Vol.23
Academy Users Report
アカデミーユーザー紹介/第23回
北京建築大学
土木与交通工程学院 交通工程系
都市や交通のスマート化に資する人材育成に力、
各種ソリューション研究も展開
自動運転への対応や生体情報との連携へ、
UC-win/Roadベースに実験環境を拡充
北京建築大学 土木与交通工程学院
交通工程系
焦 朋朋 教授
「授業を通してUC-win/Roadと初めて出会った際、その直感的かつ容易な可視化機能がとても印象的で、このソフトは交通安全(に関する自らの研究)に役立つツールだと、すぐに確信しました」
「第7回 学生クラウドプログラミングワールドカップ(The 7th CPWC)」(2019年11月14日、CPWC実行委員会主催)に参加する学生とともに来日した北京建築大学の焦朋朋(Pengpeng Jiao)教授は、自身がフォーラムエイトの3次元(3D)リアルタイムVR「UC-win/Road」と接し衝撃を受けた当時をこう振り返ります。
清華大学(北京)で博士課程を終えた後、東京大学の外国人特別研究員(2005年~2007年)などを経て、氏は2009年に北京建築大学に移籍。そこでは、同大創立(元々の起源は1907年)時からのメインストリームを受け継ぐ土木与交通工程(日本語の「土木・交通工学」)学院の交通工程系に所属。交通計画や交通設計、ITS(高度道路交通システム)、交通安全といった各分野の教育・研究に携わる中で、同大が2007年に導入したばかりのUC-win/Roadを体験することになりました。
以来、焦教授は授業での利用と共に、様々な研究プロジェクトでUC-win/Roadを積極的に採用。中国各地で今日もなお活発な、都市や交通を巡るインフラ整備の各種プロジェクトに関わる過程で、その効果的な活用ノウハウを蓄積。さらに、自動運転を含む都市や交通、建築物のスマート化といった新たな課題への対応、AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信システム)、IoT(モノのインターネット)に代表される先進のICT(情報通信技術)、あるいは生体情報との連携などを視野に、UC-win/Road適用による新たな展開も模索し続けています。
教育や研究への高い期待、実験室をベースに対応
北京建築大学の起源は、1907年に創設された「京師初等工業学堂」に遡ります。その後、112年を経る中で前身となる「北平市立高級職業学校土木工程科」の創立(1936年)をはじめ、組織の拡充と改称を重ね、2013年4月からは教育部の承認を得て現行の「北京建築大学」へと移行しています。
同大は北京市をはじめ国内大都市向けに都市計画や建設管理を担う専門家の育成(「土木エンジニア育成のフォーラム」)をミッションとして標榜。北京市からもそうした人材の育成基地として指定されており、実際、斯界に数多くのエンジニアを輩出しています。
北京建築大学 土木与交通工程学院 キャンパス
現在は工学分野を主体としつつ、1)建築・都市計画学、2)土木・交通工学、3)環境・エネルギー工学、4)電気・情報工学、5)経済・管理工学、6)測量・都市空間情報学、7)機械電気・車両工学、8)文法学(文学、人文社会科学等)、9)理学、10)マルクス主義学、11)継続教育学、12)国際教育学、13)創新創業教育学 ― の13学院(日本の「学部」に相当)を備える総合大学を形成。開学以来の市中心部に位置する本キャンパス(北京市西城区)と併せ、郊外の新キャンパス(同市大興区)を拠点に、約1千人の教員と1万2千人超の学生(学部・大学院生を含む)が在籍しています。
そのような同大では、実験室が人材育成や政府などとコラボした研究開発のプラットフォームと位置づけられています。今回お話を伺った焦教授が所属する土木与交通工程(上記の「土木・交通工学」)学院の交通工程系(「系」は日本の「学科」に相当)には、10名の教員と学部・修士課程・博士課程を合わせて学生200名超が在籍。例えば、同系では北京市が市とのコラボレーション研究を期待して市内トップ13校を選び重点投資する一つで、同大付属の実験室「北京未来都設計高精端創新中心」(「創新中心」は「イノベーション研究センター」)に加え、同系直属の4実験室を運用。後者の実験室にはそれぞれ、1)交通情報の計測・収集、2)交通計画とシミュレーション、3)交通制御、4)交通挙動と安全 ― といったテーマが冠され、それらに沿った教育・研究活動が取り組まれています。
ITSやシミュレーションを中心に
実プロジェクトを通じた多様な取り組み
焦教授は交通計画、交通設計シミュレーション、ITSおよび交通安全を主な研究領域とし、それらの観点から関わるプロジェクトにおいて理論研究やシステムのアルゴリズム構築などに取り組んでいます。
中でも最もウェートを置くのは、ITSです。その一例として、同氏は2011年に参加した「道路交通流予測予報システム」プロジェクトを挙げます。氏らは2009年~2012年に清華大学とコラボし、同システムおよび「科学的交通メカニズムの最適化シミュレーションシステム」の各プロジェクトに参加。そのうち前者、日本のVICS(Vehicle Information and Communication System)と似た機能を担うものです。これらのプロジェクトを通じて完成した各システムは現在、北京市交通管理局により運営管理されています。
