Users Product Trial Report
ユーザ製品体験レポート

三井共同建設コンサルタント株式会社
MCC研究所 防災研究室長 原田 紹臣

使用製品 UC-win/Road Ver.15土石流シミュレーション・プラグイン
3DVR技術を基盤とし、都市・交通等の計画や車両開発、情報システム全般で広く活用されている高度なリアルタイムシミュレーションソフトウェア。「土石流シミュレーション機能」では、土石流解析処理後、時系列での様子を3DVR空間上で可視化します。被害の防止、減災対策の検討および地域住民に被災状況を理解して頂く上で有効なツールです。

DX技術を活用した効果的な土石流対策の推進に向けて

三井共同建設コンサルタント株式会社 MCC研究所 防災研究室長
原田 紹臣(はらだ・つぐおみ)

1997年、三井共同建設コンサルタント株式会社に入社し、砂防部長を経て現在に至る。近年では道路防災分野を中心に、道路土工構造物設計の高度化、DX(CIM/BIM)やAIを活用した防災対策、インフラメンテナンスの維持管理等を担当している。一方、社会貢献活動の一環として、土木学会や日本道路協会、建設コンサルタンツ協会等において、専門委員の立場で、国土強靱化に関連する研究や基準の整備等について取り組んでいる。(立命館大学客員教授/京都大学大学院研究員、博士【工学/農学】、技術士【建設部門】)

写真1 令和3年7月、熱海市伊豆山地区土石流被災地周辺の空中写真
Copyright ©️ 地図・空中写真閲覧サービス 国土地理院

はじめに

近年、想定外の集中豪雨等による甚大な土砂災害が多く報告され、これらの災害への対応が課題となっている。特に、国土の約7割が山地で占められている我が国は、地形が急峻で地質も脆弱な地域が多く、豪雨等に伴う土石流発生リスクは非常に高い状況である。なお、全国的にも土石流発生による甚大な人的や経済的被害が多く報告されており、この様な土石流災害を防止、軽減することが社会的に強く求められている。

このような中、令和3年7月に静岡県熱海市で発生した土石流(写真1)について、一般住民が撮影及びSNSにおいて公開された動画を受けて、より一層の土石流被害に対する国民の関心が高まった。

一方、社会経済状況の激しい変化に対応し、インフラ分野においてもデータとデジタル技術を活用して、「社会資本や公共サービスを変革」させると共に、「業務そのものや、組織、プロセス、建設業や国土交通省の文化・風土や働き方を変革」により、「安全・安心で豊かな生活を実現」するための「インフラ分野のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」の推進が求められており、今後、更なる既往三次元地形データの有効活用(例えば、VR資料による円滑な事業推進)等が期待されている(図1、図2)。

図1 インフラ分野のDXの目的、概要(出典:国土交通省におけるDX:デジタル・トランスフォーメーションの推進について)

図2 i-Constructionの推進に向けた建設プロセス全体における3次元データの連携(出典:国土交通省におけるDX:デジタル・トランスフォーメーションの推進について)

本稿では、これらの背景を踏まえて、今後の土石流対策(例えば、写真2)におけるデジタル化された地形モデルの更なる有効活用(DX推進)に向けて、有効なツールの一つとして考えられる「土石流プラグイン(UC-win/Road Ver.15)」の概要とその活用方法について紹介する。

写真2 土石流等を捕捉して下流への土砂災害を防ぐ土石流対策事業(砂防堰堤)の一例

土石流シミュレーションモデル(UC-win/Road Ver.15;プラグイン)の概要

今回紹介する「UC-win/Road Ver.15」のプラグインである「土石流シミュレーションモデル」は、表1に示す既往研究(既往解析モデル)を計算エンジンとして開発されている。なお、表1に示すとおり、「土石流の流動予測」、「土石流の平面氾濫、堆積予測、「砂防堰堤等の土石流対策施設の効果予測」について一連で計算が可能であり、「UC-win/Road Ver.15」本体と連携して入出力(例えば、計算結果の可視化)するモデル構成となっている(図3)。

計算モデル 概要
土石流の流動予測(一次元モデル) 山地河川において発生する土石流の流動(侵食、堆積等の河床変動含)の時間的変化の予測について提案された計算モデル2)
土石流の平面氾濫、堆積予測(二次元モデル) 土石流により下流域において懸念される家屋等の被害予測について、平面的二次元的に拡張提案された計算モデル3)
砂防堰堤等の土石流対策施設の効果予測 計画する砂防施設の施設効果(土砂捕捉量)の予測について、透過型砂防堰堤から不透過型砂防堰堤まで対応可能な計算モデル2)、4)

