はじめに
福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第13回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は神戸の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.13
神戸:山も海もデザインも
大阪大学大学院准教授福田 知弘
プロフィール
1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授、博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/
憧れの大都会
加古川で生まれ育った筆者にとって、神戸は憧れの大都会。154万人の人口を擁する神戸市は、明治開港以来、140余年で建設されてきた都市である。東西に細長く伸びる市街地に加え、山あり、温泉あり、スキー場あり、牧場あり、白い砂浜あり、そして、異国情緒あり。
阪神・淡路大震災で大きな被害を受けたが復興が進められ、近年では眺望景観をはじめとした景観まちづくりが進められている。2008年には日本初・アジア初のデザイン都市としてユネスコに認定された。目抜き通りの税関線(フラワーロード。【図1】)も21世紀型の街あかりへと生まれ変わっている。
【図1】JR 三ノ宮駅より市役所方面
先駆的な景観施策
神戸市は、1978年に神戸市都市景観条例が制定されて以来、神戸の恵まれた自然と海、坂、山という変化に富んだ地形を活かしながら、美しいまちなみの形成を図り、全ての人が住み続けたい、また訪れてみたくなる魅力あふれた都市の実現を目指してきた。以下が主な取り組みである。
- 地域・地区指定による景観形成: 景観計画区域、都市景観形成地域の指定、景観形成指定建築物等届出制度、伝統的建造物群保存地区
- 市民主体の景観まちづくりの推進: 景観形成市民団体の認定、景観形成市民協定の認定
- 景観形成重要建築物等指定制度
- 普及啓発活動(神戸市都市デザイン賞)、景観形成助成
神戸市役所24階展望ロビーでは、神戸の歴史や主要な施設の配置について概観できる【図2】。港町神戸鳥瞰図1868と2017という展示物が近年完成しており、都市の変化がわかりやすい。フラワーロードが昔は生田川だったことなど、特に興味深い。
【図2】神戸市役所24階展望ロビー
デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)
デザイン・クリエイティブセンター神戸は、旧神戸生糸検査所をリノベーションした施設。1927年に旧館が、1932年に新館がそれぞれ完成し、ここで検査を終えた生糸が神戸港から輸出されていった。その後、役割を終え、上で紹介した「4. 景観形成重要建築物等指定制度」で、歴史的な建築物や地域のシンボルとなっている建築物など景観上重要な建築物等として「景観形成重要建築物等」の指定を行い、保全・活用した。
一部のクリエイターやデザイナーだけでなく、様々な人や世代が交流し、そこから生まれるアイデアや工夫で新しい神戸をつくっていこう、そして、神戸のまち自体をクリエイティブなものにしていこうと、日々、実践している【図3】。リノベーションされた施設にはかつての検査所で使われていた物品が改修され、什器や装飾として蘇っている【図4】。
【図3】KIITO見学
【図4】再生された什器
尚、KIITOの前面道路である、国道174号線は日本一短い国道。全線がわずか187.1m。
向かいにある神戸税関は2代目で1927年竣工。中に入ると、シンガポールのラッフルズホテルのような雰囲気を感じる。建物のすぐ北側には阪神高速道路が走っているが、中庭からは見えないし騒音も感じない。都心なのに、切り取られた空だけが見える贅沢な空間。この中庭からはいつまでも「空だけ」が見えますように。
KOBE パークレット
旧居留地の北側、三宮中央通りにパークレットが設置されている【図5】。これは、サンフランシスコが発祥の、憩いや賑わいの場を創出するための装置である。車道の一部を利用したパークレットはわが国では神戸が初めての取り組み。
【図5】パークレット
パークレットの構造は、シンプルであり、まず、停車帯などに傾きや段差が生じないように床材(ユニットデッキ)を張る。次に、車と歩行者を分離するための囲い(ガードパイプ)を作る。最後に、人々が休憩したり、会話をするための施設(ベンチ、テーブル等)を設置する。
ショッピングや街あるきで疲れたら休めるし、近くのお店で買ったものを飲食することもできる。人々がふと腰を下ろして憩える公共空間があまりに少ないと日々感じているが、パークレットはこの問題の改善を目指した道路空間での試みだといえよう。
駅として再建されたレンガビル
