はじめに
福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第33回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回はボストンの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.33
ボストン:歴史と新たな
刺激の融合
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
プロフィール
1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学大学院准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。国内外のプロジェクトに関わる。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)学会 会長、日本建築学会 近畿支部常議員、NPO 法人もうひとつの旅クラブ副理事長、大阪旅めがねエリアクルー。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。著書「VR プレゼンテーションと新しい街づくり」「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/
ボストンへ
ボストンは、ボストン虐殺事件(1770年)、ボストン茶会事件(1773年)、アメリカ独立宣言(1776年)が読み上げられた旧州議事堂など、アメリカ建国に大きく関わった都市【図1】。
【図1】ボストン全景
その後、アメリカ最初の公園(ボストンコモン 1634年)、最初の大学(ハーバード大学 1636年;【図2】)、最初の植物園(パブリック・ガーデン 1837年;【図3】)、最初の地下鉄(1897年)など、アメリカで最初の施設が作られてきた。
【図2】ハーバードスクエア
【図3】パブリック・ガーデン
Arcbazar@MIT
チャールズ川を渡り、MITへ。まずは、MITのキャンパスを巡ろう。MITのシンボル・グレートドーム【図4】、メディアラボ、フランク・ゲーリーのスタータ・センターなどへ。キャンパスはケンブリッジの町と一体化している。建物内の教室やラボはガラス張りになっており、結構自由に眺めることができたのは意外であった。特に、グレートドーム内の廊下は、大学関係者と観光客が入り交じって混雑していた。
【図4】MIT グレートドームにて
MIT 建築・計画学部 長倉威彦 准教授とArcbazar社 CEO Imdat As氏を訪問した【図5】。
【図5】Arcbazarミーティング
Arcbazarは、建築の市場という意味で、Webサイトを通じて、施主が世界中の専門家を対象としたコンペを開催できるシステムとサービスのことである。建築・インテリア・ランドスケープなど、空間デザインを主な対象としており、世界中で行われてきたArcbazarコンペは既に5,000を数える。例えば、あなたが自宅を建てる時に、普通ならば知り合いの建築家や近くの工務店に依頼して作ってもらうわけだが、このArcbazarに依頼すると、世界中から登録されている15,000人以上の建築家・デザイナー相手にコンペを開催して、デザインを募集してくれる。施主は新たなデザイン、アイデア、コスト減を得ることができるかもしれないし、デザイナーは新たな活躍の場を見出すことができるかもしれない。施主がデザインの審査に不安であれば友人や専門家を審査員として招くこともできる。すなわち、Arcbazarは施主と設計者とがコンペを通じて出会えるマッチング・サービスであり、閉鎖的で透明性がないと批判されがちなコンペの民主化を目指しているといえる。
その後、Arcbazarの日本での運営がスタートしている。日本版Arcbazarはこれまでの空間デザインコンペ機能に加えて、自主簡易アセスなど新たなメニューを加え、クラウド版3次元VRも扱おうとしている。1)
THE MEME
続いて、THE MEMEを訪問した。ボストンらしい赤煉瓦の壁、そして、ベンチャー企業らしく、倉庫を改装したような、クリエイティブな雰囲気が漂うオフィスであった【図6】。World16でもお馴染みのKostas Terzidis博士が所属する企業である(当時)。
【図6】THE MEMEオフィス
THE MEMEはクライアントのコンサルティングと製品開発を多様な分野で実施しており2)、その一つが、Organic Parkingである3)。これは、都市の駐車スペースを探す時間を減らすことで、交通混雑や渋滞、そしてドライバーのストレスを緩和しようと、モバイル端末を用いて個人間で駐車スペースの取引が可能なシステムとサービスである。エネルギー節約やCO₂削減のような環境負荷低減にも貢献できる。BtoBチャンネルとしては、トラックやバスの輸送最適化を目指して、運行途上の休憩所や大型駐車場に関する情報提供、予約サービスなどにも展開していくそうだ。
翌日は、Kostasの自宅を訪問させて頂いた。ボストン都心から車で20分も走れば出会える、自然と一体化した素敵な一軒家。日本よりも1か月ほど早く、紅葉が始まっていた【図7-9】。
【図7】Kostas邸エントランス(帽子はオプション)
【図8】Kostas邸で記念ショット
【図9】落葉の小径
フェンウェイ・パーク
ボストンの街をできるだけ歩こうと地図を眺めていると、ホテルからほど近くにボストン・レッドソックスのボールパーク「フェンウェイ・パーク」発見!レフトの高いフェンス・グリーンモンスターが有名な、アメリカ最古の野球場。壁面にはサイ・ヤング、ベーブ・ルース、テッド・ウィリアムズ、ペドロ・マルティネスなど歴代選手の名前と背番号がずらり【図10】。ホテルからボールパークをぐるりと歩いてホテルに戻るまで40分とほどよい距離で、贅沢な時間を過ごすことができた。
【図10】フェンウェイ・パーク
ボストンのグルメといえば、やはり大西洋のシーフード。出発前、友人に尋ねたら、すかさず、生牡蠣と生ハマグリを勧められた。牡蠣は、日本のものよりも小ぶりで、数多く食べられる。しまいには、1ダースを注文しても平らげてしまった【図11】。
【図10】フェンウェイ・パーク
生のハマグリは初めてかもしれないがこちらもハマった。スープは、クラムチャウダー。飲み物はといえば、クラフトビールの先駆者、サミュエル・アダムスだね。
BTTF
行き帰りの機内では、バック・ツー・ザ・フューチャー(BTTF)Part1~3を久しぶりに観た。BTTF2では、1985年に暮らしていた主人公のマーティ・マクフライとエメット・ブラウン博士(ドク)が30年後の未来にたどり着くのだが、それは2015年10月21日午後4時29分。今回、偶然ながら、彼らがやってきた頃に我々も米国にいることになった(西海岸と東海岸との違いはあるのだが)。映画で描かれた2015年と現在を比べてみると、コンピュータや技術の進化で実現できたモノやサービスも多く、映画よりも進化しているものも多いと感じた。そう考えると、今から30年後の2045年には、現在盛んに予言されている技術、例えば、人工知能とその恩恵を受けた社会が当たり前のように存在しているのかもしれない。
【参考文献】
1.Arcbazar日本語版サイト:http://jp.arcbazar.com/
2.THE MEME:http://thememedesign.com/index.php
3.Organic Parking:http://organicparking.com/
3Dデジタルシティ by UC-win/Road
「ボストン」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
「スパコンクラウド® CGムービーサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細な動画ファイルを提供します。今回の3Dデジタルシティのレンダリングにも使用されており、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。また、POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。
(Up&Coming '16 春の号掲載)