はじめに
福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第36回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は郡上八幡の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.36
郡上八幡:水とおどりの都
大阪大学大学院准教授 福田 知弘
プロフィール
1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学大学院准教授、博士(工学)。環境設計情報学が専門。国内外のプロジェクトに関わる。
CAADRIA(ComputerAided Architectural Design Research In Asia)学会 元会長、大阪府河川整備審議会委員、大阪市建築物環境配 慮推進委員会委員、NPO法人もうひとつの旅クラブ理事。「光都・こうべ」照明デザイン設計競技最優秀賞受賞。主な著書に「VRプレゼンテーショ ンと新しい街づくり」「はじめての環境デザイン学」など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/
郡上八幡へ
第4回目となる「もうひとつの旅2016」は、郡上八幡に決定。正確には「郡上八幡市」は存在しておらず、郡上市八幡町、長良川、吉田川、小駄良川などが合流する清流の町【図1】。
【図1】水舟
そして、郡上踊りは、7月中旬から9月上旬にかけて32夜開催される日本一ロングランの盆踊り。4月に水とおどりの都を訪問した。
大阪からJRを乗り継いで美濃太田へ。ここから長良川鉄道で郡上八幡に向かおうとしたが、少し前に起こった脱線事故の影響で、美濃市駅で代替バスに乗り換え。「ゆらーり眺めて清流バス」は、ところどころで乗客を降ろしつつ、長良川鉄道の鉄橋を眺めたりしながら、北上していく。我々は郡上八幡駅で降車した。
まちあるき
備前屋にチェックイン。そして、郡上八幡まちなみ観光案内人に案内してもらいながら、城下町をまちあるき【図2】。話題の中心はやはり水との関わり。
【図2】備前屋の前で
観光バスが集まる城下町プラザから歩き始めてすぐに出会ったのが、アスファルトの道端に勢いよく流れる水路。ところどころに、水路の水を堰き止める堰板が置かれてある【図3】。
【図3】水路の水を堰き止める堰板
国の重要伝統的建造物保存地区に指定されている、職人町、鍛冶屋町を歩いていると、家の中から住人が出てきて、堰板で水を堰き止めて水を溜めて、何か洗いものをしている。これが日常の風景なのだそう。この辺りは、過去の大火の経験から、水路は防火目的で張り巡らされ、家の軒下には火の用心バケツや半鐘が吊るされていた。間口の狭い、袖壁が続く家並みも印象的であった【図4】。
【図4】職人町
本町まで南下。桜間見屋で買った特辛の肉桂玉を頬張りながら石畳を下り、「日本名水百選」第1号に選ばれた湧き水「宗祇水」へ。石で築かれた水場は、湧口から水源、飲料水、米等洗場、野菜等洗場、さらし場(食器等の洗浄場)の順となる【図5】。
【図5】宗祇水
小駄良川に面した家並みは、川側から見ると3階建てだが、道路側からは2階建てと独特。背後に迫った山並みが、家並みの垂直性を助けている【図6】。
【図6】小駄良川に面した家並み
宮ケ瀬橋を渡る。ごつごつとした岩盤の上に建物がしがみついている風景。郡上八幡旧庁舎記念館を抜けて、いがわ小径へ。民家の裏手、鳥谷用水沿いに続く、幅1mの小さな生活道路。今も、洗濯物の濯ぎ、芋洗いなど生活の一部として水路を利用している。鯉、イワナ、ニジマスが寄ってきた【図7】。
【図7】いがわ小径
新橋は、夏になると子供たちがここから川に飛び込む。聞くと、橋から水面までは12mもあり、高飛び込み競技の10mを上回るほど。川面を覗いてみたが、とてもとても無理な高さであった。
食品サンプル生みの親
