Vol.5
頻発・激甚化する
洪水災害に備える 2
気象庁では「顕著な災害を起こした自然現象の名称」を発表していますが、 「平成30年7月豪雨」(西日本豪雨)、 「令和元年房総半島台風」(台風15号)、「令和元年東日本台風」(台風19号)に続いて、今年の出水期に入って早々、「令和2年7月豪雨(7/3~7/31)」に見舞われました。こうした状況に基づき、洪水・土砂・海岸・下水道等の水災害に関して、内閣府や国交省等に各種の検討会が設置され、専門委員により検討されています。
前号 (No.130、 2020盛夏号) に続き、その主要点を紹介します。
NPO法人 シビルまちづくりステーション
http://www.itstation.jp/
令和2年7月豪雨による
各地の被害状況
令和2年7月、長期に停滞した梅雨前線と線状降水帯により九州の球磨川、筑後川、中国の江の川等が異常な豪雨に見舞われ、また同時期に木曽川支川飛騨川や最上川も既往最大の豪雨に見舞われました。写真1は球磨川中流部での被災状況で、浸水対策のため多くの家屋はピロティ方式(1階部分は柱だけの駐車場や作業場とし、居住部分は2階以上として)で建築されていますが、2階以上の氾濫洪水のため全壊した家屋も多くあります。
写真1 球磨川(熊本県球磨村)での洪水被災状況
写真2は最上川中流部に設置された遊水地で下流の洪水位を0.2m下げる効果があったと推定されます。今年の洪水期は未だ終っていませんが、平成30年及び令和元年の実績に鑑みて、ダムによる洪水調節等いくつかの課題が検討され、今年度から実施予定の事項もあります。
気候変動を踏まえた土砂災害対応
平成30年7月豪雨では2,581件、令和元年東日本台風等では952件の土砂災害が発生しました。ところが東日本台風等による人的被害及び人家被害を受けた259件のうち約4割は警戒区域等が手続き未了等のため、未指定でした。こうしたことから土砂災害防止法に基づく警戒区域等の速やかな指定、ハザードマップの作成、避難のための情報提供、自助・共助体制の整備及び次期基礎調査に向けての技術開発等が強く求められています。「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方」(R2・7答申)では、流域内関係者全員による治水対策の推進を答申しており、上記報告事項はその具体策の第1歩です。下記(1)~(3)は現在検討中ですが、いずれも頻発し激甚化している最近の水害に対応するために必須の事項であり、その成果に期待し、防・減災に役立てたいと思います。
下記を含めて今回紹介出来なかった事項については、次の機会に報告したいと思います。
- (1)堤防強化に関する検討 破堤の要因分析や復旧方法の検討
*河川毎に報告:年内(?)
阿武隈川、鳴瀬川、荒川水系越辺川・都幾川、
那珂川、久慈川、千曲川 等 - (2)水災害対策とまちづくりとの連携のあり方検討
*令和3年3月目途 - (3)気候変動を踏まえた砂防技術検討
*令和3年1月目途
写真3 千葉市緑区誉田町R1・10被災
ダムによる洪水調節
1) 効果的な洪水調節ダム
ダムの能力を上回る洪水のため、平成30年7月西日本豪雨では洪水調節を実施した213ダムのうち8ダム、令和元年東日本台風では146ダム中6ダムが、やむなく異常洪水時防災操作*1に移行しました。また異常洪水時防災操作に移行したか否かに関らず、多くのダムでは事前放流(洪水貯留準備のための洪水前放流操作)により、洪水調節容量の増大確保を行っており、こうしたダムの有効活用は三春(東北)・大川(北陸)・宮ケ瀬(関東)等の各ダムで実施され、役立ちました。こうしたダムの有効活用を実施するためには、降雨予測、ダムへの流入量予測、操作、関係機関への情報提供、河川巡視、警報等の管理体制の検討・整備が必須です。特に異常洪水時防災操作に当たっては、下流沿川住民に被害を及ぼしますので、ハザードマップ等を整備し、日頃から十分な理解を得ておくことが大切です。
*1異常洪水時防災操作
計画を超える洪水量のため、ダムが満杯近くになり調節不能となった状態で、流入洪水量と同量を放流します(貯水位を下げることが目的ではありません)。図1は平成30年7月西日本豪雨時に同操作を実施した肱川・野村ダムの降雨・流入量・放流量・貯水位等の実績を図示したものです(実績雨量は計画の1.2倍、洪水流量は1.5倍でした。)。
2) 水力発電ダム等既存利水ダムによる洪水調節機能の強化
現在稼働しているダムは1,460箇所で約180億m3の有効容量がありますが、水力発電や農業用水等のダムが多く、洪水調節のための容量は約3割です。そこで昨年の洪水実績等を踏まえて、令和元年12月に内閣府が中心となって、こうした既存ダムの洪水調節機能の強化に関する下記の基本方針を定めました。
- (1)治水協定の締結…国管理の一級水系について、令和2年の出水期から運用開始することとし、5月までに利用可能な洪水調節容量、事前放流実施要領、情報共有のあり方等に関する治水協定を締結しました。なお、合わせて事前放流に伴なう損害補填制度や放流設備等の改造補助制度を創設しました。
- (2)河川管理者とダム管理者との情報網の整備・・・各ダムの防災情報は国交省(地方整備局)に集約し、適宜共有できるよう、情報網を整備しました。
- (3)事前放流等に関するガイドライン整備・・・国交省担当で4月までに策定しました。
- (4)予測精度向上等に向けた技術開発・・・長時間先のダム流入量、ダム下流水位等の精度向上を図ります。
<参考文献>
1) 東北地方整備局 山形河川道路事務所 HP 出水報告 http://www.thr.mlit.go.jp/yamagata/outline/2020_07gouu/pdf/200806_shussui_01.pdf
2) 「異常豪雨の頻発化に備えたダムの洪水調節機能と情報の充実に向けて(平成30年12月 提言) https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chousetsu_kentoukai/
3) 「ダムの洪水調節に関する検討」 (令和2年6月 とりまとめ)https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/damchousetsu_kentoukai/
4) 「既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本方針」(内閣府 令和元年12月12日) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/pdf/kihon_hoshin.pdf
5) 「事前放流ガイドライン」(令和2年4月 国交省とりまとめ) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001341537.pdf
6) 「近年の土砂災害における課題等を踏まえた土砂災害のあり方について」(令和2年3月答申) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/mizukokudo03_sg_000159.html
(Up&Coming '20 秋の号掲載)