はじめに

福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第25回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はスイス・チューリッヒの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。


Vol.25

チューリッヒとヴァイル・アム・ライン:国境越え

大阪大学大学院准教授 福田 知弘

プロフィール

1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学大学院准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。国内外のプロジェクトに関わる。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)学会 会長、日本建築学会 近畿支部常議員、NPO 法人もうひとつの旅クラブ副理事長、大阪旅めがねエリアクルー。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。著書「VR プレゼンテーションと新しい街づくり」「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

チューリッヒへ

25回目となる都市と建築のブログはスイス北部エリアを対象として、チューリッヒ(スイス)とヴァイル・アム・ライン(ドイツ)をご紹介したい。チューリッヒは2010年、ヴァイル・アム・ラインは2007年に訪問。

チューリッヒはスイス最大の都市。人口は37.6万人。国際的な金融センターの一つであり、アルプス観光の拠点である。国際サッカー連盟(FIFA)をはじめ、多くの国際機関・国際団体の本部がある。チューリッヒ中央駅から市内を流れるリマト川を渡りケーブルカーでスイス連邦工科大学(ETH)キャンパスよりチューリッヒ市街を眺めてみる【図1】。

【図1】チューリッヒ市街地

いくつもある教会の尖塔がランドマーク。左奥(南側)にチューリッヒ湖。リマト川はチューリッヒ湖から流れ出し、最終的にはライン川へと繋がる。夜になるとランドマークとなる建物と橋梁がライトアップ。暖色系の街灯たちは温かみを感じさせる【図2】。

【図2】クヴァイ橋(Quai brücke)からの夜景

まちなかは公共交通が充実している。都市の骨格を形成する道路には路面電車(トラム)が13系統【図3】。

バス路線もしかり。チケットも安く、購入するのも容易で1dayチケットが便利。車内では4つ先までの停車駅の案内が電子掲示板上に所要時間と共に表示されるので安心して乗車できる。

このようにチューリッヒは公共交通を中心とした都市交通政策の成功都市(チューリッヒ・モデル)としても知られる。

【図3】パラデプラッツ(Paradeplatz)駅

チューリッヒ湖やリマト川には観光船やヨットの他、水上交通も充実しており、たっぱの低い橋梁の下を通ることができるように背丈の低い水上バスが運行【図4】。

【図4】チューリッヒ湖からの舟運

まるで大阪水上バスに乗っているよう。

川と岸辺とのコミュニケーションが盛んに行われていた。乗船料はトラム、バスと同じく1dayチケットが利用可というのもスマートなシステム。チューリッヒ湖畔には、近代建築の巨匠、ル・コルビュジェ・ハウスが佇む【図5】。

【図5】ル・コルビュジェ・ハウス

FIFA本部、通称「FIFAハウス(Home of FIFA)」はチューリッヒ中心部の東に位置する。トラムで10分ほど。

公式パンフでBlatter会長(当時)が「Like football, the Home of FIFA is open to all.」と述べているように、サッカー関係者でなくても誰でも訪問できる。敷地内には斬新なデザインの建物の他、アフリカ、アジア、オセアニア、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパとサッカー界の六大陸を特徴づける庭とサッカー場がある。

チューリッヒ西部

チューリッヒ中央駅からトラムで10分のところに位置する西部地区はかつての工場地帯。現在はリノベーションが進められている。

Plus5は、かつての工場を構造補強して再生させた施設。手前は広場、建物内部にはレストランやフィットネスクラブが入る。夜間はカッコいいストラクチャーを意識させる照明デザイン【図6】。

【図6】Plus5

敷地外周部にはかつてのトロッコ軌道をそのまま活かして歩道が整備されている。特に興味深いのは、Plus5の建物の両側にドイツの自動車メーカー「MAN」の建物があるのだが、これらMANの2つの建物を結ぶ通路がPlus5の敷地内に今も確保されていること。昔からのお付き合いは大切だね。

ETH Honggerbergキャンパス

スイス連邦工科大学(ETH)は自然科学と工学を対象とした世界的に有名な大学。卒業生には、レントゲン、アインシュタイン、ジョン・フォン・ノイマン、サンティアゴ・カラトラバ、ヘルツォーク&ド・ムーロンらが名を連ねる。ノーベル賞受賞者は何と21名。eCAADe 2010国際会議の会場は、ETH Honggerbergキャンパス【図7】。

【図7】ETH Honggerbergキャンパス

チューリッヒ中心部から約6km離れた郊外にある。Science Cityというコンセプトの元、キャンパスで24時間過ごせるように整備が進められている。市内とを結ぶバスは2系統あり、日本の電車のように早朝5時台から深夜0時半過ぎまで運行している。運行間隔は10分以内と利便性は高い。これだけ公共交通機関が発達しているので、キャンパスへは自家用車での入構が認められているものの、学生の90%と教員の60%が公共交通機関を利用しているのだとか。