市営地下鉄海岸線みなと元町駅【図6】。このレンガビルは、日本の草分け的建築家で日銀や東京駅も手がけた辰野金吾氏が設計。1908年に第一銀行神戸支店として建設され、1966年からは大林組が神戸支店として使用。しかし阪神・淡路大震災で大きく損傷した。
【図6】みなと元町駅
修復は不可能に思われたが、内部を更地にした上で南西の角に面した壁が再建され、みなと元町駅の1番出入口として使われている。みなと元町駅から一本南の筋は、近年「オシャレな街」として注目を集める乙仲通り。
南京町
開港に伴い、外国人居留地の西側に中国系在留民の居住地として形成された南京町【図7】。現在も個性的な商店が集まり、界隈性と活気に溢れている。中華料理や肉まんなどの有名店が並びどこのお店も行列。そのため、大勢の人々が軒先で飲食しているのだが、驚くべきは公共空間が清潔であること。中心部にある南京町広場にはゴミ箱は置かれていないが、ゴミは落ちていない。これは、継続的な商店街の努力とお客さんの理解とが結実したものだ。筆者は、クールな建物で販売されていたホットなコロッケを食べ歩き【図8】。
【図7】南京町
【図8】南京町のコロッケ屋さん
メリケンパーク
メリケン波止場は明治政府が兵庫の第3波止場として開設した波止場。名前は、近くに米国領事館があったことに依る(アメリカン -> メリケン)。1987年、神戸港開港120年を記念して、波止場の西側一帯が埋め立てられてメリケンパークが誕生した。
北東の入り口には、世界的建築家 フランク・オーウェン・ゲーリーの「フィッシュ・ダンス」が建つ。高さ21mの鯉のオブジェ【図9】。
【図9】フィッシュダンス
メリケンパークは、2017年の開港150年を契機に、ウォーターフロント地区の魅力向上のために、大規模リニューアル工事が完成している。芝生広場の拡張、ステージの改修、夜間景観の演出、「BE KOBE」のモニュメント設置【図10】、スターバックスの公園内店舗の出店、遊べる噴水広場などである。
【図10】BE KOBE
鼓形の構造美
潮風に誘われて神戸港へ。真っ赤な、日本古来の鼓をイメージした構造美のタワーが見えてきた。ポートタワーだ【図11】。高さ108m。神戸開港90周年を記念して1963年に完成した当時は中突堤の上に建っていた。しかしその後、タワーの両側が埋め立てられ、埠頭上に建つという独特な立地条件は変化している。
【図11】ポートタワー
1000万ドルの夜景
2001年、神戸21世紀・復興記念事業として、北野地区にある風見鶏の館+萌黄の館+北野町広場+北野町中公園を対象にした夜間景観デザイン競技が実施された。僭越ながら、筆者はこのコンペで、最優秀賞に選ばれ、風見鶏の館界隈では夜間景観デザインが実際に完成している【図12】。付近は住宅地であり、観光客がいきなり大勢来られても困るため、夜間景観デザインは日没から午後10時までを演出モード、深夜になると既設の街灯にランプだけを取り換えて再利用した生活モードという時間帯に応じて変化する提案。審査員に対するプレゼンテーションでは照明シミュレーション付きVRを用いて、ウォークスルーしながらライトアップ効果を説明した。
【図12】風見鶏の館界隈
省エネルギーへの配慮、LED等の新光源の開発から、夜間景観まちづくりの必要性や実現の幅は益々高まっている。神戸市では、神戸市夜間景観形成基本計画を2004年に策定し、さらに、神戸市夜間景観形成実施計画を2012年に策定している。さらに実施計画を具体的に推進するため、有識者、地域団体、民間事業者、関係行政機関等で構成される「神戸市夜間景観形成実施計画推進委員会」を組織し、計画に位置付けられた施策・事業の実施に向けた検討・調整を行い、情報交換を密に行いながら、それぞれが連携した取り組みを推進している。【図13】は、多様な関係者の調整により実現した、JR三ノ宮駅高架下と阪急高架下のライトアップである。
【図13】 JR三ノ宮駅高架下と阪急高架下のライトアップ
3Dデジタルシティ・神戸 by UC-win/Road
「神戸」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
UC-win/Roadによる3次元VR(バーチャル・リアリティ)モデルを作成したものです。「デザイン都市・神戸」の都会らしさと港町の景観を表現。元町一丁目交差点から見る錨のシンボルなど、神戸の魅力的な景観の特徴である港と六甲山の山並みと市街地が一体となった眺望景観を再現しました。三宮駅と市役所周辺など市中心部のほか、神戸ポートタワーやランドマークとなる建造物、ポートライナー、高架高速道路も表現。また、神戸市が推進する次世代スパコン「京」の施設や、フォーラムエイトのスパコンクラウド神戸研究室も置かれている高度計算科学研究支援センターと「京コンピュータ前」駅など周辺施設をモデル化。ポートアイランド2期の開発の様子と神戸空港の遠景を表現。
(Up&Coming '11 秋の号掲載)