Vol.40

Academy Users Report

アカデミーユーザー紹介/第41回

公立諏訪東京理科大学 工学部 機械電気工学科

長野県に特有の中山間部の交通事故を分析・研究し、地域の交通安全に貢献
事故現場を再現した実験にUC-win/Roadバイクシミュレータを活用

公立諏訪東京理科大学

https://www.sus.ac.jp/

所在地 長野県茅野市

研究開発内容:自動車衝突安全・予防安全、自動運転、交通事故分析

公立諏訪東京理科大学は工学部で構成されており、情報応用工学科と機械電気工学科というふたつの学科を抱えています。1990年に東京理科大学諏訪短期大学が開設された後、大学への転換を経て、2018年に現行の公立大学に移行。所在地である長野県茅野市が、諏訪地域6市町村(岡谷市・諏訪市・茅野市・諏訪郡下諏訪町・富士見町・原村)であることから、「諏訪」の名称が含まれています。

「私の所属する機械電気工学科は、機械と電気が融合した学科という、他の大学ではなかなか見られないような体制をとっています。この研究室で扱っている自動車もそうですが、最近のものづくりでは、機械に電気システムが組み込まれて稼働している状態がほとんどなので、両方の知識をしっかり学んでもらいたいという位置づけで、この学科が設置されています」(公立諏訪東京理科大学 機械電気工学科 國行浩史教授)。

公立諏訪東京理科大学 機械電気工学科 教授 國行浩史 氏

この中で國行氏の研究室は「先進機械コース」に所属し、主に交通事故の分析と原因究明を中心として、自動車の安全対策や施策の検討などを目的とした研究を実施。同大学は地域に根差した大学であることから、長野県の交通事故について優先度をもって取り組んでおり、長野県警との協力による情報交換を通して県内のデータを入手・分析し、研究成果を提供するといった形をとっています。

長野県警との連携により県内の交通事故を分析

國行氏はこれまで、自動車メーカーで、衝突安全や交通事故発生時の安全化といった実験・研究にも携わった実績があります。またその一環として、交通事故総合分析センター(ITARDA)に参画し、警察、自動車メーカー、国土交通省の車両や道路の管理部門などと共同で、国内の交通事故データの分析や、独自の現場調査の実施を通して、様々な交通事故の研究も行ってきました。そういった経験をふまえて、公立諏訪東京理科大学に活動の場を移し、これまで約7年に渡って自動車安全の研究を継続してきました。

現在の研究では、具体的に、長野特有の山道での交通事故が起きる原因を主要なテーマとして設定。長野県警との連携により、実際に事故が発生した場所や現場の状況などの情報を入手し、学生を含めて実際に現地に足を運んで、原因を分析しています。その際、VR空間で実際と同じような路面を再現したり、あるいはそれを少し分解し、基礎的な路面形状として再現した上で、「なぜここでこんな風にドライバーが事故を起こしてしまったのか」という要因究明のために、フォーラムエイトのシミュレータを活用しています。

長野県は美しい景観を有し、ドライブやツーリングを楽しむ人々でにぎわう半面、山道が多く事故が絶えないことが問題視されている。こういった課題を解消するため、フォーラムエイトのシミュレータを導入している

現実の事故現場に近い実験環境の再現にシミュレータを導入

現在、研究室では四輪自動車と二輪バイクのドライビングシミュレータを使用。5年前に、3画面の小さなディスプレイにゲームのハンドルとブレーキ、アクセルがついた簡易型ドライビングシミュレータを導入したのが最初となり、その2年後に、大画面でハンドルから実際にステアリングの反力とかブレーキの反力が得られるようなシミュレータシステムを追加で導入しています。四輪のシミュレータはUC-win/Roadと連携し、ゲームハンドルからステアリングやブレーキの反力が得られるようなシステムをカスタマイズ。より実車環境に近い実験を通して、現実の交通事故原因に可能な限り近づくことができるのではと考え、導入を進めてきたといいます。

「このドライビングシミュレータを活用した研究において、長野県警から提供を受けた交通事故データを独自に分析していくうちに、二輪の事故については、数は突出して多くないもののなかなか減少していないという状況に気付きいたのです。詳細を調べてみると、他県から観光で訪れているライダーの人が単独で起こしてしまう死亡・重傷事故がかなりの数を占めており、山道特有の事故状況として大きなテーマのひとつであると考えて、二輪事故の検証用として、昨年にはバイクシミュレータを新たに導入しました」(國行氏)。

二輪事故の発生要因検証にバイクシミュレータを活用

他県から観光ドライブで長野県を訪れる場合、いわゆるリターンライダー(若い頃バイクに乗り、その後ブランクがあった人が40~50代となって、再びバイクに乗り始めること)という中高年男性が多いのがひとつの特長です。単独でカーブを曲がりきれずに起こしてしまうタイプの事故が低減できていないという状況があり、改めてその分析に取り組むにあたって導入したのが、フォーラムエイトのバイクシミュレータでした。特定の場所をVRのデータで再現し、実際にライダーの方がどのように運転してカーブを曲がっていけるか/曲がれないのか、ということの究明を目的として、活用されています。