表1 土石流シミュレーションモデルの概要
(搭載されている計算エンジン1)

図3「UC-win/Road(本体)」と「土石流シミュレーション・プラグイン」との関係(モデル構成)

参考文献

  • 中谷加奈・和田孝志・里深好文・水山高久:GUIを実装した汎用土石流シミュレータ開発, 土砂災害に関するシンポジウム論文集, Vol.4, 2008.
  • 里深好文・水山高久:砂防ダムが設置された領域における土石流の流動・堆積に関する数値計算, 砂防学会誌, Vol.58, No.1, p.14-19, 2005.
  • 和田孝志・里深好文・水山高久:土石流の1 次元・2 次元シミュレーションモデルの結合, 砂防学会誌, Vol.61, No.2, p.36-40, 2008.
  • 里深好文・水山高久:格子型砂防ダムによる土石流の調節に関する数値解析, 砂防学会誌, Vol.57, No.6, p.21-27, 2005.

なお、土石流シミュレーションに際して必要となる条件(例えば、地形条件や計画する砂防堰堤の位置設定)の入力については、マウスドラッグ等により工夫され、操作性に優れている(例えば、図4や図5、図6)。さらに、解析した土石流シミュレーション(流動)結果について、時間的変化も把握可能なVR動画として簡単に出力できる機能を有している(図7)。

図4 構築したUC-win/Road地形モデルからの土石流解析範囲の設定

図5 砂防堰位置や観測点(土石流量算定位置)の設定
(簡易的なマウスドラッグ操作)

図6 土石流シミュレーションにおける
入力・確認画面(わかりやすい画面構成)

図7 土石流シミュレーション結果の可視化
(時間的変化も考慮したVR動画作成)

ここで、土石流対策事業(例えば、写真2)における土石流シミュレーション(UC-win/Roadプラグイン)の期待される導入効果の一例について、表2に示す。

導入効果 概要
リスク評価結果の可視化 事業主体者(管理者)や事業受益者(地域住民等)等に対して、当該地域において懸念される土石流災害による被害リスクについて、複雑な計算結果を可視化によりわかりやすく説明
事業効果の可視化 また、当該地域において計画する土石流対策施設の事業効果(砂防堰堤の土砂捕捉効果等)についても説明
景観評価の検討 さらに、UC-win/Roadとの連携により計画する砂防堰堤等の景観評価や施工状況について説明

表2 期待される土石流シミュレーションプラグイン(UC-win/Road Ver.15)の導入効果

表2に示すとおり、事業推進において重要となる「(土石流被害)リスク評価結果の可視化」、「(土石流対策)事業効果の可視化」、「(砂防堰堤構築等の)景観評価の検討」等への適用が考えられる。

なお、参考として「UC-win/Road」及び「土石流プラグイン」を用いて可視化した事例(動画資料の事例)を図8に示す。

図8 UC-win/Roadで可視化した土石流対策施設の配置状況(左)や土石流の流動状況(右)

図8(上)は砂防施設の配置状況と、(下)は渓流内(土石流流動地点)視点場における土石流流動予測結果であり、「UC-win/Road」によるVRの可視化により、これらの状況について詳細に把握することが可能となる。さらに、ヘッドマウントディスプレイの併用により、臨場感を高めることも期待される(写真3)。

写真3 ヘッドマウントディスプレイ等を用いたVRによる体験授業の一例(NHK放映)

おわりに

今回、既往地形モデルの有効活用等の更なるDX普及に向けて、円滑な土石流対策事業の推進において有効と考えられる可視化資料作成ツールの一つとして、UC-win/Road Ver.15のプラグインである土石流シミュレーション機能や適用事例、導入効果等について紹介した。今後、これらの取り組みにより、更なるデジタル化時代に向けた技術の革新が期待される。

このような中、令和3年7月に静岡県熱海市で発生した土石流(写真1)について、一般住民が撮影及びSNSにおいて公開された動画を受けて、より一層の土石流被害に対する国民の関心が高まった。

一方、今後の更なる本プラグインの展望としては、近年問題となっている土石流に伴って発生する流木(例えば、写真4)の流動予測やそれらの施設対策効果に関する予測への拡張が期待される。

写真4 九州北部豪雨災害における流木による被害状況   

Users Report

ユーザー紹介/第117回(2017年4月掲載)

三井共同建設コンサルタント株式会社

第14回3D・VRシミュレーションコンテスト アイデア賞
「VRを用いた地域住民への土石流対策事業に関する説明手法の提案」

第15回3D・VRシミュレーションコンテスト エッセンス賞
「利用者からの視点に配慮したスキー場の施設計画」

(Up&Coming '22 新年号掲載)



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