Vol. 43
このコーナーでは、ユーザーの皆様に役立つような税務、会計、労務、法務などの総務情報を中心に取り上げ、専門家の方にわかりやすく紹介いただきます。今回は、2023年5月に成立した著作権法の改正について解説いたします。
 
著作権法の一部を改正する法律について

1.はじめに

文化庁も危惧しますように、近時のデジタル化、ネットワーク化の急速な進展、DXの推進がコンテンツの創作、流通、利用の面で大きな変化をもたらしています。

著作権法では、「この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」(著作権法第一条)として、文化的所産の公正な利用に留意しつつ著作者等の権利の保護を図ることで、文化の発展に寄与することを目的とするとされています。

この中で、深刻な海賊版による被害の対策を含め、「利用円滑化」と「権利保護・適切な対価還元」によるコンテンツ創作の好循環の実現を図って、著作権制度の目的を達することが急務です。また著作物の著作権者が不明のためその譲渡あるいは使用許諾を受けることができず放置せざるを得ない状況になっていました。さらに、立法や行政の目的で内部資料として使用する際に公衆送信できることも要望されていました。

このような背景から、上記課題を解決すべく法改正を行うこととされ、「著作権の一部を改正する法律案」として付託され、第211回通常国会において審議の後、2023年5月17日に可決され、同年5月26日に公布されました。


2.法律改正の趣旨

著作物等の公正な利用を図るとともに著作権等の適切な保護に資するため、以下の措置について定めました。

1)著作物等の利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない場合の著作物等の利用に関する裁定制度の創設等

2)立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合等に著作物等の公衆送信等を可能とする

3)著作権等の侵害に対する損害賠償額の算定の合理化を図る


3.法律改正の概要[1]

1)著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等

①利用の可否に係る著作権者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化

・新たな裁定制度の対象
集中管理がされておらず、利用の可否に係る著作権者等の意思を円滑に確認できる情報が公表されていない著作物等(以下、「未管理公表著作物等」)を対象とします。例えば、他人の著作物、実演(歌唱、演奏、演技等)、レコード(CD、DVDなど)、放送又は有線放送(インターネット配信も含まれます)を利用する場合に利用許諾を得る必要があります。この利用をしやすくするのが今回の改正による制度です。

・裁定を受けるための要件
未管理公表著作物等利用しようとする者が、著作権者等の意思を確認するための措置をとったにもかかわらず、確認ができない場合であること。例えば、「権利者が誰であるか不明」、「権利者の所在場所が不明」、「権利者が亡くなっている場合に相続人が不明」といった理由が挙げられます。

文化庁長官の裁定を受けること。

補償金を供託すること。額は通常の使用料額に相当する額とされます。

裁定において定める期間は裁定申請書記載の利用期間内で3年を限度とします。

効果:未管理公表著作物等を適法に暫定的に利用することができます。

新制度の具体的なイメージは以下の通りです。

○公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物であること(新制度の創設前に創作され、公表された著作物についても対象となります)

○著作権者等の利益を不当に害したり、著作者の意向に反するといったことが明らかであると認められるときは対象となりません

○以下の判断プロセスによって著作権者等の利用に係る「意思」が確認できないこと

②窓口組織(民間機関)による新たな制度等の事務の実施による手続の簡素化

・迅速な著作物等利用を可能とするため、新たな裁定制度の申請受付、要件確認及び補償金の額の決定に関する事務の一部について、文化庁長官の登録を受けた窓口組織(民間機関)が行うことができることとする。(著作権法第104条の18、第104条の20)

・新たな制度及び現行裁定制度の補償金について、文化庁長官の指定を受けた補償金等の管理機関への支払を行うことができることとし、供託手続を不要とする。(著作権法第104条の33)

2)立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置

①立法又は行政の内部資料のクラウド利用等の公衆送信等

・立法又は行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、必要な限度において、内部資料の利用者間に限って著作物等を公衆送信等できます。具体的には以下の第四十二条の二(審査等の手続における複製等)一~五号の行政手続等の内部資料が対象となります(下記条文中、用語の定義等は省略)。例えば一号の特許等の審査[2]、四号の薬事行政[3]などでは本改正により進展がありました。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は対象とはなりません(同2項、下記条文では省略)。


  一 行政庁(特許庁)の行う特許、意匠若しくは商標に関する審査、実用新案に関する技術的な評価又は国際出願に関する
    国際調査若しくは国際予備審査に関する手続
  二 行政庁の行う品種に関する審査又は登録品種に関する調査に関する手続
  三 行政庁の行う特定農林水産物等についての登録又は外国の特定農林水産物等についての指定に関する手続
  四 行政庁若しくは独立行政法人の行う薬事(医療機器(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する
    法律及び再生医療等製品に関する事項を含む)に関する審査若しくは調査又は行政庁若しくは独立行政法人に対する
    薬事に関する報告に関する手続
  五 前各号に掲げるもののほか、これらに類するものとして政令で定める手続

3)海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し

従前の著作権改正により、著作権侵害に対する損害賠償請求については、著作権法第114条(損害の額の推定等)において、以下の著作権者の損害の立証負担を軽減する規定を置いています。

・侵害品の譲渡等数量に基づき損害額を算定
・侵害者の得た利益を損害額と推定
・ライセンス料相当額を損害額として請求可

しかしながら、損害賠償額の算定方法について権利者への十分な賠償、侵害の抑止、訴訟当事者の予見可能性等の観点から立法的解決が必要とされていました。

今回の改正により、海賊版被害の救済措置として、損害賠償額の算定方法を見直し、損害額の認定を可能とし、考慮要素を明確にし、著作権者側の保護強化を図りました。

①侵害品の譲渡等数量に基づく算定に係るライセンス料相当額の認定
・侵害者の売上げ等の数量が、権利者の販売等の能力を超える場合等であっても、ライセンス機会喪失による逸失利益の損害額の認定を可能とする。

②ライセンス料相当額の考慮要素の明確化
・損害額として認定されるライセンス料相当額の算定に当たり、著作権侵害があったことを前提に交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。


付帯決議

本法の施行に当たり、政府及び関係者に対して以下の事項などに特段の配慮をすべきとされました。

・新たな裁定制度については手続きの簡素化に留意し、権利者の保護が図られるよう努めること
・海賊版の不正流通防止に向けた対策に積極的に取り組むこと
・デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に対応する議論を加速させ、体制の強化や、一般への周知・教育機会の充実を図ること

施行期日:公布日から3年を超えない範囲内で、政令で定める日

※2)立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置、及び、3)海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し、の改正事項は令和6年1月1日



出典・引用

[1]文化庁HP
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/index.html
[2]特許庁HP
https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/letter/inyouhitokkyobunnkenn.html
[3]例えば文部科学省HP
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05111401/002/003.htm

監修:弁理士法人 相原国際知財事務所




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