2021年シーズンのWRC全戦が終了
トヨタが3つの世界選手権でチャンピオンに

最終戦の舞台となったモンツァでは激戦の末にセバスチャン・オジエが自身8度目の王座に輝く

2021年の世界ラリー選手権(World Rally Championship=WRC)最終戦『フォーラムエイト ACI ラリーモンツァ』が11月18〜21日にかけてイタリアで開催され、このラリーで優勝したTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamがマニュファクチャラーズ選手権の年間チャンピオンに輝いた。ドライバーズチャンピオンは同じくトヨタのセバスチャン・オジエ(フランス)が獲得。コ・ドライバーズチャンピオンは、オジエとコンビを組むジュリアン・イングラシア(フランス)が獲得し、トヨタとしては3つの世界タイトルを同時に制覇する偉業を達成したこととなる。

ドライバー/コ・ドライバー選手権は個人戦だが、マニュファクチャラーズ選手権は団体戦に近いイメージと言えるだろう。チームはラリーごとに最大3名のドライバーを事前登録し、そのうち上位2名が獲得したポイントの合計によって争われる。つまり、チームのドライバー全員が多くのラリーで安定した戦績を残すことができなければ、チャンピオンには手が届かないのだ。

ラリーは世界中のありとあらゆる道を舞台に開催される。雪と氷に覆われたアルプスのふもと、先が見えないほどの起伏がある森の中のハイスピードコース、田園地帯を駆け抜ける荒れた舗装路、曲がりくねった山岳路、岩が転がるラフロード……。ドライバーやクルマによっても得手不得手があり、チームによっては、そのラリーを得意とするドライバーを使い分けて、効率良くポイントを獲得する作戦を採ることもある。しかしトヨタは固定メンバーで2021年シーズンを戦い抜き、王座に輝いた。まさしくチームが一丸となって勝ち獲った結果だと言えるだろう。

WRCで名を馳せてきた日本メーカー

少し歴史を振り返ってみよう。トヨタが3つの世界タイトルを同時制覇したのは1994年以来のことだ。90年代中盤以降はWRCにおいて日本メーカーの全盛期と言ってもいい時代であり、トヨタと同時にスバル、三菱がそれぞれワークスチームを送り込んでいた。

日本メーカーのクルマはWRCが始まった当初の70年代から様々なラリーで活躍を続けてきたが、年間チャンピオン獲得を目標に据えて参戦を始めたのは80年代終盤のこと。その当時はイタリアのランチアが文字どおりWRC界に君臨しており、日本メーカーにとっては越えるべき壁ともいうべき存在だった。長年ランチアに挑み続けたトヨタが初めて3つのチャンピオンを手中に収めたのは94年。続けてスバルが95年、三菱も98年にトリプルタイトルを実現し、まさに日本車の黄金時代を築き上げた。しかしそれ以降はヨーロッパ車の台頭や景気後退の影響もあり、2008年シーズンを最後に、日本メーカーは相次いで撤退。17年のトヨタ復活まで雌伏の時を過ごすこととなる。

17年、WRCに復帰したトヨタは2戦目で早くも復帰後初優勝を飾ると、たゆまぬ改良を続けてライバルに伍するスピードを発揮するようになる。復帰2年目の18年にはマニュファクチャラーズタイトルを獲得してチームの総合力を示し、翌年からは2年連続でドライバーズ/コ・ドライバーズチャンピオンを獲得してヤリスWRCの強さを証明してきた。そして21年、ついに待望のトリプルタイトルを手中に収めた。

日本メーカーによるWRC チャンピオン獲得リスト

☆…同一メーカーで3タイトルを独占

12戦9勝という強さでシーズンを席捲したトヨタ

21年シーズン、トヨタは序盤戦から好調ぶりを発揮した。開幕戦モンテカルロを皮切りに5度の1-2フィニッシュを達成。12戦中通算9勝を獲得し、表彰台を外したラリーは1度もないという高い安定感をみせて、1年間を駆け抜けた。

特に最終戦のフォーラムエイト ACI ラリーモンツァは、トヨタのチームメイト同士による、王座を争うにふさわしい見ごたえのあるバトルが展開された。主役は選手権ランキングトップのオジエと2番手のエルフィン・エバンス(英国)。選手権をリードするオジエは3位に入ればチャンピオンが決まるが、一方、追う立場のエバンスは勝たなければ後がない。果たしてふたりは後続を引き離しつつ、一進一退の攻防を展開してみせた。2日目までを終えた段階で、トップのオジエと2番手エバンスの差は、わずかに0.5秒。決着は最終日に持ち越されることとなった。

そして最終日。残された3つのスペシャルステージ(SS)は、すべてがモンツァ・サーキットの敷地内で行われる。この日最初に走行した10.29kmのSS14では、それぞれ同タイムをマーク。息詰まる接戦が最後まで展開するかと思われたが、続くSS15ではエバンスが痛恨の ミス。エバンスは大きくタイムロスを喫してしまい、ここで明暗が分かれることとなった。最終SS、オジエはリスクを避けた走りでラリーをまとめ、優勝。自身8度目の世界チャンピオンがかかったラリーできっちりとミッションを成し遂げた。

2021年WRCドライバーズチャンピオンシップ

2021年WRCマニュファクチャラーズチャンピオンシップ

21年から代表の座に就き、トヨタチームを率いたヤリ‐マティ・ラトバラは、3つのチャンピオン獲得について次のようにコメントしている。「マニュファクチャラーズタイトル、ドライバーズタイトル、コ・ドライバーズタイトルをすべて獲得するため、我々のチームは懸命な努力を続けてきました。チームには本当に感謝しています。我々のチームには、素晴らしい人材と、WRCで最高のドライバーたちがそろっていますし、皆を本当に誇りに思います。セブ(オジエ)とジュリアン(イングラシア)が成し遂げたことは、信じられないほど素晴らしいものです。
2018年、私はトヨタのドライバーとして走り、マニュファクチャラーズタイトルを獲得しましたが、今回、チーム代表として再びそれを達成できたのは、特別な出来事です」

