本連載は、「組込システム」をテーマとしたコーナーです。大手メーカー新規商品、特注品、試作機等の組込システムを約30年間に渡って開発してきた実績にもとづいて、毎回さまざまなトピックを紹介していきます。第16回は、DXを実現するためのデザイン思考について解説いたします。

執筆 組込システム開発チーム

VRシステムをはじめとした関連分野における展開を推進。組込システム開発、マイコンソフトウェアの受託開発、コンサルティングを中心とした事業を展開。

DXを実現するためのデザイン思考

■VUCAの時代におけるデザイン思考の必要性

現代は、VUCAの時代と称されています。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉を組み合わせたものです。政治・経済やビジネス・個人のキャリアなど、ありとあらゆるものが不透明で複雑さを増し、将来の予測が困難な状況になっています。業界の概念を覆すサービスが生まれ、今までの常識が非常識になり、今まで非常識だと思っていたものがこれからの常識になってきています。

このVUCAの時代において、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくためにデザイン思考(Design Thinking)が注目されています。デザイン思考は、デザインに必要な思考方法と手法を利用して、人のニーズを捉える事を起点にアイデアの創出やビジネス化の検討を行う方法です。ここでは、DXを進めるために重要なデザイン思考の本質的な3つのポイントとして、感性を重視した人間的な側面の“人間中心設計(HCD:Human Centered Design)”、右脳と左脳を同時に機能させ理解する俯瞰、目標達成に向けて隠れた要素を発見していく反復型開発について述べます。

■デザイン思考のポイント1 人間中心設計

現代は、コモディティ化により大量生産・大量消費の価値観が衰退し、モノからコトの時代に移りました。当たり前の機能があった上で、ユーザに楽しさ・驚き・心地よさを与え、是非また使ってみたいと感じてもらえるような、より人の立場や気持ちに寄り添った人中心の起点で発想するデザイン思考が重要になってきました。革新的な技術を開発するだけで革新が起きるのではなく、多様化する社会のニーズを人間中心設計で新しい価値に結び付けることにより本当の革新が実現します。そのためには、消費者インサイトの発見が必要です。消費者インサイトとは消費者自身が無意識のうちに抱いている本音であり、消費者が自覚していない購買行動に至る本質的要因です。マーケティング活動を行う側は、この消費者インサイトを発見する必要があります。デザイン思考は、ユーザにEmpathize(理解と共感)を通して消費者インサイトを探ります。しかし、本当に理解し共感することは、容易ではありません。

日々の生活・文化・バックボーン・環境・将来の動向を把握し、徹底した感性レベルで対象となる人以上にその人になりきらないと共感には至りません。性別・年齢・性格・おかれた環境・日々の生活の違いなど、消費者の共通項で見るのではなく、徹底的に個別にも入り込み分析する必要があります。例えば、優秀な役者は時代劇の主人公を演じるために、その時代の歴史書を読み私生活でも主人公になりきって行動することにより役作りを行うそうです。

■デザイン思考のポイント2 俯瞰

デザイン思考は、複雑な問題を分解せずに複雑な状態のまま捉え、論理的な左脳の思考と感覚的で空間的な認知の右脳の思考を相互補完的に機能させながら、既知の側面だけでなく未確定の側面も合わせて検討することにより、理詰めだけでは到達できない新たな関連性を導き出すデザイナーの思考様式です。本項では、検討対象の様々な要素の相互関係を把握し、全体の特性や振る舞いをイメージすることを俯瞰と呼びます。

近年のIoTなどの通信技術やIT技術の発達により、ありとあらゆる機器・組織・ビジネス・文化をつなげることが可能になりました。このつながりの中に新たな価値が存在します。新たな価値を創造するためには、全体を俯瞰しない限り不可能です。俯瞰を行うためには、検討対象を右脳により空間的に捉えて全体の構造をイメージします。次に、具体的な事象が構造の要素間でどのように振る舞うかについて左脳による論理的な分析・検証を行い、構造やその構成要素の役割などを修正し、さらに詳細な構造をイメージします。これを繰り返すことにより、正確で詳細な構造と振る舞いをイメージすることが可能になります。

最初は、構造や構成要素の役割が頭の中に入っていないために局所的な検討しかできず手探り状態です。しかし、繰り返し分析を進めることで各構成要素の機能や性質、構成要素の相互関係や振る舞いが頭の中に入ってくることにより、同時に頭の中でイメージできる範囲が大きく広がり、やがて目から鱗が落ちるように全体像がイメージでき俯瞰が可能になります。俯瞰するためには、この助走期間を十分に確保することが重要です。しかし、大規模なシステムでは、多彩な専門知識が必要であり、一人だけですべてを俯瞰することが困難です。俯瞰するためには多くの専門家の助けが必要になり、ファシリテータとしての能力と活動が必要になります。

