Vol. 36
このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。昨今のコロナ禍によるテレワーク下での押印問題において、令和2年6月に政府から「押印についてのQ&A」が公表されましたので、解説いたします。
 
はんこ文化が変わる?~押印慣行の見直しと電子署名~

1.はじめに

日本では、契約書をはじめ大切な文書には必ず作成者の判子を押すという根強い慣習があります。しかし、コロナ禍によりテレワークが推進されているなか、この押印という慣習が円滑な契約締結等の妨げになっているのではないかという指摘がなされたことから、政府は、令和2年6月19日、「押印についてのQ&A」を公表し、文書への押印が持つ法的な意味を整理するとともに、文書への押印は常に必要なものではない旨を明らかにしました。コロナ禍が治りを見せない現状を踏まえ、本記事では、あらためて、この「Q&A」の内容を解説し、続いて文書への押印に代わる手段の一つとしての電子署名についてご説明します。テレワーク推進や外出自粛により押印慣行の見直しを検討されている方、取引先から電子署名を求められ困惑されている方のご参考になれば幸いです。


2.押印についてのQ&A

文書への押印が裁判でどのような意味をもつか、6つの問いに答える形式で解説されています。

Q1. 契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか。

Q1解説.契約書に押印をしなくても、原則として、法律違反にならず有効に契約が成立することが説明されています。誤解されている方も多いですが、法律上、書面による作成が要件とされている場合を除いて、双方の意思が合致すれば契約が成立します。口頭、メールやSNSのやり取りなど方式は問われません。契約書は、あくまで契約が成立したことの証拠として作成するものであり、契約書に押印することが契約の成立には必須の要件ではありません(図1)。

図1 法律上の契約の定義

Q2. 押印に関する民事訴訟法のルールは、どのようなものか。

Q3. 本人による押印がなければ、民訴法第228条第4項が適用されないため、文書が真正に成立したことを証明できないことになるのか。

Q4. 文書の成立の真正が裁判上争われた場合において、文書に押印がありさえすれば、民訴法第228条第4項が適用され照明の負担は軽減されることになるのか。

Q5. 認印や企業の角印についても、実印と同様、「二段の推定」により、文書の成立の真正について照明の負担が軽減されるのか。

Q2~5解説.契約書など文書作成者本人の印鑑が押された文書が、裁判で証拠として使えるか否か、民事訴訟法のルールが説明されています。まず、民事訴訟では、真に文書作成者の意思により作成されたと証明された文書でなければ、その文書を証拠とすることはできません。とはいえ、訴訟において全ての文書につきこのような証明をすることは大変ですから、民事訴訟の実務では、ある文書に文書作成者本人の印鑑が押されていれば、その文書は本人が作成したものだろうという推定が働くものとして解釈運用されています。また、この“本人の印鑑”はいわゆる実印に限定されるものではなく、認印や企業の角印であっても構いません(ただ、一般的に実印は印鑑登録証明書によって、本人の印鑑であることの証明が容易となります)。このように、ある文書に文書作成者本人の印鑑が押印してあるということは民事訴訟の場ではそれなりに大きな意味を持つものとされています。しかしながら、これはあくまで推定ですから、他人に印鑑が盗用されたり、偽造された印鑑で押印されたりしたことが証明できれば、その推定が覆り、その本人が作成した書面として扱われません。また、逆に言えば、ある文書に本人の押印が無くとも、押印以外の手段により、真に本人において作成された文書であることが証明されれば、その文書を民事訴訟における証拠とすることは可能ということになります。つまり、もともと民事訴訟の場においても、文書に押印がしてあるということは、絶対的なものとまではみなされていないということになります(図2)。

図2 二段の推定と印鑑証明書 

Q6. 文書の成立の真正を証明する手段を確保するためにどのようなものが考えられるか。

Q6解説.先ほど述べた、本人が作成した文書であることを押印以外の方法で立証するための具体的な例が説明されています。例として、(1)取引先とのメールやSNS、(2)運転免許証等による本人確認、(3)電子署名や電子認証サービスが紹介されています。さらに、(1)(2)について、PDFにパスワードを設定してメールで送信し、携帯電話等の別経路でパスワードを連絡する方法や、担当者だけでなく法務担当部長や取締役等の決裁権者をメールの宛先に含める方法が紹介され、また送受信したメールの長期保存によって、本人が作成した文書であることの立証が容易になることも紹介されています。


3.電子署名と認証

電子署名とは、電子文書につき、電子署名の仕組みを提供する業者(認証業者)において、暗号技術を用いて、その電子文書の作成者が誰かを示し、また当該文書が改変されていないかどうかを事後的に検証できるようにする仕組みです。法律の要件を満たした電子署名が付された電子文書については、民事訴訟において本人の印鑑の押印がある文書と同等に扱われます(電子署名法3条)。

電子文書については改変が容易であり、かつその外観から改変を認識しにくいという問題点がありますが、この電子署名を利用することによりその問題点を克服することが可能となっています。問題は、どのような電子署名であれば法律の要件を満たすかということになりますが、電子署名法は、その電子署名の仕組みが”符号及び物件が適正に管理されることにより、本人だけが行うことができる”ものに該当することを要件としています。しかし、この要件に該当するかどうかを、利用者において逐一判断することは困難です。そこで、国は、法令で定める一定の基準に適合する電子署名の仕組みについて、特定認証業務として認定をする制度を設けています(電子署名法2条3項、4条~14条)。

特定認証業務の認定を受けた電子署名の仕組みであれば、認定要件として電子署名法が定める基準(暗号化や本人確認の方法、セキュリティ、電子証明書など)をクリアしているので、安心して利用することができますが、注意する点もあります。まず、電子署名を行う側は、電子署名を行う前に内容をよく確認し、電子署名を行うための符号を十分注意して管理することが必要です。符号が漏洩等により他人に使用されうる状態になった場合は速やかに電子証明書の失効を認証業者に請求してください。また、電子署名を受け取る側は、受け取った後すみやかに電子証明書が有効で内容も正確か、メッセージダイジェストが一致するかを確認するようにしてください。

また、特定認証業務の認定は不可欠というものではなく、かかる認定を受けていないサービスも“符号及び物件が適正に管理されることにより、本人だけが行うことができる”ものであれば、電子署名として有効で、民事訴訟で押印ある文書と同様に扱われます。実際に、知名度の高いサービスで特定認証業務の認定を受けていないものもあります。利用を検討される際は、当該サービスがどのような仕組みか確認し、不明点があれば提供業者に確認したり、専門家に確認したりすることをお勧めします。


出典

[1]令和2年6月19日、総務省・法務省・経産省「押印についてのQ&A」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00095.html

[2]総務省「電子署名を行う上での注意事項(1)」 及び同「(2)」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/ninshou-law/law-index_d.html

監修:中本総合法律事務所




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