シーグラフアジア2024へようこそ

シーグラフアジア(SIGGRAPH Asia)は、コンピュータグラフィックス(CG)やインタラクティブ技術の最前線を発表する国際会議と展示会です。1974年にアメリカでスタートした「シーグラフ(SIGGRAPH)」は、世界最大級のCGとインタラクティブ技術に関する国際会議として知られています。そのアジア版として2008年に誕生したのがシーグラフアジアです。

日本ではこれまで、横浜(2009年)、神戸(2015年)、東京(2018年、2021年、2024年)で開催されており、今回は3年ぶりに東京国際フォーラムでの開催となりました(図1)。前回はコロナ禍の影響が色濃く残る中での開催でしたが、今回は規模も熱気も格段にアップ。世界中から研究者、技術者、企業関係者が集まりました。長年このイベントを支援しているフォーラムエイトが7度目のプラチナスポンサーを務めたことも特筆に値します。

プレゼンテーションでは、弊社執行役員 新田がデザインフェスティバルでのレビューを行い、VDWC表彰式での小坂市長登壇、各学生の取り組みや各地域でのVRを用いたまちづくり事例を説明しました。

最先端技術が集う展示会

展示会場では、企業や研究機関が最新の技術を披露しました。フォーラムエイトは、以下のような多彩な体験型展示で注目を集めました(図2)。

  • VR360度シミュレータ:シートが回転する没入型VR体験。
  • 公道最速体感シミュレータ:世界ラリー選手権(WRC)でカッレ・ロバンペラ選手が運転した映像をモーションシートと共にバーチャル体験。
  • F8-AI マンガ・ミー:思いのままにイラストを生成するAIサービス。
  • フォーラムエイトNFTサービス(F8NFTS):メタバースやNFTを活用した新しいサービスの提案。
  • シミュレータ:ドライビングシミュレータ、鉄道シミュレータ、建機訓練シミュレータといった産業分野に応用可能な技術。

2 フォーラムエイトブース

この他、CG、ゲーム技術、バーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)、クラウド技術まで、幅広い分野の企業がブースを構え、来場者にアピールしていました(図3)。

3 展示エリア全景とステージ

エマージングテクノロジーズ:未来を形作る技術

将来的に実用化が期待される技術を紹介する「エマージングテクノロジーズ」セクションでは、技術そのものを体験できるユニークな展示が多数ありました(図4)。

たとえば、「Into the Womb(子宮の中へ)」という展示では、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着して半球状のソファに座ると、胎内に戻ったような感覚を味わうことができます。リアルな音声や振動効果が相まって、参加者は新しい命の誕生を体感しました。

また、低遅延テレイグジスタンスの展示ブースでは、来場者がバットを振ると、近くのロボットが即座に同じ動作をしてボールを打つという驚きの体験が可能。軽い動作にはスムーズに対応するロボットが、筆者が勢いよく振ると動きが固まり、一瞬ハプニングが起こる場面も(すぐに復旧して再び動き出しました)。

4 エマージングテクノロジーズ

オープニングと基調講演

オープニングセレモニーでは、カンファレンスチェアを務めた東京大学の五十嵐健夫氏が「Curious Minds(好奇心旺盛な心)」というテーマを発表し、「未知の探検」「人と話す」「つながりを作る」というメッセージを参加者に向けて発信しました。

続く基調講演では、ISSEY MIYAKEのデザイナー宮前義之氏が「The Endless Possibilities of A Piece of Cloth(布の無限の可能性)」と題して講演(図5)。

5 基調講演と実演制作された衣装(ISSEY MIYAKE 宮前氏)

翌日には、ソニーの副社長兼CTOである北野宏明氏が「Co-Creating Worlds with Game Designers, Animators, and Filmmakers(ゲームデザイナー、アニメーター、映画製作者と共に世界を共創する)」をテーマに登壇。講演では、筆者が1990年代後半に試行錯誤したVRML 2.0の話題にも触れられ、当時の技術と現在の進化を思い起こさせる内容でした。

テクニカルセッション

査読を通過した研究成果が発表されるテクニカルセッションでは、人間や自然物といった複雑な対象のモデリングやレンダリング、AI(機械学習・深層学習)を活用した3Dモデリングや3Dレンダリング、大規模言語モデル(LLM)を応用した研究など、CGやAIを活用した最先端の技術が披露されました。

6 テクニカルセッションとインタラクティブディスカション

セッションでは10分のプレゼンの後、20分間の「技術論文のインタラクティブディスカッション」がホワイエで行われ、発表者と参加者が直接対話する形式で質疑や交流が進みました(図6)。以下は主なセッションテーマです。

  • Surface Reconstruction and Modeling(表面再構築とモデリング)
  • Look at it Differently: Novel View Synthesis(異なる視点で見る:新しい視点の合成)
  • Your Wish is my Command: Generate, Edit, Rearrange(あなたの願いは私の命令です:生成、編集、再配置)
  • Animating Humans(人間のアニメーション)
  • Splats and Blobs: Generate, Deform, Diffuse(スプラットとブロブ: 生成、変形、拡散)
  • Domo Arigato, Mr. Roboto / Robots and Characters(どうもありがとう、ロボットさん / ロボットとキャラクター)

日本語セッションとポスター展示

英語が中心のシーグラフアジアですが、日本ならではのトークセッションも実施されました。

たとえば、NHK ARTによる大河ドラマ「どうする家康」のバーチャルプロダクション制作についての講演では、CG背景とリアルセットを組み合わせる技術的な挑戦とその苦労が語られました。視聴者が見ることのないCGの裏側が明らかになり、多くの共感を呼びました。

「Birds of a Feather」とは特定のテーマの自由討論会のことですが、「Immersive Visualisation for Science, Research, Art and Digital Twins Applications(科学、研究、アート、デジタルツインアプリケーションのための没入型ビジュアライゼーション)」は満席状態(図7)。

7 Birds of a Feather(特定のテーマの自由討論会)

また、ポスターセッションやXRシアターは、一般来場者も体験可能で、親子連れや観光客も訪れていたようです(図8)。

8 ポスター展示とXRシアター

東京の紅葉と共に

東京国際フォーラム周辺は紅葉が美しい季節でした(図9)。

最先端技術に触れる刺激的な時間を過ごしながらも、自然や人々の日常風景に癒される、特別なイベントとなりました。

シーグラフアジア2024は、CGとインタラクティブ技術の未来を予感させると同時に、リアルとバーチャルが交錯する新たな可能性を示してくれました。このような場が、技術者や研究者だけでなく、一般市民にとっても刺激的な学びと感動を提供する場であり続けることを期待します。

9 東京国際フォーラムの紅葉

(Up&Coming '25 新年号掲載)




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