レストランやカフェの入り口には料理のサンプルが並んでいるものだが、この事業化に初めて成功したのが八幡町出身の岩崎瀧三。1932年、大阪市に食品模型岩崎製作所を設立。第一号はオムレツだったそうだ。今では、食品サンプルは芸術と外国人にもてはやされるようになった。郡上八幡では食品サンプルづくり体験が観光資源として定着しており、街角でサンプルを見つけるのも楽しい。例えば、郡上で一番古い酒屋・上田酒店にはゴジラとモスラのフライが並んでいた。加えて、上田酒店の吹き抜けは見事であった【図8-10】。
【図8-10】上田酒店
空き家リノベ
他の都市と同様、郡上八幡の市街地には約350件もの空き家があるそうで、(一社)郡上八幡産業振興公社「チームまちや」が、八幡町内の空き家の改修に取り組み、以下の3つのテーマで利活用を進めている。空き家拝見ツアーも行われているそうだ。
- 暮らし町家:郡上八幡へ移住を決めた方、郡上八幡でお店をやりたい、起業したい方に、空き家をチームまちやで改修し、賃貸物件として貸し出す。
- お試し町家:郡上八幡に住んでみたいが、知り合いがいない、仕事が決まっていないと迷っている方に、1~3ヶ月住める賃貸物件を。
- お仕事町家:郡上八幡の町家にオフィスを移したい、自然豊かな環境の中でテレワークを行いたいと考える企業の方向け。
町家「玄麟」で空き家対策についてレクチャーして頂いた後、町家をリノベーションした物件をいくつか見学させて頂いた。郡上おどりの必須アイテム、「手ぬぐい」と「踊り下駄」のアトリエ・ショップを【図11】。
- 「Takara Gallery Workroom」:郡上八幡発祥のシルクスクリーン印刷による、手づくり手ぬぐい体験の場。シルクスクリーン印刷という古い産業を新しい目線で多くの人々に知ってもらいたいという想いが込められている。
- 「郡上木履」:郡上の山で育ったヒノキを活用し、木の削り出しから鼻緒すげまで、一貫して郡上内で行っている。踊りにも使える丈夫な踊り下駄を制作・販売されている。鼻緒は、「Takara Gallery Workroom」で制作した手ぬぐいとお揃いで揃えることもできるそうだ。
【図11】「郡上木履」
國田家の芝桜
八幡町から車でドライブして、郡上市明宝地域にある、國田家の芝桜へ【図12】。
【図12】國田家の芝桜
國田家のおばあちゃんが、1961年に実家から一株の芝桜を持ち帰って自宅裏の桑畑に植えたのが始まり。以来、たった一人でコツコツと花を植え続け、管理してきた結果、2500㎡に及ぶ、見事な芝桜のじゅうたんとなった。現在は「國田家の芝桜を愛する会」が結成されて、地元の方がボランティアで維持されている。訪れた4月は丁度見頃で、観光客向けに、露店が出ていた。この辺りのソウルフードで、最近はB-1グランプリに参加している、鶏ちゃん焼きの露店は楽しく、そして美味しかった【図13】。
【図13】鶏ちゃん焼き
その後、村おこし事業として掘り当てられた、明宝温泉に浸かる。この、湯星館では、地域内で放置された間伐材を薪として加工して、木質バイオマスボイラー燃料として活用し、灯油に代わって、源泉の加熱、給湯、施設暖房に利用している。
郡上八幡城
最後に、司馬遼太郎さんが「街道をゆく」で「日本一美しい山城であり、隠国の城」と紹介された、郡上八幡城へ。戦国時代末期(1559)、遠藤盛数によって砦が築かれた。天守閣は1933年に再建され、現存する木造の再建城としては日本最古。最近では朝霧に浮かび上がる八幡城が「天空の城」として話題となった。そして、「天守閣から見えた風景は、・・・」ときれいに纏めたかったのだが、実は、帰りの時間ギリギリの到着で、天守閣の麓まで何とか辿り着いて記念写真を撮るのがやっとであった【図14】。
【図14】郡上八幡城
次は、盆踊りの時期に来たいものだ。
3Dデジタルシティ・郡上八幡 by UC-win/Road
「郡上八幡」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・郡上八幡のレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。
(Up&Coming '17 新年号掲載)