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恵那市は13の町が一つになったまちです。全国的に知られた地域もあれば、名前は知られていなくても住民にとって大切な集落もあります。市長は「合併後、すべてを均一にするのではなく、それぞれの個性を伸ばしたい」と話します。「13の町は、どこも良い町だった。でも住所を見ると全部恵那市だった。そんな姿が理想です」。 その「個性を光らせるまちづくり」を支える基盤として、小坂市長が強調するのがデジタルの力です。「都会には当たり前にあるものが、田舎にはない。でもデジタルがあれば、優れた教育や専門的な知に出会うことができる。ハンディキャップを補ってくれるのです」と語ります。 メガネが世界を見やすくしてくれるように、デジタルは地方の挑戦を後押しする道具であり、人口減少の中でも暮らしを維持するための重要なツールだという考え方のもと、恵那市は行政分野だけでなく、まちづくりやモビリティなど幅広い領域でDXに取り組んでいます。 |
見えない未来を“見せる”VRの力 フォーラムエイトの3次元リアルタイム・バーチャルリアリティソフト「UC-win/Road」導入も、その象徴的な取り組みのひとつです。リニア中央新幹線の開業に向けては、大規模なインフラ整備が伴うため、住民説明と合意形成が避けられません。平面図だけではイメージしにくかった道路や構造物の変化も、3Dシミュレーションで「上空から俯瞰」し、「自分たちの目線」で確認できるようになることで、住民の理解度は大きく向上したといいます。 「職員が自分たちで操作して、3Dシミュレーションを作れるようにすることを重視しました」と語るのは、恵那市役所 まちづくり企画部次長 松田泰明氏。外部委託に頼らず庁内でモデリングと修正ができることで、コストも時間も削減できる。住民意見をその場で反映して画面上でルートを動かし、変更後の姿をすぐに見せられる―。そうした“リアルタイムな合意形成”こそが、恵那市がフォーラムエイトのUC-win/Roadを導入した大きな理由でした。 小坂市長は初めてUC-win/Roadで作成したVR映像を見たときに「一体いくらかかったんだろうと思った」と語ります。しかし実際には、外部に発注して作り直していた頃よりも、コスト・時間の観点で総合的な負担は減少しました。くわえて、「ここはもう少しこうしたほうがいいのでは」という住民の声に、シミュレーション上で即座に応えられるようになり、対話性が格段に向上したといいます。「デジタルツインのように、先に仮想空間で検証してから現場に落とす。手間も時間もお金もかかるリアルの前に、何度でもやり直せるのがVRの強みです」と市長は評価しています。 第24回 3D・VRシミュレーションコンテスト
審査員特別賞 地域づくり賞|東濃地域次世代モビリティ都市イメージ|岐阜県恵那市
ラリージャパンがつなぐまちの誇りと未来へのバトン ラリージャパンの開催も、デジタルとまちづくりの両面で恵那市に新たな視点をもたらしました。市内で4回目となるWRC開催を経て、市民の間にも「恵那はラリーのまち」という認識が着実に広がってきたといいます。
ラリー前日に、明智町のレストランにドバイからVIPが訪れたエピソードや、駅前で市長に「ラリージャパンをやってくれてありがとう」と声をかけ、豊田まで観戦に出かけた高校生、一週間休みを取って全日程を追いかけたファンの話など、市長の口からは数々のエピソードが語られました。 「世界のトップドライバーたちが、自分たちのすぐ近くを走る。その姿を子どもたちが目にすることで、将来にどんな影響があるか楽しみです」と市長は語ります。 フォーラムエイトが主催するバーチャルデザインワールドカップで恵那市が課題フィールドとなった際には、自然や歴史、文化とテクノロジーを融合させた学生たちの提案に刺激を受けた、と市長は振り返ります。「単にテクノロジーを入れるのではなく、守るべき自然や歴史を徹底的に大事にしたうえで融合させる―若い感性から、それを改めて教えてもらいました」 デジタルと人が寄り添うまちへ こうした取り組みをさらに前に進めるための鍵として市長は「人材」を掲げます。 「東京から専門家を呼び続けるのではなく、地域のことは地域の人が、自分たちの手で切り開いていかなければならない」。そのためには、デジタルに強い人材が地域に根を下ろし、愛着のある故郷のために力を発揮できる環境づくりが欠かせません。職員自らが使いこなせる高度なデジタルツールの導入は、そうした人材の循環を現実のものにし、この動きを一気に加速させました。 恵那市では合併時から全世帯に光ファイバーを整備しており、「通信の足回り」で困ることはほとんどないといいます。インフラには惜しまず投資し、その上に人材とサービスを積み上げていく―。現場で使える実装型のデジタル技術が加わったことで、“構想”は“実行”へと確かな一歩を踏み出しました。 「お金をかけずにできることが、必ずしも正しいとは思いません。本物を目指すなら、それなりの投資と覚悟が必要です」と、市長はデジタル技術への思いを語ります。 これからさらに力を入れたい分野として、市長は市民の暮らしに寄り添うデジタルサービスを挙げます。スマートフォンの中に「市役所アプリ」があり、やるべき手続きや健康づくりのアドバイスが自動で届く。AIが“お節介なパートナー”として、子どもの夢の実現や大人の健康管理、家計の自制をそっと後押しする―。そうした未来像を「絵空事」で終わらせず、「実装可能な選択肢」に変えつつあるのが、いまの恵那市です。 東山道・中山道、中央本線・中央道、そしてリニアへ。古くから東西の人と文化が行き交ってきた恵那市は、これからも多様な人と技術が交わる「ハブ」として、新しいまちのかたちを模索していきます。そのそばには、きっとVRや3Dシミュレーション、そしてそれを使いこなす人々の姿があるはずです。
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| 執筆:三代 やよい/写真:峯 竜也 (Up&Coming '26 新年号掲載) |
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