巴川は、静岡県の中央部、静岡市の市街地北部の文珠岳(1,041m)を源に、山腹を南に流下、麻機(あさはた)低地から長尾川、塩田川と合流し、流域の南側に位置する日本平丘陵地を北流する吉田川、草薙川と合流し清水区市街地を大きな曲線を描きながら通過、折戸湾に注ぐ全長約18km、流域面積 104.8k㎡(巴川本川 94.0 k㎡、大谷川放水路 10.8k㎡)の二級河川である。
河床勾配は1/250~3,500と非常に緩やかなため、水はけが悪く、また、河口から5km付近まで潮の影響が及ぶ感潮域となっている。洪水時には巴川中流部(約9.7k地点)で大谷川放水路に分水し、清水区市街地を流下することなく直接、静岡海岸へ放流している。
名前の由来は、水が巴を描くように渦を巻いて流れる様子からつけられたとも言われています。
写真1 巴川流域概要図(出展:しずおか河川ナビゲーション)
既往洪水
巴川は河川勾配が緩く流下能力が低いため、古くから氾濫河川として被害が発生する。
特に、昭和49年7月の七夕豪雨により床上、床下浸水26,156棟、浸水面積2,584ha、一般資産等被害額213億円の最大の被害をはじめ多くの被害が記録されています。
また、平成11年5月に大谷川放水路(写真-1)が完成・供用し、それ以降は、巴川からの溢水や破堤による浸水被害は発生していない、平成15年7月豪雨、平成16年6月豪雨や平成26年10月豪雨では、流域の各地で内水による浸水被害が発生、家屋浸水や主要幹線道路の冠水などが生じ、社会活動に大きな影響を及ぼした。なお、大谷川放水路完成後は浸水被害が大幅に減少する。
写真2 手前の巴川から大谷川放水路へ分岐
写真3
流域総合治水対策
巴川流域は、昭和30年代から人口の増大や市街化に伴い洪水が頻発し、全国に先駆けて流域も含めた総合治水対策を推進している。
流域を上流部(保水地域)、中流部(遊水地域)、下流部(低地地域)の3地域に分けている。
保水地域:森林、雑木林などに降った雨は地中に浸透し水量を減らす。
遊水地域:水田などに降った雨、川、水路から流れてくる水を一時的に貯留し川の負担をかるくする。
低地地域:浸水が生じやすい地域、貯留施設、内水排除施設の整備、建築物の耐水化等のまちづくり。
麻機(あさはた)遊水地 (総整備面積約200ha)
巴川中流部の保水地域である麻機遊水地(あさはた緑地公園)では、市民・団体・行政が参加した「自然再生協議会」を設立、昭和30年代前半の麻機沼が存在していた時代の、人と自然との良好な関わりを取り戻し、湿地環境の動植物の保全・再生に努めている。
緑地公園は巴川が危険水位に達した場合もしくは大雨警報が発せられた場合、冠水する可能性があり閉鎖されます。
写真4 平常時の遊水地
写真5 (嘉田由紀子参議院議員事務所提供)
基礎知識:流域治水
近年、地球温暖化の影響で台風や梅雨の豪雨による水害が多発かつ甚大化しています。「治水」は、堤防を作って河川の水を氾濫させないことに主眼を置いていました。しかし、堤防を高くするには限界があり、また、莫大な費用と時間を要します。治水の専門家は「水をあふれさせない治水だけでは、もはや温暖化の怖さに太刀打ちできない」と言います。
行政で「溢れさせない治水」から「計画的に溢れさせる流域治水」へと政策の転換が進められているのです。
「流域治水」とはダムや堤防に加え、水を溢れさせる場所をあえて作り、流域全体で水を受け止めて水害を減らそうという施策です。 水をあふれさせる場所は、水田など都市開発が進んでいない地域を選びます。
国土交通省、農林水産省、流域自治体、企業などが協働で取り組んでいます。
<参考文献>
1)「しずおか河川ナビゲーション」 静岡県交通基盤部河川砂防局河川企画課
2) 「巴川流域総合治水対策」 巴川総合治水対策協議会 静岡県・静岡市
3) 「流域治水とは?そのメリット・デメリットは?」 https://大震災を生き抜くための備え.xyz >基礎知識
(Up&Coming '23 春の号掲載)