はじめに
福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第30回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は大分県豊後大野の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.30
ぶんご大野:里の旅
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
プロフィール
1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学大学院准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。国内外のプロジェクトに関わる。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)学会 会長、日本建築学会 近畿支部常議員、NPO 法人もうひとつの旅クラブ副理事長、大阪旅めがねエリアクルー。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。著書「VR プレゼンテーションと新しい街づくり」「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/
ぶんご大野へ
3年目を迎えた「もうひとつの旅2015」は、もうひとつの旅クラブの初代理事長・李有師さんが、ぶんご大野里の旅公社1)の専務理事として、観光まちづくりに取り組んでいる、大分県豊後大野市に決定。2015年4月に訪問した。
豊後大野市は平成の大合併で大野郡5町2村(三重町、清川村、緒方町、朝地町、大野町、千歳村、犬飼町)が集まってできた、大分南部の内陸のまち。面積は603km2と、日本一の湖・琵琶湖(669km2)と遜色ないほど広い。古くから農業が盛ん。近年では数多くの野球場、グラウンド、テニスコートなどを活用したスポーツ合宿の地としても有名になりつつある。
さんふらわあ
大阪南港を夜8時に出発して、フェリーさんふらわあで別府港へ【図1】。
【図1】さんふらわあ
夜行便ゆえ、世界屈指の多島美は臨めないが、明石大橋(夜9時)、瀬戸大橋(深夜0時30分)、そして来島海峡大橋(深夜3時)と、本四連絡橋を順に通過していく。特に、来島海峡大橋を肉眼で通過したのは初めてだったが、丑三つ時ということもあり、辺りは真っ黒でどこが島なのか、海面なのか、空なのか、見分けがつきにくい。島の灯台を何とか見つけて、船の動きをみていると、この辺りは狭く、面舵、取り舵を切っている様子がわかる。機械や電気がなかった時代、舟の航行は今よりも大変だったのだと改めて思う。
別府
朝、別府港に到着。ぶんご大野への九州横断特急を待つ午前中、温泉チームとまち歩きチームに分かれて別府探検。別府のまちなかでは、近年、多くのアーチストが来られ、様々なアート作品を残してきた。清島アパートのアトリエを訪ねてから、迷路のような路地裏を歩いて、アートに出合ってみよう。
例えば、Aili Zhangの「The Waves and the city【図2】」は、別府で集めた枝や葉っぱなどを使って別府のまちなみを表現したもの。マップに描かれたお勧めルートに沿って歩くと、まずはこのアートの目の前の路地を歩くことになり何のアートなのか全くわからなかった。そこで、一本となりの路地を歩いてみると、日陰の路地裏に掛けられた白いキャンバスの上に黒く繊細な線で描かれたシルエットが浮かび上がってきた。
【図2】別府まちなかアート
別府が国際観光都市として有名になったのは、「別府観光の父」と呼ばれる油屋熊八の功績が大きい。彼は1911年(明治44年)に別府にやって来て以来、様々な新しい試みを行った。日本初のバスガイド(1928年(昭和3年))、地獄めぐり、温泉マーク、さらに別府の奥座敷としての湯布院の開発までもこの方の発案らしい。
市営竹瓦温泉は、朝から営業。入母屋造りと寄せ棟造りの変化に富んだ母屋の屋根と、玄関にかけられた唐破風造りの屋根と。別府のシンボル的建築【図3】。
【図3】竹瓦温泉
原尻の滝
九州横断特急で別府から1時間で緒方駅に着いた。道中、車内のCAの対応が素晴らしかった。緒方駅では、里の旅ピクニックガイドがお待ちかね。緒方町は「緒方五千石」といわれた米どころ。狸楽の郷伝承体験館では今に伝わる神楽や獅子舞など農村文化と郷土芸能を知ることができる。例えば、獅子舞は他の地域と違い、1頭の中に4人が入って舞うものもあるのだとか。ここから約12kmのポタリングスタート【図4】。
【図4】緒方ポタリング
チューリップ畑を眺めながら農道を進んでいくと、東洋のナイアガラ「原尻の滝」に出会う。幅120m、落差20mの雄大な滝【図5】。9万年前に阿蘇山が大噴火をおこし、噴き出した大量の火砕流が冷え固まって生まれた。こんなに凄い滝なのだが、単に遠くから眺めるだけでなく、かなり近づけてしまうところがフレンドリー。水が落ち始め出す滝口のすぐ上が農道になっていて、柵もなく、滝口までアクセスできてしまう【図6】。滝上からも滝下からも巨大な滝を眺めることができるのだ。本家・ナイアガラ滝は、カナダ滝で幅670m、落差53mとやはり大きいが、滝口の真上にはさすがにアクセスできない。
【図5】原尻の滝
【図6】原尻の滝(滝口)
原尻の滝から辻河原の石風呂を目指す。緒方には石風呂は11か所存在するが、辻河原の石風呂は地域住民の憩いの場として県内で唯一利用されている。大分県は別府や湯布院など日本有数、いや、世界屈指の「温泉県」として有名だが、豊後大野は温泉が出ない。温泉が無けりゃ石風呂。手順として、火室で薪を燃やし、石が焼けると薬草の石菖を厚く敷き、水を掛け、蒸気をたててから入浴する。入口には簾をかける。本来は寝ころんで入るそうだが、5人ずつ腰かけてみた。内部は、場所によって熱さ加減は異なるが心地いい蒸せ方で、ほっこりとスモーク感を楽しむことができる【図7】。大きな岩盤に横穴が綺麗にくり抜かれて作られているのがまた凄い。リラックスし尽した素肌美人たちで集合写真を。ホンマに気分爽快!【図8】
【図7】辻河原石風呂
【図8】石風呂でスッキリ!
ななつ星
翌日はレンタカーを使って行動範囲を拡げつつ、ぶんご大野をさらに体感。7月25日の開業に向けて改修中のロッジきよかわを訪れてから、アーチの長さが日本一、二位である石橋、轟橋(1934年完成、径間32.1m)と出合橋(1924年完成、径間29.3m)へ。奥嶽川の川べりに下りると、まず、柱状節理の奇観に吸い込まれそうになり【図9】、さらに振り向けば、川のはるか30m上空に日本一・二の巨大な石橋が架かり、それらが見事に重なり合う【図10】。訪れる観光客はまだ少ないそう。超貴重な空間。
【図9】柱状節理の絶壁
【図10】轟橋(手前)と出合橋(奥)
踏切待ちをしていると、何と、ななつ星がやってきた【図11】。
【図11】ななつ星
車から降りてシャッターを切りまくる。ななつ星は、2013年10月に運行開始した、高級観光寝台列車のことである。ぶんご大野のある豊肥本線はななつ星のルートであるが、毎日通るわけではないので、出合いは超ラッキーである。
普光寺へ。ここには、大分県内最大で、日本国内でも最大級となる磨崖仏【図12】。そそり立つ岩壁に高さ11.4mの巨大な浮き彫り。800年前に作られたとされるが、どうやって彫ったのだろうか?
【図12】普光寺磨崖仏
最後は、隣町の長湯温泉へ。男湯と女湯を合せると夫婦が寄り添っているようなフォルム。内部の浴室も茶室のようでやはり独特であった【図13】。
【図13】ラムネ温泉
【参考文献】
1.ぶんご大野里の旅公社 http://sato-no-tabi.jp/
3Dデジタルシティ by UC-win/Road
「ぶんご大野」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
「スパコンクラウド® CGムービーサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細な動画ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングにも使用されており、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。また、POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。
(Up&Coming '15 盛夏号掲載)