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通信制御の研究に交通シミュレーションを活用 電波伝播やコグニティブ無線の研究で電気通信大学の修士過程を卒業後、富士通株式会社に在籍してオーケストレイターや仮想化などの分野に携わった中里氏は、さらに楽天モバイルで、5Gの仮想化やオープンRAN、5Gの次の世代の通信規格として将来的な導入が期待されているBeyond5Gエッジクラウドコンピューティングなどの技術を研究してきました。並行して、マルチアクセスエッジコンピューティングやミリ波ネットワークの研究で、東京工業大学(現・東京科学大学)の博士号を取得し、東京大学大学院情報理工学系研究科に移ってからは、協調型自動運転の実現をテーマとして、高信頼性通信やミリ波の中継システムなどの技術に基づいたデジタルツインの共同研究に参画しています。 「現在、総務省のプロジェクトを受託しつつ、NTTとの共同研究にも携わっています。また、高信頼性通信に関しては、車が実フィールドに無線機を搭載していくとハンドオーバー(異なる基地局間で移動端末の接続先切り替えを行うことを指す)が発生することから、その部分で通信の信頼性を高めるために、低遅延車両通信技術の研究を進めていたソフトバンク株式会社との共同研究を行っています。その他には、技術顧問として関わっている株式会社Visbanというスタートアップカンパニーで、投資家からの資金を集めて、今の5Gミリ波のカバレッジを広げるための中継システムの構築も行っています」。 ミリ波に関しては、外部からの制御によりアンテナの指向性を高めてカバレッジを上げるといった技術も開発しており、リピーター(移動中継局)を置くことによってカバレッジがどれくらい上昇するかといった事象を、シミュレーションベースと実機の両方で検証。こういったテーマについては、国内に留まらず、JST(科学技術振興機構)のASPIRE(先端国際共同研究推進事業(https://www.jst.go.jp/aspire/))プロジェクトの一環として、ドイツのボーフム大学(RUB)、ポルトガル・リスボンのFCT NOVA大学、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学、米国のノースウェスタン大学などの研究機関との国際連携を強めつつ、共同研究が進められています。 「1つの基地局(1つのキャリア)を使った場合と複数のキャリアを使った場合、前者では遅延やパケットロスが発生してしまいますが、2つ使うことによって、基地局は周波数やキャリアによってどこに置かれているかは全く異なってきます。そこで、両方ともデータを送って、この場合はこちらといった選択性を持たせることで通信の質を上げるための取り組みも行っています。また、ドローンがすべて一箇所に集まるのではなく場合によってどれかが行くといったように、他のドローンと協調的に分散処理を行う形で、協調制御させることで動くマルチエージェントに関しても、巨大モデルのデータを研究をしています」。 現在車に搭載されているセンサーなどの無線通信装置は、車自体が認知している世界を制御するもので、事前に走行ルートを設定し危険や障害の検知などを行っていますが、この場合のデータは通信においても活用できる可能性があると、中里氏は述べます。 「例えば、これから行く経路に対して他の車も進んでいくのであれば、それによっていつどのように遮蔽が発生し通信を劣化させるかといった問題が生じてきますが、そういったことが起きる場合、別の基地局との間であらかじめハンドオーバーさせて通信させるといった対応が考えられます。そこで無線機器に対して外部から制御を行うのであれば、自動運転関連のアプリケーションをのせることで可能になるのではないかという仮説をもとに、オープンソースのマイクロ交通流シミュレータSUMOのデータを用いた制御研究などを進めてきました」。
ITS世界会議ドバイの展示をきっかけにUC-win/Roadを導入 2024年9月にドバイで開催された第30回ITS世界会議に、モビリティ通信系の研究に関するパネルディスカッションの関係者として参加した際、フォーラムエイトの出展ブースを見学し、初めてUC-win/RoadのVRに触れたと、中里氏は振り返ります。「交通シミュレーションソフトや自動運転シミュレータはオープンソースのものも含めていくつか存在しているものの、ある程度プログラミングの知識・技術を持っていなければ使いこなせない部分があります。その点、UC-win/RoadはGUIの画面が非常に扱いやすく、データ作成においても、国土地理院地図やPLATEAUの3D都市モデルなどを活用して一度空間を作っておけば、交通流やシミュレーションの設定なども操作しやすいのが魅力です。国産ソフトでサポートや対応が迅速かつ手厚いことも、導入の決め手でした」。
通信分野におけるモビリティへの関心の高まり 中里氏が東京大学在籍時に、構造計画研究所との共同研究(総務省 令和6年度「持続可能な電波有効利用のための基盤技術研究開発事業(FORWARD採択)」(https://www.tele.soumu.go.jp/j/sys/fees/purpose/forward/index.htm)として行った研究では、3次元の交通シミュレータを構築。その際、通信は地表で反射するため、現実と同様のシミュレーションを行うためには3次元データに標高が反映されている必要がありますが、使用していたオープンソースのシミュレーションツールは標高に対応していなかったため、車が傾いたり坂がうまく表現できなかったりといった問題が発生しました。 「例えば自分の車の横に突然バスが進んでくると、電波の遮断が起きてしまうといった問題を正しく捉えるためには、車の位置座標をより3次元に考慮する必要があります。3次元として捉えず、ある程度の確率で遮蔽が起きるといった研究はありますが、決定論で行っている研究の数はそれほどありません。通信系の人間としては2次元の方が扱いやすい面はありますが、3次元化という課題を解決するために、フォーラムエイトのUC-win/Roadを導入した次第です」。 車側の性能を向上する研究はすでに行われているため、中里氏としては融合領域に入っていくことを意識しています。「通信分野と交通分野の知見を相互に組み合わせて、それらの横断領域を扱う人はかなり少ないのが現状ですが、このような通信を3次元化して扱う手法は実用化フェーズに入りつつありますので、今後モビリティに対しての関心はより高まっていくのではないかと考えています。一方でUAVについても東京科学大学タン研究室、工学院大学宗研究室らと研究を進めております」。 UC-win/Roadを活用したシミュレーション環境を構築 現在中里氏は、ドコモ・インサイトマーケティング社から交通流・人流データとして購入できるTABLEAUを活用し、UC-win/Roadを中心として様々なツールを組み合わせることでシミュレーション環境を構築。任意の道路IDに対して、一定時間に双方向でどれくらいの車両数が行き来しているかの台数を算出できることから、これらのデータをSUMOにインポートした上で、UC-win/Roadで位置情報を同期させて交通シミュレーションのプラットフォームとし、研究に活用しています。また、こういった研究成果をウェブアプリで制作することなくWebブラウザを使ってクラウドで確認・共有できるメタバースの活用にも関心を向けています。 |
(Up&Coming '25 盛夏号掲載) |
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