1 最終戦でチャンピオンを獲得し、チームのメンバーからシャンパンを浴びせられるラトバラ監督(中央)。

2 最後までチャンピオンを争い、真剣勝負を繰り広げたトヨタのオジエ(左)とエバンス。

3 山間部の難コースを駆け抜けるオジエのトヨタ・ヤリスWRC。

最終戦で手応えを得た勝田貴元
2022年の活躍に期待が高まる

21年シーズン、日本のファンにとって大きな注目を集めたドライバーが勝田貴元だ。開幕戦から3戦連続で6位、2戦連続で4位フィニッシュという高い安定感をみせ、第6戦サファリ(ケニア)では、キャリア最上位となる2位表彰台を獲得。その堂々とした戦いぶりで世界での存在感を大きく増したシーズン前半戦となった。なお、日本人ドライバーによるWRCでの表彰台獲得は、94年の篠塚建次郎以来という快挙であった。

しかし続く第7戦エストニアでは、高速ジャンプの着地時にコ・ドライバーのダン・バリットが背中を痛めるアクシデントが発生、大事をとってリタイアをすることに。その後のラリーではアクシデントなども続いてしまい、前半戦とは対照的に、思うように戦績を残せない状態が続く。

迎えた最終戦モンツァは、勝田にとってはキャリアで初めてSSでの最速タイムをマークしたラリーだ。勝田は序盤から堅実なタイムを重ね、上位集団の背後6番手を走行。最終日には左フロントサスペンションを破損してしまうトラブルにも見舞われたが、チームはわずか15分という限られた時間でこれを修復。勝田はチームの想いに応えて最終SSを2番手タイムで走り切り、7位完走を果たした。

ラリーを終えて勝田は、「今回のラリーは、自信をつけようとして臨みました。ラリーが進むにつれフィーリングが向上し、より積極的に攻められるようになりました。日曜日にはほんのわずかなミスから順位を落としてしまいましたが、最終SSを走ることができるようクルマを修理してくれたチームに感謝します。その最終のパワーステージでは2番手タイムを記録することができたので、今回のラリーではポジティブな収穫がありました」と語っている。

勝田はこの最終戦を前に、一度日本に立ち寄っている。自主隔離期間後の11月7日、愛知県豊田市で開催された『TGRラリーチャレンジ 第12戦豊田』でデモンストレーションランを行ったのだ。残念ながら21年のWRCラリージャパンは開催見送りとなってしまったが、その無念を晴らすかのように、会場に集まった日本のラリーファンの前でヤリスWRCのパフォーマンスを存分に披露した。

1 勝田貴元がデモランを行った『TGRラリーチャレンジ 第12戦 豊田』には、モリゾウことトヨタ自動車の豊田章男社長(中央)も参戦。ナビゲーションを行うコ・ドライバーは勝田貴元の父で全日本ラリーチャンピオンの勝田範彦が務めた。

2 最終戦モンツァで7位完走を果たした勝田。シーズン中盤は思うような結果が残せなかったが、良い流れで2022年シーズンに臨む。

3、4 豊田市の鞍ケ池公園で行われたデモンストレーションランには大勢のギャラリーが集まった。

今回はあくまでもデモンストレーションでしたが、僕自身もこの2年間で様々な経験を積んできましたし、ドライビングのレベルも以前とは比べ物にならないくらい上がった実感があります。だからこそ、ラリージャパンという舞台で、実際のラリーとして、皆さんの前でスピードやポテンシャルを見せたかったですね。それは22年大会で、新しいハイブリッド車両とともに、結果も含めていい走りを見せたいと思います」と、デモンストレーションを終えた勝田はコメント。迫力ある走りに会場からは大きな歓声があがった。

フォーラムエイトが2022年WRCの公式スポンサーに

なお、21年10月4日のプレスリリースにおいて、フォーラムエイトはWRCの公式スポンサーとして契約を締結したことを発表した。もともとは最終戦として予定されていたラリージャパンの単独オフィシャルタイトルパートナーを務める予定だったが、21年大会の開催中止を受けて、その代替として21年最終戦のラリーモンツァを皮切りに、22年までのWRC公式スポンサーとして支援を行う。

フォーラムエイトとしては、今回のスポンサー契約をきっかけとして、より高度なシミュレーション技術開発につなげたい狙いだ。そうした意味では、世界の様々な道を舞台とするWRCはまさにうってつけだと言えるだろう。日本企業がこれほどの規模でWRCにコミットすることはかつてなく、トヨタや勝田の活躍と相まって、今後WRCにおける日本の存在感は大きく高まることとなる。

22年シーズンのWRCは短いシーズンオフを挟んで、1月のラリーモンテカルロで開幕。地中海に面したモナコを拠点として、フレンチアルプスの厳しいワインディングロードで争われる予定だ。かつて幾多の名勝負が繰り広げられた『チュリニ峠』など、有名なSSを舞台に、新たな時代がスタートする。勝田も新しいヤリス・ラリー1をドライブして全戦に出場。最終戦に予定されているラリージャパンでは、表彰台を争いたいと意気込みを見せる勝田の活躍に、ぜひ注目してほしい。

2022 年世界ラリー選手権 開催予定カレンダー

※ 2021年11月25日現在のもの

(執筆:合同会社サンク)

(Up&Coming '22 新年号掲載)



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