「具体的には、道路の線形、つまり、上り下りやカーブによって、どのような要因があるかを検討しています。山道で起きる事故の要因で最も大きいのは速度超過で、カーブ手前に直線道路の長い区間があると、飛ばし過ぎてカーブを曲がれなかったり、カーブ自体も認識が遅れてしまったりということがあります。また、中高年になり、若い時とは違って身体能力が低下しているのに無理をして、不適切な操作をしてしまう場合も考えられます」(國行氏)。

研究室では、このバイクシミュレータで簡易的な左カーブ/右カーブのコースを作成して、初心者ライダー、一般的なライダー、模範ライダー(白バイのライダー)にそれぞれ運転を体験してもらい、実際の山道を走って運転操作に優劣の差が出る要因が何であるかを検討しています。実験を通して、二輪は四輪と異なってライダーが自らバランスを取りながら運転していかなければならないため、身体を傾けて旋回しようという動きがが必要になり、この動作において、中高年の体力低下、運転操作の不十分さが事故原因につながっている可能性が明らかになってきました。

「山道では、不慣れであったり、急な変化によって十分に対応しきれないことがあります。バイクシミュレータを使うことで、ハンドル操作と体の傾き・運転姿勢も含めて、こういったところがしっかり評価できるので、結果として道路をどのように走行できているかと照らし合わせながら、事故原因を抽出できるのではないかと考えています」(國行氏)。

UC-win/Roadでの実験環境構築

國行氏の研究室では、事故多発エリアのデータをもとに現地取材を行って、ワインディングや上り下り、ガードレール、周辺の植栽、法面、崖など、UC-win/Roadで実際に限りなく近い環境のデータを作成し、バイクシミュレータで使用。学生も、少しソフトウェアの操作に慣れてくれば、2、3週間程度で実験に必要なデータを概ね作成しています。

例えば、観光ドライブウェイで有名な美ヶ原のデータでは、事故発生現場周辺の山道を再現しており、シミュレータで走ってみて、速度が出すぎたり、カーブを曲がるのに不適切な操作があるところを検知して、なぜ事故が起きたのかの解明につなげています。特に、ハンドルだけではなく体を傾けてび運転がバイクの操作としては重要なポイントで、このシミュレータではそこがうまく評価できるところがメリットであるといいます。

また、実験の手法として、現実とまったく同様の事故現場を再現するのではなく、そこからカーブの形状をややシンプルに落とし込んで、曲率の違いや右カーブ/左カーブの違いなどによりバリエーションを組むことで、曲率が急だったからなのか、または勾配のせいなのか、右カーブの方にこういう要因があったからなのか、といったところまで落とし込むことができると、國行氏は説明します。「実際に様々な人を集めて行っている運転シミュレーション実験では、わざと現実よりもシンプルな道を作っています。実験で確かめたいことに合わせて、現実とは少し違ったデータをVRで再現し、シンプルな形に落とし込んだ上で検証することで、事故因子の解明につながると考えています」。

また、事故原因に近づくため、よりリアリティのある状況を再現するという意味で、今後はVRゴーグルとの連携も検討したいという國行氏。顔の動きや道の状況の確認といった動作も、さらに現実に近づくのではないかといいます。

学生コンペCPWCへの取り組み

國行氏の研究室では、「学生クラウドプログラミングワールドカップ」に継続して取り組んでおり、第12回となる今年は、「道路線形に応じた安全な速度を訓練・促進する速度警告システム」をテーマとしたデータを作成しています。

「僕たちはドライビングシミュレータを活用した研究を進めているチームなんですが、ハザードマップを作成している他のチームとも協力して進めています。まず中山間部のVRデータを作成し、他のチームがハザードマップから得た最適な速度、安全な速度を活用して、このコースを安全な速度で走るとそれを示すカラーがフィードバックされるというシステムを構築しています」(安達蒼馬さん、山川正陽さん、藁科諒翔さん)。

第10回 CPWCノミネート賞受賞
スリップ事故の原因を路面状況に応じた車両挙動を再現。これにより、現実的な車両挙動をドライバーに体感してもらうことで、事故防止に貢献

表彰式の様子
詳細

長野県では、旅行やドライブなどで山間部を走行する観光客が多いということもあって、一部の中山間地域では、カーブでスピード超過による事故が多く発生しています。安全運転を身につけるためのシステムを提供し、このような事故をを低減することが、今回の取り組みの目的となっています。カーブの曲率によって変化する適切な速度が設定されていることがシステムの特長だといいます。

公立諏訪東京理科大学 機械電気工学科の皆さん

執筆:池野隆
(Up&Coming '24 秋の号掲載)