プロフィール
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。同大学院博士課程修了。博士(美術)。Shade3D利用歴は大学院在籍中より約15年。空間表現の作品制作にあたり大まかな構造を事前に検証するツールとして着目。オペラなど音楽関連の演出に携わる中で、自身のプランをプレゼンしたり、メンバーと共有したりする用途で使い始めた。
東京藝術大学美術学部非常勤講師を経て、2010年東京工科大学デザイン学部専任講師に就任。一方で、2008年にアーティストと社会を繋ぐRamAir.LLCを創設し、代表兼アートディレクターを務める。顧問として活動するWONDER VISION TECHNO LABORATORY株式会社(WV)にて、人間の認知メカニズムを再現できる大型の半球体スクリーン「Sphere5.2」を開発し、イベントや研究などを通じて社会実装中。令和元年5月に特許を取得。
2018年末からはレーシングチームを運営する株式会社トムスのエグゼクティブアドバイザー、2019年春からは総務省の地域情報化アドバイザーも務める。
コミュニケーションツールとしてShade3Dの可能性に注目
ビジネスでの実践と並行し、デザイン教育にも積極活用
「仕事では、コミュニケーションの精度を上げるためにShade3Dを使っています」。
企業活動においては、企画の提案段階やプロモーションでの説明が誤解されると、そこに割かれたリソースも無駄になってしまう。そこで、自分が考えているイメージを出来る限り正確に相手に伝えたい。また、まだ正式発注に至っていない段階でも、CGでアイデアを表現して持っていくと客先から非常に喜ばれることが多い。企業のアートディレクターやアドバイザーとしても活動する田村吾郎さんは、このような業務の一環としてShade3Dを多用してきました。
プロフィールでも紹介している半球型ドームスクリーン「Sphere 5.2」のプロジェクト(WONDER VISION TECHNO LABORATORY株式会社)では、Shade3Dの機能を存分に発揮しています。開発段階から完成後の外観や機能性、活用イメージなどをShade3Dで作成したCGで表現。高いリアリティのCG品質に加え、学術やビジネスから社会問題解決、エンターテインメントに至るまで広範な活用シーンを反映したイメージが短時間に作成できます。
田村さんがShade3Dで作成した半球型ドームスクリーン「Sphere 5.2」の イメージ
一方、2010年より専任講師を務める東京工科大学デザイン学部の工業デザインコースで、田村さんは空間デザインおよび企画演出の教育を担当。その一環として、1年・2年と主に手作業で絵を描いたり、立体物を作ったりしてきた3年生がデジタル技術(CG)を使って表現することを学ぶ「専門スキル演習」の授業を行っています。
「高校生がプライベートで3次元(3D)のデータを扱うことってあまりないと思うのです」。そこでShade3Dを教材に、1)まずCGの概念を理解し、2)Shade3Dの基本的な操作を覚え、3)その基本的な操作を通じてどこまでデザインらしく出来るか、を目指す。とはいえ、CGクリエーターやCGの専門家を育成するのでなく、あくまで「デザインのプロセスの中でCGをコミュニケーションのツールとしていかに有効に使えるようにするか」が同授業のターゲット、と位置づけます。
「数値をカチャカチャ入力してというよりも、割と直感的に操作できるようなところが僕は好きで、Shade3Dをずっと使ってきました」
一方で、最近ではCAD機能も充実してきていることから、「設計に近いことを高精度で行えるようになった」と評価。また、ディスプレイを通した3DCGだけでなく、実物の模型を使っての説明もある方がより効果的なことがあり、そのような場合は、3Dプリンタ出力支援機能を有効に活用しているといいます。
「このSphere 5.2の模型は実際より簡素化されていますが、説明にはこの程度で十分です。Shade3Dを10分程度触ってさっと作り上げ、STL形式に書き出して、そのまま3Dプリンタで出力し、あっという間に出来上がりました」。
作成したデータから直接3Dプリンタで模型を出力した
この他にも、「Shade3D Panorama View」を用いれば、作成したモデルをパノラマ化して関係者と共有し、様々な方向から手軽に検討できる、などとメリットを列挙。その上で、フォーラムエイトのリアルタイム3DVRシミュレーションソフト「UC-win/Road」とShade3Dとの連携も視野に入れた、新たな展開、あるいは安価に使える3Dモデル素材の拡充への期待に触れます。
「かつて産業構造的に分業の方が効率的だった時代はあったと思うのです」。しかし今はそうとも限らなくて、企画者が自ら絵を描き、クライアントへ直接提案すれば大幅な時間短縮が可能で、そのようなアプローチは今後増えていくはず。その意味からも、まずは遊び感覚でCG作成にチャレンジしてみては、と田村さんは説きます。
執筆:池野隆
(Up&Coming '19 盛夏号掲載)