Users Report
ユーザー紹介/第129回
三菱地所パークス株式会社
コンサルティング本部
高度化する駐車場へのニーズに
ICT活用の独自ソリューションで対応
設計段階からの可視化にUC-win/Road、
連接バスの検討視野に車両軌跡作図システムを導入
三菱地所パークス株式会社
技術顧問 池上雅美 氏
「まだ出来ていないビルの(2次元(2D)の)設計図の中を(3D VRで)可視化し、クルマでハンドルを動かして(シミュレーション。)どういうふうな(構造の)駐車場になっているか、設計段階で検討するようなツールというか、システムを作りました」
駐車場を専門とするコンサルティング業務に携わる中で、伝統的な2DのCAD図面のみによる空間認識や細部に及ぶ表現、走行経路の安全確認などの難しさといった課題が浮上。そうした制約をクリアすべく先進のICT(情報通信技術)を駆使し、駐車場コンサルタントとして必要になる新技術の自社開発に力を入れてきている、と三菱地所パークス技術顧問の池上雅美氏は述べます。
そのような取り組みの特徴的な一つとして、氏は「3Dパーキング・シミュレータ」に言及。4年ほど前に構築された同システムは、以来、複数プロジェクトで駐車場の設計チェックなどに用いられており、顧客からは非常に好評を得ている、といいます。
今回ご紹介するユーザーは、三菱地所パークスにおいて設計段階の駐車場部分に関する様々な検討を主に行うコンサルティング本部。その中で駐車場内、あるいは駐車場と近接する交差点を含むエリアの各種分析や検討、さらにそのためのシミュレーションを担当する各氏の取り組みに焦点を当てます。
同社では、前述のシミュレータや交通シミュレーション向けに、先行して導入したマルチモーダル交通シミュレーションソフト「Vissim」(ドイツPTV製品)の交通解析結果との連携、あるいはニーズに応じた同ソフトとの使い分けを目的に2年ほど前、フォーラムエイトの3DリアルタイムVR「UC-win/Road」を導入。併せて、連接バスに関するシミュレーション向けに、当社の車両走行軌跡の計算や軌跡図の作成プログラム「車両軌跡作図システム」を導入し、それぞれの特性に着目した独自の活用が展開されています。
3Dパーキングシミュレータの活用により駐車場計画の確認を実施
4月1日より新社名に
駐車場コンサルテイング業務は、1998年に設立された株式会社駐車場綜合研究所においてスタートされたが、同研究所は2020年4月1日より三菱地所リアルエステートサービス株式会社のパーキング事業と統合し、新たに三菱地所パークス株式会社として発足した。
新会社は総合駐車場会社として従来事業を強化・推進するのに加え、AIやIoTなどの先端技術を活用し、次世代の駐車場運営手法の研究開発に注力。グループ各社の知見とも連携しし、駐車場を核とする新たなモビリティ時代の街づくりに資する、との構想が描かれました。
駐車場コンサル業務の実情とICTの有効活用
同社の駐車場コンサルティング事業は、1)駐車場の設計に関わる検討、図面作成および改善アドバイス、2)管制機器の配置計画、3)機械式駐車装置の導入計画、4)路面ペイントや誘導・安全対策サインの検討、5)駐車場の意匠設計やパース制作、6)駐車場の事業化やマネジメントの検討、7)各種協議用資料の作成― など、多岐にわたる業務をカバーします。
そこでコンサルティング本部は、例えば、基本設計段階の駐車場に来るクルマの台数を設定し、その駐車場が決まった時間にそれらのクルマを処理できるかどうか多角的に分析。改善の必要がある場合、処理できるようにするためにはどのような車路、管制機器あるいは誘導サインなどの設計変更が必要かをまとめ、発注者に提案している ― 。自ら時間帯や曜日といった諸要因を反映する交通処理や駐車場の稼働状況、収支など様々なデータの分析を担う池上技術顧問は、自身らの業務の一端をこう説明します。
一方、そのベースにあるのが、ICTの有効活用に積極的な同社独自のスタンスです。つまり、上記のような作業プロセスにおける有用なツールの一つとして、冒頭で触れた3Dパーキング・シミュレーターの構築に繋がっています。
これは同社施設の一室にドライビングシミュレータ(DS)を設置。市販の各種ソフトウェアやハードウェアを適宜活用しつつ、CAD図面を基に駐車場内の空間を3Dでシミュレーションできるようシステム化したもの。「その中でより具体的にクルマを動かして車路や車室、スロープ(斜路)などをシミュレーションするためにUC-win/Roadを使っています」。導入前からUC-win/Roadの可能性に注目していたという同本部の御担当者は、同システムでのUC-win/Roadの位置付けに言及。こうしたアプローチが浸透してくるとともに、当初は基本設計のチェックの一環として3Dによる可視化が取り組まれたのに対し、近年は可視化自体のニーズのウェートが増大してきているといいます。
UC-win/Roadによる検討
連接バスの検討ニーズ受け車両軌跡作図システムを導入
