大阪・関西万博の『テーマウィーク』は、世界中の国々が地球的規模の課題解決に向け、対話によって「いのち輝く未来社会」を世界と共に創造することを目的として行う取り組みです。

フォーラムエイトは、「未来のコミュニティとモビリティウィーク」にて、「災害大国・日本だからこその世界への提言」をテーマに「未来の防災・減災を語る」トークイベントを開催し多くのご来場をいただきました。

国内外の防災分野の専門家による講演とビデオメッセージを通じて、最先端のIT活用事例や官民連携のあり方、個人の防災意識まで多角的に議論を深め、地球規模の災害に向き合うための未来の備えを参加者と共に考えました。

パトリック·ハーラン

タレント

プロフィール

アメリカ合衆国出身のお笑い芸人。俳優や声優としても活躍。流暢な日本語を生かしDJやMC、ナレーターもこなし、吉田眞とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成し、「パックン」の愛称で知られている。フォーラムエイトTVCMに出演中。

福田 知弘

大阪大学 大学院工学研究科 環境エネルギー工学専攻
教授

プロフィール

兵庫県出身。環境設計情報学が専門。XR・AI・ドローン・点群などのデジタル技術を都市づくりに応用。CAADRIA国際会議フェロー。著書に『1日で学べるXRとメタバース』『都市と建築のブログ 総覧』。水木しげるロード改修(VR技術)で土木学会デザイン賞奨励賞を受賞。

今村 文彦

東北大学災害科学国際研究所 教授、副学長(社会連携・校友会・基金担当)

プロフィール

復興庁復興推進委員会委員長、土木学会副会長。研究分野は津波工学、津波防災に関わる、津波の流体波動数値計算、歴史地震津波痕跡調査、避難シミュレーション、認知心理学(避難時の記憶と人間行動を分析)などに取り組む。

伊藤 裕二

株式会社フォーラムエイト 代表取締役社長

プロフィール

1987年フォーラムエイト創業。橋梁や道路土工、水工をはじめ多岐にわたる土木構造分野をカバーする設計計算ソフト・CADソフトを中核とし、動的解析がもう一つの柱。近年はバーチャルリアリティ(VR)ベースのツールを軸とした多様なシミュレーションや可視化によるソリューションも展開する。

福田知弘教授

  • 平時・災害両立
  • 市民目線でわかりやすい、できるだけ正確な防災ツール

「平時・災害両立」と、「市民目線でわかりやすい、できるだけ正確な防災ツール」の重要性について提起。防災は「非常時」だけのものではなく、「平時」との両立が求められます。また「市民目線でわかりやすく、できるだけ正確な防災ツール」が不可欠。AIやドローン技術を活用し、災害リスクを“見える化”することで、地域の危険箇所や避難経路を直感的に理解しやすくなります。専門家だけでなく市民も使えるツールとなっていく研究が進められています。

また、日常に防災への気づきや学びを取り入れる第一歩として、「自分の街を知ること」が紹介されました。日頃からの街歩きや、堤防のライトアップイベントなどを通じ、“いつもと違う”異変に気づきやすくなり、行動への瞬発力を高めることへつなげます。

今村文彦教授

  • 複合災害に備えよう
  • 人流データ活用により避難行動の把握を

災害対策は、発生前の事前準備から、発生直後の初動対応、復旧・復興、そして将来への備えまでを一連の「災害対応サイクル」として捉えることが重要です。複数の災害が連鎖的に発生する「複合災害」はその連鎖を早期に断ち、被害の波及を防ぐことが求められます。各フェーズでのデータ活用と、過去の災害の教訓の一般化・体系化が不可欠です。

「災害において最も大切なのは、命を守ること。適切な避難行動ができれば命は助かる——これは誰にでもできる行動でありながら、実際には非常に難しい。」多くの人が「どこで」「いつ」「どれくらいの期間」避難すればよいのか分からないのが現状です。

人流データなどを用いた避難行動の可視化と、事前シミュレーションによる備え、災害のメカニズムを解明し、予測・評価し、被害を管理・軽減する「災害を科学する(Disaster Science)」アプローチが、今後ますます重要になります。

フォーラムエイト伊藤裕二社長

  • 科学的なシミュレーションによる災害体験と対策の気づきを深めよう

「科学的なシミュレーションによる災害体験と対策の気づきを深めよう」というテーマで、VRを用いた科学的シミュレーションの取り組みについて紹介しました。土木設計ソフトの開発や、2000年から始まったVR技術の防災活用は、その「気づき」を後押しするための強力な手段のひとつとなっています。実物大の構造物を再現し、揺れや損傷を検証・可視化する技術や、洪水の流れや避難ルートをあらかじめ映像で確認できるシステムは、命を守る行動を促すとともに、都市計画や開発に広く活用されている事例を発表しました。

