、降雨特性が似ている15地域に分割し、それぞの地域での最大降雨量で設定することを基本とし、年超過確率1/1,000程度を目安としました。

  3. 3.(逃げ遅れゼロの実現)要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設等)の利用者避難確保計画の策定及び避難訓練を義務化しました。

  4. 4.(既存資源の最大活用)輪中堤や既設ダムの再開発等について国等の代行制度を創設しました。

*2

治水計画の規模 1/50~1/200は年超過確率で、過去の1洪水あたり総雨量の各年最大降雨を統計処理した値です。1洪水の総雨量継続時間は洪水毎に異なりますが、多くの場合、国管理河川では2日又は3日雨量、県管理河川では日雨量等が使われます。 1/50は50年に1回、 1/200は200年に1回といった、 稀に発生する規模の降雨です。
河道やダム等の施設計画・設計には流量(1秒あたりの洪水量:m3/s)が必要ですが、 過去の種々の実績降雨型を計画降雨にまで引伸ばして、流出解析(降雨から流量に変換することを流出解析と言います。)し流量に換算します。

激化を踏まえた治水計画の方向

令和元年10月に公表された「気候変動を踏まえた治水計画のあり方」の大略は下記のとおりです。

  1. 1.日本を15地域に分けて、年超過確率1/100規模の降雨量の過去と将来を推算結果を比較すると、RCP2.6(2℃上昇)の場合の降雨量は北海道北・南部、九州北西部の3地域で1.15倍、その他12地域で1.1倍となり、現計画洪水流量の発生頻度は約2倍になると見込まれています。
    (4℃上昇の場合は降雨量は1.3倍、計画洪水発生頻度は4倍になると見込まれています。)

  2. 2.パリ協定では、世界の平均気温上昇を2℃未満とする目標が掲げられていること等から、今後の治水計画も2℃上昇を基本とした計画にすべきですが、 気候変動の更なる変化を考慮した河川整備メニューを検討すべきだと提言されています。

  3. 3.こうした気候変動の動向を踏まえて、国(内閣府、国交省等)では、 河川・砂防・海岸・下水道等に関する各種の審議会や検討会で検討が進められています。
    令和2年度予算では発電専用ダム等を洪水調節用としても活用するため、 治水計画を再編成し施設を改造する等の新規事業が採択されています。

地球温暖化によって、北極・南極等の氷の融解、海水の熱膨張、蒸発散量の増加、積雪量の減少等をもたらせますが、これらにより海面上昇、台風の激化、豪雨や渇水の頻度増大等に繋がり、高潮の激化、海岸侵食、洪水の増大、土砂災害の激化等の災害激化が想定されます。


一方で、堤防等の社会資本施設の老朽化や人口減・高齢化の課題もあり、さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、未だ収束しておらず、何時また同様な事態になるかも知れませんが、こうした状況下での自然災害時のために、何を備え、どのように対処すべきか等、社会全体で取組むべき課題は極めて多くあります。

<参考文献>

1) 平成28年の災害と対応 http://www.mlit.go.jp/common/001180364.pdf


2) 令和元年の災害と対応 http://zenkokubousai.or.jp/download/191105_kokudo.pdf


3) 雑誌「河川」2015・7号及び同2017・7号(日本河川協会 刊)


4) 水防法(平成29年改正) https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=324AC0000000193


5) 気候変動を踏まえた治水計画のあり方(提言) 令和元年10月 http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/index.html

(Up&Coming '20 盛夏号掲載)