ファシリテータとは、会議や研修などの進行、参加者への発言の促進、話の流れのまとめといった役割を担い、参加者をゴールに確実に導く誘導役です。俯瞰する人は、最初に全体を空間的に捉えて概要をつかみ、その中の重要な検討すべきシチュエーションを見つけ出します。その具体的なシチュエーションを関係する専門家に提示すれば、専門領域の知識や想像力を引き出し、様々なアイデアや情報を受けることが可能になります。その得られた知見をもとに全体をさらに深く俯瞰し、より詳細な検討すべきシチュエーションを抽出して専門家への相談を繰り返すことにより、多彩な専門知識を統合した精度の高い俯瞰を行うことが可能になります。全体が俯瞰できれば、新たな構成要素の追加、構成要素の機能・性能の追加や変更を想定し、その変化から連鎖して起こり得る全体への波及を分析することが可能になり、その中から新たな価値を見つけ出すことができます。


■デザイン思考のポイント3 反復型開発

答えのない世界では、糸口をつかむために試行錯誤から見出すデザイナーの感性を取り入れた活動が必要になります。デザイン思考は反復的な性格を有しており、途中で得られた結果は新たな可能性に繋がるスタート地点でもあり、場合によっては最初の問題を再定義することもあります。出来る限りの調査とそれに付加した感性で方向性を決め、論理思考による試作と評価で課題をつかみ、さらに深い感性で絞り込んでいきます。方向性を絞ることにより具体的な試作が行え、具体的であることから新たな情報を入手できます。そのため、試行錯誤の反復型開発を行います。

しかし、このような反復型開発を行うためにはマネジメントを革新する必要性があります。従来のマネジメントでは、明確な仕様と計画、期待貢献額が明確に見積もれないものに対してスタートさせることができません。また、必ずしも短期間で成功するとは限らないため、業務評価基準の見直しも必要になります。従来、見えないものは技術面であるために技術研究部門で試作開発が行われ、イノベーションは技術革新と同様に考えられてきました。しかし、イノベーションの本来の意味は、発明そのものではなく、発明を実用化し、その結果として社会を変えることです。社会のニーズの手掛かりを発見するところからスタートし、ターゲットを絞り込みながら利用者視点で見極め、新しい価値に結び付けることが必要になります。見えない手掛かりをEmpathizeで探るためには、そのためのシチュエーションを試作により整える必要があります。このため、試作対象や試作の進め方は従来からの技術開発と大きく異なり、マネジメントから変えていく必要があります。

また、もう一つの試作の必要性は、異業種連携のための関係者の理解と同意を得ることです。これからの革新は、一部門や一社だけでの革新では限界があり、ビジネスエコシステムなど異業種連携が必要になります。この異なった組織・ルール・文化・役割間をスムーズに連携できることを検証し、関係者に自信をもたせるための検証も必要になります。いかに多彩な結合を行い、多くの人を巻き込むかを考えることが重要であり、このための反復型開発のマネジメントも必要になります。

反復型開発は、最も短い時間で効率的に造るために、低コスト・短期間で作成した最低限の機能・サービス・製品で、顧客の反応を見ながら開発し、イノベーションを起こして短期間で大きな成長をとげていくマネジメントが必要になります。また、テストにより検証対象としていない事象を発見するなど、最初の問題から外れた重要な発見も多くあるため、変化や想定外の事象にも着目するマネジメントも必要になります。さらに、一旦試作を開始すると試作を継続すること自体が目的にすり替わり、活動が暴走する可能性があります。そのため、ストーリを作成して検証する要件を整理し、開発を中断し見直すためのストップ条件を明確にすることも必要になります。


■フォーラムエイトの役割

フォーラムエイトは、デジタルツインにおける仮想空間の様々なシミュレーション技術と現実空間の組込システム設計技術などDXのベースとなる革新技術を保有しています。新たなシステム価値を創造するためには、デザイン思考による感性の側面を含むアイデア探索的な反復型開発のスキルも必要となります。フォーラムエイトは、デザイン思考でお客様と一緒に新たな価値を創造する支援を行います。

超スマート社会のためのシステム開発
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約30年間に渡って大手メーカー新規商品、特注品、試作機やマイコンソフトウェア等の受託開発に携わった豊富な経験にもとづいて、これからのスマート社会を支える上で不可欠な組込システム開発の考え方・知識・手法を紹介。システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注/受託に関わる方は必読の手引き書です。

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(Up&Coming '21 秋の号掲載)



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