また、北京市は非首都機能の分散化を図る政策の一環として2019年1月、市庁舎を市中心部から市東部に位置する通州区の行政副都心へ移転しています。この壮大な計画と連携し、焦教授らは再び清華大学とコラボ。通州周辺のスマート交通システム構築を目指すプロジェクトに参加しており、現在はシステムの完成に向けた調整作業が進行中です。
「交通安全関係のプロジェクトでは、言葉で説明しようとすると難しいのに対し、シミュレーションするとイメージしやすいということがあります」
例えば、中国では今日なお、インフラ整備のプロジェクトが全国各地で精力的に進められています。特に山間部の危険なエリアに高速道路を建設する計画などで、相当する既存の基準がないような場合、建設コンサルタントが政府を介して大学・研究機関に問合せ。そこで同氏らが安全性の面から設計についてシミュレーションし、評価・判断のサポートを行うといったケースもある、といいます。
加えて、2022年北京冬期オリンピックの開催に向けたインフラ整備も加速。その関連プロジェクトとして注目される一つに、北京市と河北省張家口市を結ぶ京張高速鉄道があります。そこには複数の鉄道や路面電車、地下鉄、バスが接続する計画もあることから、同氏らは駅を中心とする利用者の流れについて歩行者(群集)シミュレーション。それとは別に、UC-win/Roadを使った交通環境のシミュレーションも実施。例えば、駅構内の各種標識や利用者の乗り換え誘導について細かく検証を重ねつつ、工程上の課題解決に繋げています。
さらに交通計画に関しては、北京市の区単位のバス路線など道路ネットワーク計画の研究プロジェクトに対応。前述の行政副都心(通州区)のエリア計画はそうした一環として取組まれています。
UC-win/Road導入を機に新規授業を開発、
実プロジェクトでの活用も
北京建築大学とUC-win/Roadの接点は、ITS世界会議が北京で開催された2007年に遡ります。同大は会議会場から徒歩圏内の近さにあり、出展中の当社担当者が同大の実験室を訪れてデモ。当時の担当教員による「研究に役立ちそうなソフト」との判断を得て、同年中にUC-win/Road、次いでドライビングシミュレータ(DS)の導入に至ります。これを受け、同大ではUC-win/Roadを教材とする「交通バーチャルリアリティ(VR)」およびUC-win/Roadを核に他のソフトなども駆使する「交通シミュレーション」という2つの授業の設置を検討。両授業は2011年からスタートしています。
一方、焦教授は前述のように2009年に同大へ移籍後、UC-win/Roadを初めて体験。すぐにそのメリットを実感したことから、これまでに自身が関わる数多くのプロジェクトでUC-win/Roadおよび同DSを活用。併せて、ドライバーの視線を計測するアイトラッキング、脳波や脈などの生体情報を計測する各種デバイスも導入。それらをインテグレートしてドライバーの運転行動を把握するシステムを構築し、その段階的な拡充を図っています。
「授業や一般研究ではUC-win/Roadをしばしば利用してきましたが、実プロジェクトでの最初の本格的な活用は山東省での高速道路の評価(2016年)です」
それまでの間、同氏は上記授業のほか、フォーラムエイトが開催する学生向けコンテストへの参加、個人的な研究論文の作成などでUC-win/Roadを活用。特に同プロジェクトでは、最終段階のデザインを着工前にシミュレーション。その結果を基に複数の改善点を指摘し設計に戻して修正するなどし、そのまま建設していたら生じたであろう膨大な損失の未然防止を実現しました。
また、広東省の高速道路プロジェクトでは、遮音壁の設置区間に関する設計案をシミュレーション。それに基づき、交通安全の観点から検証した結果を建設コンサルタントに細かくアドバイスし、設計修正に繋げています。
中国固有の交通環境を踏まえた
次代の交通計画の研究へ
「私たち(の目的)は、自動運転の技術そのものを研究開発することではなく、その商用化に向け、交通の専門家として道路整備や交通計画をどう調整していくか(考えていく)ということです」
自転車や歩行者、クルマの数量が元々多いのに加え、中国では近年、電気スクーターの普及が目立つといいます。そのような、他の国々とは異なる交通事情を背景に、今後の自動運転技術の進展に向けて道路整備をどうするかといった交通計画の理論研究が今後の課題の一つ、と焦教授は解説。併せて、IoTや5Gの普及とリンクした自動運転技術の進展を見据え、次代のニーズに即した信号制御や交通誘導システムをどう考えていくかも求められる、と位置づけます。
また、UC-win/Roadについては、その可視化機能、インフラ整備プロジェクトにおける事前シミュレーションや検証の機能を高く評価。導入から10年以上を経たDSも適宜カスタマイズを加えつつ、継続して活用。今後の研究展開に向け、DSの更新も視野にUC-win/Roadの一層の活用を想定しています。 ただ、例えば、交差点の設計ではUC-win/Roadを使えば、細かく正確な表現が出来るとしつつ、シミュレーションした後のレポート機能などをカスタマイズする必要性に言及。
そのためにも、開発キット「UC-win/Road SDK」の更なる使いやすさの向上に期待を示します。また、今回の「デザインフェスティバル」に参加し、ユーザー同士の交流メリットへの実感を述べます。
「中国国内でも同様にユーザー同士で経験の共有が出来れば良いと思いました」