VTR出演 ビデオメッセージ

エドウィン・R・ガリア

グリニッジ大学 火災安全工学グループ 教授

「幸運は準備された心に訪れる」

事前の備えこそが未来の被害を最小限にとどめる力となります。自然災害だけでなく人災も発生し得ることを前提に、社会のレジリエンス向上は日本に限らず、世界共通の重要な課題です。

災害が連続的に発生する状況下で、人命被害の拡大を防ぐには、社会全体が効率的に対応できる仕組みが不可欠。そのためには、複合災害に備えたデータの活用が鍵となります。災害データをモデルに組み込み、現実の状況を的確に反映させることで、地域社会にとって最適な対応策を導き出し、教育や訓練にも活かすことが可能になります。

プロフィール

1986年に設立した火災安全工学グループ(FSEG)でグループ長を務める。FSEGでは火災解析ソフト「SMARTFIRE」や「buildingEXODUS」などからなる避難解析ソフト「EXODUS」シリーズを開発し、世界30カ国以上で使われている。

徐 榛蔚(ジョチェンウェイ) 花蓮県知事

花蓮県で発生したM7.2の大地震とその後の災害対応について

花蓮県で発生したM7.2の大地震と、その後の災害対応の経験について語られました。スマート防災システムの導入やレジリエンス強化に向けた施策を積極的に推進しており、災害前の早期警戒、発災時の迅速な対応、災害後の復旧効率向上を目指した取り組みが進行中。

消防局の活動を一例に、80項目以上にわたる災害関連情報の整備が行われ、現場対応力の向上に寄与。さらに、河川の管理にAI技術を取り入れるとともに、交通分野でもデジタル技術と連携を図るなど、分野横断的なアプローチによって地域全体の防災力を高める取り組みが進められています。

プロフィール

花蓮県初の女性知事として、71.5%という極めて高い得票率で当選、当時台湾全土において最も高い支持を得た地方首長の一人。女性・子ども福祉、高齢者ケア、若者の起業支援、防災・減災における地域のレジリエンス強化など、幅広い政策分野に注力されている。

トークセッション

世界に提言“防災は技術や制度の重要性に加え、「伝えること」「共有すること」「つながること」である”

パトリック・ハーラン氏は、講演全体を「科学的可視化」「市民目線」「災害サイクル」という三つのキーワードで総括。ディスカッションでは「自助」「共助」「公助」の重要性に立ち返り、地域で支え合う力の再認識と、防災行動の第一歩としての「声かけ」や「日常のつながり」について話が広がりました。

一方で、登壇者の知見が高度であった分、「それをどう行動に結びつけるか」という点で、より具体的な手がかりを求める声も見受けられました。「共感を生む伝え方」は、まさに今後の防災啓発における重要な課題のひとつです。

登壇者それぞれの専門的視点からの提言と、市民の立場での実践的な気づきを交えた対話を通じ、非常に実りのある時間となりました。

引き続き、SNSの活用をはじめ、「FORUM8 Design Festival」や、2026年には全国22都市で開催予定の「地方創生・国土強靭化セミナー」などの場でも、この「未来の防災・減災を語る」トークイベントで得られた知見や防災技術の実践例を紹介し、分野や地域を越えた情報共有と行動促進を図っていきます。技術や制度に加え、伝えること・共有すること・つながることを重視し、防災・減災の取り組みを広げていきます。

(執筆:エンピツ舎 武井 佳代)

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あなたの安全・安心な未来に向けた、災害大国である日本だからこその世界への提言

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)「テーマウィーク」日本語公式チャンネル

地域デジタル推進委員会 
大阪・関西万博視察ツアー

一般社団法人ソフトウェア協会

2025年5月20日(火)一般社団法人ソフトウェア協会の活動委員会のひとつである「地域デジタル推進委員会」の皆さまが、大阪・関西万博を訪れ、パビリオン見学と、フォーラムエイトが出展するロボットエクスペリエンス会場、トークイベントを視察されました。宇宙建設や国際宇宙ステーション「きぼう」船内での遊泳を再現したシミュレータ体験、夕方からのトークイベントに参加いただきました。防災・減災・復旧に向けた取り組みや最新動向の講演に強い関心が寄せられ、デジタル技術が未来の社会課題にどう貢献するかを一緒に考え、地域DX推進に向けたテーマについての示唆や気付きを共有する場になりました。

一般社団法人ソフトウェア協会
(SAJ:Software Association of Japan)
SAJはソフトウェア製品に関わる企業が連携し、産業の健全な発展と国民生活の向上を目的に設立された業界団体で、現在は約700社の会員を擁します。クラウド化や教育分野のDX、スタートアップ支援などを通じて「新しく」挑戦する人々や企業を支援し、社会構造の変化に対応。次世代経営者の育成にも力を注ぎ、業界全体の持続的な成長を後押ししています。デジタル社会の担い手としての役割を強く意識した活動を展開しています。

(Up&Coming '25 盛夏号掲載)




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