「人々の暮らしを豊かにするMobility」の実現を掲げる、MuuN株式会社。月をイメージしたロゴマークを採用する傍ら、そこに当てられた「夢運」の漢字表記にはその理念も込められている、と同社代表取締役の取田秀樹さんは述べます。同氏はトヨタ自動車東日本株式会社に在籍中、モビリティ関係を中心とする各種ロボットの開発に従事。その後、宇宙ロボットの開発で知られるGITAI Japan株式会社を経て2020年1月、自身が温めてきた次世代交通システムの社会実装に取り組むべくMuuNを設立。同社は、交通システムに関する企画および研究開発、電動車両やロボットおよび関連製品の開発から製造販売をカバー。自身が提唱するTTS構想の推進をはじめ、全方向車輪およびその応用製品の開発、前職時代から30年以上にわたり培ってきた技術的蓄積に基づくロボットやパーソナルモビリティの開発に力を入れています。
各種商品開発での可視化・検証目的でShade3Dを長年活用
新モビリティ構想「TTS」のより効果的な検討・理解促進にUC-win/Roadも導入
取田さんが初めてShade3Dを使用したのは、プライベートで自宅をモデリングし、外観のデザインについて検討した20数年前に遡ります。
そうした経験からトヨタ自動車東日本で新商品の開発に取り組んでいた折、アイデアの可視化用にShade3D導入を発案。実際に例えば、ロボットタイプのパーソナルモビリティ/電動車椅子の開発では、電気系の回路設計や基板設計から、OSや言語、制御、画像認識などのソフトウェア作成、モーターやギヤ、レンズ、サスペンションなどの機械設計までこなしながら、新商品を自ら企画。そこでまず、デザインを基にShade3DでCG化。次いで、紙で作ったモックアップとShade3Dで動作を確認しつつ、プロトタイプを作成し、最終製品に至る、という流れを構築。商品化されなかったケースも含め数百の試作を行ったと言います。
その他、全方向車輪やロボット掃除機、会場の椅子を自動的に並べるロボットなどの開発でもShade3Dを駆使し、また特殊なプリズムでカメラにどう映るかという画像処理のシミュレーションにも活用。数年前にその応用として、画像処理とロボットの組み合わせにより皮革製品製造工程において表面の傷を自動で検査するシステムの提案用に、Shade3Dを利用。カメラやレンズ、照明の設定を工夫し実機製作前に加工対象物がどのように映るかのリアルなシミュレーションや装置動画を実現しています。
そのような取田さんが今最も力を入れているのは、冒頭でも触れた「TTS」(Third Transfer System /第三の交通システム)構想の推進です。これは、鉄道や道路を主要な移動手段とせず、自動運転や自動乗継を駆使して「ルームtoルーム移動」を実現するネットワーク型次世代交通システム。いわば、パケットが様々なメディア(交通手段)を乗り継ぐ「インターネットの交通版」で、日本・米国では既に特許を取得しています。TTSは、規格化された人や物の入れ物「トランスファーBOX」(コンパクトカーサイズの「乗用」と2tトラックサイズの「貨物用」、それぞれの「動力なし」と「自動運転Level4・5対応」の全4種類)、軌道走行を多用することで正確・安全・省エネな3次元高速移動を可能にする「走行ユニット」、トランスファーBOXが様々な走行ユニットと接続し自動乗継の要となる装置「ドッキングプレート」(同BOX側)および「ドッキングユニット」(同ユニット側)により構成。ルームtoルーム移動では、トランスファーBOX自体が必要に応じ乗継を繰り返しながら移動し、指定した目的地の建物や駐車場が乗降場所になるため、人の乗り換えはもちろん駅も不要。システム全体がコンパクトサイズなこともあり、鉄道や道路を主体とする現行の交通インフラと比べ整備に要するスペースや費用を低減できる、などの特徴を有します。
取田さんはTTSへの移行により、1)BEV(バッテリー式電気自動車)増加による電力不足、2)働き方改革、3)高齢者や障害者の移動等円滑化、4)都市部への人口集中と地方創生、5)CO2削減 ― など様々な社会課題の解決に繋がる、と説きます。このような壮大で多岐にわたるモビリティプロジェクトの仕組みの具体化や計画検討を進めるにあたって、長年の活用を通じその利便性を熟知したShade3Dの活用に加えて、この度、フォーラムエイトの「UC-win/Road」を導入。今後は、大規模空間をデジタルツインとして構築し交通・人流・環境・災害などの統合的なリアルタイムシミュレーションが可能なUC-win/Roadの機能も活用して、地元横浜市などを舞台としたTTS実装やモビリティシステムを可視化し、そのメリットを広く分かりやすく伝えてアピールできればと展望しています。
執筆:池野隆
(Up&Coming '23 盛夏号掲載)