ピルビスワーク実践講座

連載 第17回


動けるからだを造るピルビスワーク
現代人の意欲低下を「体からのアプローチ」で解決する

一般社団法人 日本ピルビスワーク協会

立花 みどり

profile

立花みどり

一般社団法人日本ピルビスワーク協会特別顧問
1980年代のフィットネス全盛期、多くのエアロビクスインストラクターの育成と、ダンススタジオの委託運営を手掛けた、エクササイズの草分け的存在。その後、『ヒトのカラダは骨盤が支えている』という点に着目し、一般社団法人日本ピルビスワーク協会を設立。以降、骨盤ブームの第一人者として活躍している。40年間に渡る研究と研鑽を重ねた“立花メソッド”は、人々の健康に大きな影響を与える施術というのみならず、その思想、哲学に至るまで洗練された人生論、生き方論であり、ヒトの生き方は姿勢に現れるという信念のもと活動を続けている。フォーラムエイトの健康経営の一環として毎週水曜に開催されているピルビスワークストレッチプログラムの講師も務めている。

近年、若年層から中高年に至るまで「なんとなく元気が出ない」「積極性が持てない」「覇気がない」という声が増えています。社会環境や精神的ストレスも大きな要因ですが、医学的な視点から見れば、その根底にはホルモンバランスと自律神経のリズムの乱れが存在しています。

そして、この乱れを生む代表的な3つの生活習慣が「睡眠不足」「スマホ習慣」「栄養不良」です。これらを体からのアプローチで改善していくことが、意欲低下から脱する第一歩になります。

ホルモンと自律神経が思考と感情を左右する仕組み

私たちの感情や意欲は「脳の働き」だけでなく、ホルモン分泌と自律神経のリズムに強く影響されています。

  • 夜に深い眠りが得られると「成長ホルモン」が分泌され、疲労回復や細胞修復が進みます。
  • 朝日を浴びると「セロトニン」が活性化し、気分が安定します。夜にはこのセロトニンから「メラトニン」が生成され、再び眠りへと導かれます。
  • さらに、自律神経のバランス(交感神経と副交感神経の切り替え)がスムーズに働くことで、日中は集中力と活動力、夜は休養と回復が確保されます。

逆に、睡眠不足や夜更かし、スマホ過多、食生活の乱れは、これらのホルモンと自律神経のリズムを崩し、結果として思考がネガティブに傾き、感情も不安定になり、意欲が低下するという悪循環を生みます。

~脳疲労ケアのためのエクササイズ~

STEP1

睡眠不足を体からアプローチする

良い眠りを得るためには「副交感神経」を優位にすることが大切です。特に、睡眠の1時間前には入浴を終えておくと、体温が下がるタイミングで自然な眠気が訪れます。その上で、耳から首筋にかけて「さする・揉む・伸ばす」といった刺激を加えると、迷走神経が働きやすくなり、脳と内臓のリラックス反応が強まります。これは単なるマッサージではなく、自律神経の切り替えを助けるセルフケアです。結果として入眠がスムーズになり、深い眠りが得られやすくなります。

STEP1 ー セルフケアの方法

1 耳を挟み上下にさする。

2 耳の穴を横に広げるように耳たぶを引っ張る。

3 片手で肩の骨を抑えて頭を横に倒し、首のストレッチ。

STEP2

スマホ習慣を体からアプローチする

スマートフォンの長時間利用は、視神経を酷使し、さらに頭蓋骨や首の硬直を招きます。これが続くと、脳は常に「緊張モード」に置かれ、気分の落ち込みや集中力低下につながります。そこで有効なのが、前頭骨を上から下へやさしく圧迫しながら、後頭骨に振動刺激を与える方法です。これにより頭蓋全体の緊張が和らぎ、視神経の負担も軽減します。首から頭にかけての血流が改善されることで、目や脳の疲れが取れ、思考の過活動が落ち着く効果が期待できます。

STEP2 ー セルフケアの方法

1 後頭骨と額を手の平で包むようにおさえる。

2 下を向きながら後頭骨は上に、額は下に向かって軽く圧迫する。

3 上を向きながら後頭骨は下に、額は上に向かって軽く圧迫する。
2~3を5~6回繰り返す。

STEP3

栄養不良を体からアプローチする

意欲低下の背景には「栄養の不足」も見逃せません。しかし、単に食べる量ではなく、胃腸がどれだけ栄養を吸収できるかが重要です。夜遅くまで飲食を続けると胃腸は休む暇を失い、翌日の消化・吸収力が落ちてしまいます。

そこで、21時以降の飲食を控え、夜間に胃腸を休ませる習慣を取り入れると、翌朝以降の食事からの栄養吸収が高まり、体が本来のリズムを取り戻します。これは「胃腸を整える=栄養を正しく取り込む」ことで、ホルモン分泌や自律神経の働きも改善するアプローチです。

STEP3 ー セルフケアの方法

1 空腹時に座った姿勢もしくは仰向けで行います。

2 鼻から息を吸ってお腹を最大に膨らませる。

3 鼻から息を吐いてお腹をえぐるようにへこませる。
2~3を10回ほど繰り返す。

体から始める意欲回復のステップ

以上の3つのセルフケアを習慣化することで、ホルモンと自律神経のリズムは少しずつ安定していきます。リズムが整えば、体内時計も正しく動き出し、自然と朝の目覚めや日中の集中力が高まります。

結果として、思考や感情はポジティブに傾き、自己肯定感が高まります。つまり、「意欲の低下」を解決するカギは、心ではなく体にあるのです。

(Up&Coming '25 秋の号掲載)



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