本連載は、「組込システム」をテーマとしたコーナーです。大手メーカー新規商品、特注品、試作機等の組込システムを約30年間に渡って開発してきた実績にもとづいて、毎回さまざまなトピックを紹介していきます。第15回は、DXを実現するためのシステム要件定義について解説いたします。

執筆 組込システム開発チーム

VRシステムをはじめとした関連分野における展開を推進。組込システム開発、マイコンソフトウェアの受託開発、コンサルティングを中心とした事業を展開。

DXを実現するためのシステム要件定義

■システム開発における要件定義の重要性

システム開発の要件定義は、システムの要求を獲得して仕様化を行いスムーズなシステム開発につなげる活動です。システム開発の中で最も重要であり、かつ難しいとされています。情報技術において要件定義を扱う要求工学は、ビジネスや製品の企画から情報システム開発に至る要求を合理的に定義し、社会・ビジネス・情報システムの価値を高める技術です。

JIS X 0166:2014(ISO/IEC/IEEE 29148:2011)において、要求事項を工学的に扱うために必要な開発ライフサイクルのプロセスが規定されています。要求定義プロセスは、要求獲得・要求分析・要求仕様化・要求の検証と妥当性の確認評価のプロセスからなります。

ここでは、DXを実現するために、要件定義プロセスの中で特に重要な要求獲得である事業やサービスの構想、要求の検証と妥当性の確認について述べます。

■DXを実現する事業やサービスの構想

イノベーションを起こすアイデアの創出は課題解決ではなく問題発見であり、今までの概念を超えてアイデアを創造することが必要です。近年のIoTなどの通信技術・ビッグデータ・AIなどの情報技術の進化により、異なった社会組織・業界・業種が異なった文化・目的・環境・時間の中で相互につながることができます。ほとんどの革新のための糸口は、個別の要素ではなく要素間のつながりの中に存在します。

(1)つながりの視点

一つの視点は、ビジネスエコシステムです。情報技術がビジネスモデルを変化させ、業界の垣根が崩壊しつつあります。複数の企業や団体がパートナーシップを組み、それぞれの強みを生かしながら、業種・業界の垣根を越えて共存共栄する仕組みであるビジネス上の生態系を、ビジネスエコシステムといいます。革新するビジネス創造のためには、自社や自組織の枠組みの中で創造するのではなく、業界を越えた連携が不可欠です。最終ユーザの視点に立ち、業界・業種・組織のつながりの中に新たな価値を創造できます。

もう一つの視点はバリュー・チェーン(Value Chain)です。バリュー・チェーンは、原材料や部品の調達活動、商品製造や商品加工、出荷配送、マーケティング、顧客への販売、アフターサービスといった一連の事業活動を、個々の工程の集合体ではなく、価値(Value)の連鎖(Chain)として捉える考え方です。1つの製品やサービスが顧客のもとに届くまでには、さまざまな業務活動が関係します。それらの活動のつながりから、領域を超えた協創による付加価値が生み出されるしくみや新たな価値の可能性を創造することができます。

(2)つながりを革新するために

つながりの中から新たな可能性を創造するためには、それぞれの領域を俯瞰して分析する人が重要になります。それぞれの領域の専門家が集まりワーキングを行っても、グループシンクの状態となります。

グループシンクとは、集団による意思決定プロセスとその結論が、個人で行う場合よりマイナスに作用し非合理な結論になる傾向のことです。自分よりもその領域に詳しい人がいるとその人の意見にしたがって自分の頭で考えなくなり、メンバーが相互にもたれあい、責任感が薄れるだけでなく、自分たちの結論が最適であると過信することになります。この状態で、専門領域を横断して総合的に考える人はいません。そのため、専任で俯瞰する人を任命する必要があります。

専門領域を超え俯瞰して分析する人は、ファシリテータとしての役割も必要です。自ら全体を俯瞰し構想を作り、各分野の専門家から知識やアイデアを引き出し、それらから総合的な知見を得て俯瞰レベルを深め、各専門家からより深い知識を引き出すことを繰り返します。俯瞰する人は中立であり全体利益を公平に見て総意を導き、マイナス面を隠さず丁寧に対応することにより全体から信頼されることが必要です。組織や企業をまたがる協調の壁は大きいですが、逆に大きな可能性と価値をもたらします。

革新のためには会社・組織を横断した活動の実現が必要であり、利用者、地域社会、異業種企業やベンチャー企業を含むビジネスパートナー、自治体等とともに価値を創り出す価値共創のビジネスエコシステムを構築する必要があります。そのためには、一企業の利益ではなく、最終利用者、オーナーを巻き込み、官・学・産の連携などの協調が行えるしくみの構築を模索していくことが必要になります。