また、ETHは国立大学であるが、我が国の状況と比べると、非常に高質な建物が整備されていると感じた。例えば、斬新な構造デザインや材料の使用。キャンパス内にはパブリックアート、オープンテラス、学生ハウスなどが充実している。聞いてみると、建設費は行政が60-70%、私企業が30-40%を負担しているそうだ。

eCAADe2010のカンファレンス・ディナーは、キャンパス内にあるAlumniLoungeにて。研究仲間との久しぶりの再会は格別【図8】。

【図8】eCAADe2010カンファレンス・ディナー

ヴァイル・アム・ラインへ

ヴァイル・アム・ラインはバーゼル郊外にあるドイツ南西端の町。ここに、建築ファンなら一度は訪問したいヴィトラ・キャンパスがある。筆者はチューリッヒとヴァイル・アム・ラインとは別の時期に訪問したのだが、チューリッヒからヴァイル・アム・ラインへは、まず高速列車ICE(Intercity-Express)で1時間ほどでバーゼルへ行き、そこからバスで国境を越えながら20分ほど。バーゼルはドイツ、フランスと国境を接するスイス第3の都市で街の中心をライン川が流れている。

ヴィトラ・キャンパスは、世界屈指の家具メーカー、ヴィトラ社本社工場内にある。敷地内には、安藤忠雄、フランク・O・ゲーリー、ザハ・ハディッドなど、世界を代表する建築家による建物が点在しており、建物内部にはヴィトラ社が所有する家具や照明器具が展示されている。近年では、ヘルツォーク&ド・ムーロンのヴィトラハウス、SANAAの工場も完成した。尚、ヴァイル・アム・ラインのまちなかにはスケールアウトした椅子が各所に展示してあり【図9】、「家具の町」というイメージ作りを町ぐるみで取り組む様子が窺える。

【図9】ヴァイル・アム・ラインのまちなか

ヴィトラ・建築ツアー

フランク・O・ゲーリーによるヴィトラ・デザイン・ミュージアムへ【図10】。インパクトのある外観。訪問時は、ル・コルビュジェの展覧会が催されていた。入り口には、黒板にモデュロールを描くコルビュジェの大きな写真が。コルビュジェの出身地はスイスの時計産業の町、ラ・ショー・ド・フォン。ヴァイル・アム・ラインからは直線で80kmほど。彼の肖像画はスイス通貨・10スイスフランにも使われている。

【図10】ヴィトラ・デザイン・ミュージアム

コルビュジェ展を見てから建築ツアーに申し込む。英語チームとドイツ語チームに分かれてスタート。筆者が参加した英語チームは、サングラスをかけた女性がガイドさん。彼女の説明はとても上手で、案内人としてもかなり勉強になった。

ゲーリーの建物からアプローチに沿ってヴィトラ・セミナー・ハウスへ。道中にはオルデンバーグの彫刻【図11】。

【図11】オルデンバーグの彫刻

ヴィトラ・セミナー・ハウスは、最初の海外ANDO建築。1987年より構想し1993年に完成。ゲーリーの「動」の建築と対峙する、四角い「静」の建築がコンセプトなのだそうだ。建物配置は、計画時点で存在していた樹木を残すべく検討された。ANDO建築らしいコンクリートの壁に沿ってアプローチを歩いていると、コンクリートの壁面に化石を想わせる模様が【図12】。

【図12】ヴィトラ・セミナー・ハウスのアプローチ

これはコンクリート型枠を設置する際に、近くにある桜の葉っぱが偶然付着したそうだ。通常は付着した葉っぱを取り除いてやり直しそうなものだが、そのまま残されたらしい。ガイドさんはANDO建築をかなりお気に入りの様子で、建物内部についても詳しく説明してくれた【図13】。

【図13】ヴィトラ・セミナー・ハウス内観

バックミンスター・フラーのドームテント、アルヴァロ・シザの工場施設を見学してから、ヴィトラ・ファイア・ステーションへ。この建物は、ヴィトラの私設消防署として敷地内に建設されたもの。ロンドンに事務所を構えるザハ・ハディッドの処女作といわれる。建築を構成する面が3次元的に組み合わさっているために、歩いて近づいていくと建物の見え方がどんどん変化していく【図14】。建物内部も同様に壁が傾いている。平衡感覚がおかしくなりそうになったのは私だけだろうか。

【図14】ヴィトラ・ファイア・ステーション

ファイア・ステーションの屋上でヴィトラ・建築ツアーは終わり【図15】。

だが、旅人たちは中々離れようとせず、ツアー当初は見知らぬ者同士が互いに感想を言い合っている。魅力的な空間、時間を共に過ごすと、自然とこんな雰囲気になるのは万国共通のことだろう。

【図15】ヴィトラ・ファイア・ステーション屋上

【参考資料】

1.三浦幹男ほか:世界のLRT,JTBパブリッシング,2008.

3Dデジタルシティ by UC-win/Road
「チューリッヒ」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ


今回はスイス(Switzerland)の首都チューリッヒ(Zurich)市街地をVRで作成しました。チューリッヒの街に流れるリマト川(Limmat River)を運行する水上バスや、チューリッヒ駅(Zurich train station)周辺の路面電車(トラム)を再現しています。また、チューリッヒ中心部の東に位置するFIFA本部の建物と、グランド内でサッカーをする様子をMD3キャラクタでリアルに表現しています。

都市交通政策の成功都市としても知られるチューリッヒ

水上交通も充実しているリマト川

チューリッヒ駅と路面電車(トラム)

国際サッカー連盟FIFAの本部(FIFAハウス)

「スパコンクラウド® CGムービーサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細な動画ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングにも使用されており、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。また、POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。

(Up&Coming '14 春の号掲載)