「私は(駐車場の)ハード面でいろいろな作業をしていまして。CADやIllustratorを使い、例えば、『駐車場の路面ペイントやサインはこうした方が良い』というの(のイメージ)を具体的にパソコン上で作り、資料に落とし込むと(いったことをメインに行っています)」
そう語る同本部コンサルティング部の吉村奨氏がフォーラムエイトの「車両軌跡作図システム」を初めて使用したのは、連接バスの走行軌跡を描くことが求められた2年前に遡ります。
同本部ではそれまで長く、車両の軌跡を描く別のプログラムを利用。ところが、ビルの下部に大型バスターミナルを建設するという案件で、連接バスの車両軌跡について検討する必要が浮上。ただ、同社の既存ソフトではそれに対応できず、市販ソフトで唯一それが可能だった当社の車両軌跡作図システムを導入。これの利用により、施主に対し「この車路は(連接バスが走行しても)軌跡上問題ありません」といった説明、あるいは「この辺りは設計上、(連接バスの走行が)ちょっと難しいので、こういう形でいかがですか」といった提案に繋げてきたといいます。
「それまで単体の車両の軌跡しか描けなかったのですが、連接した車両の軌跡を描けることによって(その成果を)検証協議に使用できるようになる等、事業者さんからもすごく助かったという声をいただいています」
駐車場設計 VRによる検討
VissimとUC-win/Roadを連携し有効活用
一方、5年ほど前、5,000台収容の大型駐車場の建設に絡むコンペが実施され、ゼネコンなど複数社がこれに参加。そのうちの1社からの依頼を受け、同社は設計段階の駐車場で1時間に何台のクルマを処理し所定の車室に駐車させられるかの検討を担当。その際の交通シミュレーションで初めてVissimを使い検証作業を行った、と池上技術顧問は振り返ります。
同本部では以降、1)2,500台収容の大型駐車場において基本設計を基にスロープ部分の改善案を数パターン、交通シミュレーションにより処理時間の短いものから順位付けして行った提案、2)始業時刻の前1時間ほどに入庫するクルマが集中する従業員駐車場における交通処理の検証、3)近接する交差点の処理能力や周辺道路への影響も考慮するための、交通信号や周辺エリアからの流出入を含む駐車場内の交通処理の検証 ― など、様々なプロジェクトでVissimの利用を進めてきました。
そのような中で2年前、駐車場における自動運転技術の検討を行った際、同本部ではUC-win/Roadを導入しています。そこではUC-win/Roadの、Vissimでは表現できないクルマの動きへの対応が可能でありながら、Vissimと同様にクルマの挙動シミュレーションも可能な機能に注目。また、UC-win/RoadはVissimの交通流解析結果を読み込み、可視化することが可能。加えて、Vissimが大量の車両を扱う交通処理の再現を得意とするのに対し、UC-win/Roadは1台1台のクルマがどう動いているかの再現に容易に対応するなど、両者の相互補完的な機能に期待。上記検討では、自動運転の個々のクルマの挙動を再現できることがキーとなり、UC-win/Roadの採用に至ったといいます。
そこでは「1台のクルマが走ってきて一旦停車し、バックして車室に駐車。その後再び走り去る」という一連の動きの、各種前提条件をパラメータとしてUC-win/Roadに入力。その上で例えば、「1時間に自動運転のクルマが50台、手動のクルマが100台、駐車場に来た場合」の全150台の動きを、両者の比率を変えつつUC-win/Roadで再現しています。
Vissimによる駐車場内の滞留シミュレーション
高度化する駐車場ニーズへ新たなアプローチ
「連接バスの案件は今後、増えてくると思われます」。ただ、都心は道路や駐車場のスペースに制約があることなどから、吉村氏は政令指定都市を中心とする地方でニーズが高まってくる可能性を想定。加えて、駐車場を巡る多様化・高度化する要求を踏まえ、車両軌跡作図システムを使っての検討に際し自身らの蓄積した知見が一層重要になると説きます。
また吉村さんは他のツールで作成した3Dモデルや解析データをシームレスに繋げられるUC-win/Roadの機能を高く評価。加えて、前述のようにVissimとUC-win/Roadを各案件のニーズに即して連携、あるいは使い分けできるメリットに言及。今後の広がりが予想される自動運転関連の案件に向け、MATLAB連携などUC-win/Road活用の次なるステップも視野に入れているといいます。
最近の駐車場をめぐる特徴的な傾向として池上技術顧問は、1)駐車場の大型化に伴い出入するクルマの数の増大化、2)自動運転車の多様な機能レベルの混在、3)自動運転車の段階的な普及による駐車場における既存車との混在比率の変化、などを列挙。そこでの各種シミュレーションの重要性に触れます。
「UC-win/RoadがVissimで再現できない部分をカバーしているという意味では、両方がセットであると非常に良いシミュレーションができるということ。案件ごとに検討して(より効果的に)使っていきたいと思っています」
執筆:池野隆
(Up&Coming '20 春の号掲載)