■DXを実現する要求の検証と妥当性の確認

関係者への理解を深めて本格的な革新を実行するためには、実証実験による確証が必要になります。DXを行う変革は前例のない施策や、評価が定まらない新技術を活用する試みが多く、結果的に不確実性が高くなる傾向にあります。そして、その不確実性の追及から他をリードできる革新のノウハウや真の革新ビジネスを発見するチャンスがあります。

(1)PoC(Proof of Concept:概念実証)

PoCは、新しい概念や理論、原理などが実現可能であることを示すための実証実験です。一通り全体を作り上げる試作の前段階で、要となる新しいアイデアなどの実現可能性を示すために行われます。新たな発見や技術、今までにないアイデアや手法、あるいは既知の要素についての試されたことのない組み合わせについて、机上の理論や構想に留まらず、具現化や実用化、応用、導入などが可能であることを実際に検証します。

特に、基礎とする理論や構成要素が複雑、巨大で机上の検証では不十分なもの、実地での試行以外で効果や影響などを確かめるのが難しいもの、現物には多大なコストと期間が必要な場合など、小規模な実証で出資者や関係者の理解を得る必要がある場合に行われます。

(2)ミニマム実証仕様

実証実験は不確定要素が多く想定外の事象も起こるため、予測していなかった期間や予算が発生することがあります。検証内容を欲張った場合、もう一歩まで届きながら後が進められなくなることがあります。

最初に不確定要素を抽出し、検証が必要な要件を洗い出します。次に検証要件の優先順位を検討します。検証内容は効果や効用・技術的実現性・構想の具体性などがあります。最も優先順位が高いのは、効果・効用であり、他の項目が実現できてもすべてが無意味になるかもしれません。実証することが困難な不確定要素も多くあります。しかし、何らかの解決策を見つけない限り、革新を進めるための協力が得られず、中途半端な範囲限定の活動に止まり、成果を得ることができなくなります。

リスクの大きさ、実証のための投資予算、必要な期間、得られる実証データの精度を検討し、できる限り小規模な実証仕様にします。さらに、実証のための評価基準と評価方法を明確にすることが必要です。一旦実証実験プロジェクトがスタートすると暴走して停止することが困難になる恐れがあります。このため、実証実験の途中段階においてSTOP条件、GO条件、見直しタイミングの設定を行うことが重要です。

(3)リスクを考慮した計画の作成

不確実性の高いプロジェクトの実行計画には、PDPC(Process Decision Program Chart:過程決定計画図)を用いることが効果的です。PDPCは、計画時に情報不足や環境などの変化による不測の事態をあらかじめ想定して、不測の事態が発生したときの対応策を計画に織り込み、望ましい結果にいたる過程を定める手法です。

最初に、すべてがうまく進む計画を作成します。次にリスク検討を行い、計画が進行する過程でのさまざまな不測の事態を想定します。さらに、その不測の事態が発生した場合の打開策を検討します。不測の事態が発生した場合における計画の枝分かれを追加し、打開策のルートを作成します。

問題が発生した時の影響が大きな場合は、その工程をできる限り先行させる計画に組み直します。これにより、早い段階でリスクを低減した不測の事態に対して最も影響の少ない計画を立案できます。

(4)検証

実証実験では、机上の検証ではわからなかった問題や、軌道修正のための新たな方向性などを発見することが可能になります。実証実験の途中であってもストップ基準に従い、必要な場合には躊躇なくストップします。修正して継続、検証ゴールの修正、構想に戻る判断を経営レベルで行います。期待されない悪い情報を含めた忖度のない情報を入手して分析します。

コンセプトの調整を行いながら何度もPoCが繰り返されることもあります。軌道修正を行う要因とその対策は、最終的なシステム開発のための貴重な設計根拠です。このような知見を蓄積していくことで、成功できる構想や要件を立案できます。投資に対して十分な効果が得られる場合には、実用化や本格導入へのゴーサインを出し、本格的なプロジェクトをスタートします。

■フォーラムエイトはビジネス価値の創出を支援

フォーラムエイトは、お客様のビジネス課題をお客様と一緒に考え、ソリューション・ビジネス価値の創出を提案します。要件定義は、ビジネスとITシステム構築の橋渡しであり、今後もシステム化における上流工程の重要性は高まります。フォーラムエイトは公平な立場のファシリテータとしてDXのためのシステムデザインを創造し、異なる分野・組織・しくみ・システムが連携して最適な組み合わせを実現するシステム要件を導き出し、的確なシステムを開発する支援を行います。

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(Up&Coming '21 盛夏号掲載)



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