Vol.12

河川用語 あれこれ

今回は「河川用語あれこれ」と題して記載します。河川法や河川工学では各種の特別な用語が使われています。
その第1回として雨が降る→氾濫する→改修計画(基本高水と計画高水流量)検討→流域治水(特に調節池と調整池)について解説します。

流域、左・右岸、内水・外水、流域雨量や洪水流量測定法

1)流域とは「広辞苑」第6版によれば「河川の流れ行く地域。また、その河川の四囲にある分水界によって囲まれた区域」と記載されています。「川の流域面積」という場合、通常は河口から上流の、水が集まってくる全域をいいますが、河川工学では、治水上重要地点での面積を言う場合があります。利根川(坂東太郎)の八斗島(やつたじま)等、筑後川(筑紫次郎)の荒瀬等、吉野川(四国三郎)の岩津等その例は多くあり、2級河川で船橋市域の1/3を占める海老川の「船橋本町」(JR線上流)等も、その事例です。

2)河川では上流から下流に向かって右側を右岸、左側を左岸というと定義されており、堤防を挟んで川側が堤外、建物や耕地がある方が堤内です。内水とは堤内に溜る水を言い、内水氾濫の排除のために、必要があればポンプ排水が必要です。これに対して川を流れる洪水は外水氾濫とも言われています。

3)各地点の雨量は直径20cmの円筒状計器で測ります。面積雨量はティーセン法又は等雨量線法で求めますが、等雨量線法は等雨量線の引き方による個人差が大きいので、あまり使用されません。ティーセン法は、アメリカの気象学者アルフレッド・ティーセンが考えた方法で、各雨量観測所を結んでできる三角形の二等分線によってできる多角形及び流域界により、その雨量観測所の占める支配面積を算定するもので、式-①で算定できます。

Pm(地点面積雨量)=ΣPiAi/ΣAi  式-①
Pi:1番目の地点雨量(mm)、Ai:i番目地点雨量の支配面積(km2

4)洪水流量は、近くの橋から浮子を流して、その流速を測定し、河川の断面積を乗じて求めますが、河岸や川底の流速は遅く、断面積も洪水時は変化する等正確な流量を求めることは至難です。

写真1 海老川支川 長津川の左右岸

基本高水(きほんたかみず)計画高水流量(けいかくたかみずりゅうりょう)

1)最初に洪水被害実績、経済効果等を総合的に考慮し表1を参考にして、対象降雨を定めます。一般的に1級河川(1級水系)の主要区間はA,B級です。こうして計画降雨を決めた後、過去に起きた幾つかの降雨パターンの降雨(地域分布、時間分布)で、その引き伸ばし率を2倍程度以下に設定してハイドログラフを計算します。対象降雨のハイドログラフ (流量への変換)は、その河川の特性に応じた方法を用いるのですが流水の貯留を必要としない場合(ダム計画や遊水池等が必要では無い場合)は合理式によることができます。本誌136号で掲載した庄川の、基準地点(雄神)での基本高水は6,500m/sですが、利賀ダム等による洪水調節に基づく計画高水流量は700m3/s減の5,800m3/sの計画です。


河川の重要度

計画の規模

河川の重要度

計画の規模

A級

200年以上

D級

10~50

B級

100~200

E級

10以下

C級

50~100

 

表1 河川の重要度と計画規模


2)このように基本高水は既往洪水や計画対象施設等を総合的に考慮して決めるのです。

3)計画高水流量は、ダム、調節池、調整池等の洪水調節施設や放水路による分流等の検討結果により検討して決めます。

図1 庄川の基本高水

図2 利賀ダムサイトでのハイドログラフ

流域治水-調節池と調整池-

1)流域治水については、本誌では「頻発・激甚化する洪水災害に備える」と題して2回、連載しました。また上記の3)でも触れましたが、そのためダム、遊水池等の施設があります。治水のために通常はダムが予定されますが、船橋市のように都市化が著しく、起伏が少なく、ダム基盤となる地質にも恵まれない場合は、調節池等が必要となります。

写真2は海老川支川長津川の上流部に設置された調節池です。 この調節池は、1984年夏の豪雨による氾濫を契機に築造されたのですが、堤防は越流することを想定して三面張(全面をブロック張)にし、調整池内の水を排水のため樋門等が設置されています。千葉県では、このほか支川海老川沿(前原川付近)に新しく調節池を設置する計画で用地買収中です。一方で、飯山満川沿いにも東葉高速「飯山満駅」周辺にいくつかの調節池や調整池が竣工又は計画中です。

2)調整池は洪水調節施設や機能は有しませんが雨水による河川流出被害を防止する施設であり、河川管理者や下水道管理者以外の者(宅地開発者等)が設置するものです。「千葉県における宅地開発等に伴う雨水排水・貯留浸透計画策定の手引」平成18年9月改定(千葉県県土整備部)があり、これによって設計・審査することになっています。なお、解説すべき多くの河川用語が残されていますが、記事掲載に合わせて又は次回以降に記載したいと思います。

写真2 長津川調節池

<参考文献>

1)「洪水と水害をとらえなおす」 大熊 孝(農文協プロダクション 2020刊)


2) 「異常気象はなぜ起こる」 坪木 和久((株)新潮社 2020 刊)


(Up&Coming '22 盛夏号掲載)