ハイブリッドシステムを搭載したラリーカー“ラリー1”車両で競われるシーズンの動向をチェック

第2戦スウェーデンまでを終えてトヨタの若手ロバンペラが選手権首位に立つ

変革し続けるWRC、目指すは“持続可能なモータースポーツ”

2022年の世界ラリー選手権(World Rally Championship=WRC)が、1月から早くもスタートしている。伝統のラリーモンテカルロを開幕戦として、最終戦の『フォーラムエイト・ラリージャパン』まで全13戦、世界各地を舞台に熱戦が繰り広げられる。最後まで開催地の調整が進められていた第9戦は、昨年に引き続きベルギーでの開催が決定した。また、ニュージーランドは2012年以来のWRCカレンダー入りを果たすなど、話題豊富なシーズンとなりそうだ。

そして今シーズンの最も大きなトピックは、最上位カテゴリーの車両規定が大きく変わったことだ。世界的な環境保全の動きと、ここ数年の市販車の状況を反映し、WRCはハイブリッドシステムの導入を決めた。1997年から続いてきた『ワールドラリーカー』という名称を『ラリー1』へとあらため、全車共通のハイブリッドユニット搭載による大幅なパワーアップと、エアロパーツや内部コンポーネンツの簡素化による開発コスト削減を目指した。加えて、ガソリンも合成燃料とバイオ燃料の成分をブレンドし、“非化石原料由来”の持続可能燃料を使用するなど、時代に合わせた変更が盛り込まれている。

ハイブリッド搭載のラリー1。高電圧のため緑ランプ点灯時以外は接触厳禁だ。

見た目からは分からないが、ラリーカーの構造そのものも従来とはまったく異なっている。ラリー1車両は市販車のボディシェルを改造したものではなく、パイプで組み上げたフレームに世界自動車連盟(FIA)が策定した乗員保護のためのセーフティセルを組み込み、これに市販ベース車の外板を被せていく方式でつくられる。規定上は、従来どおりに市販車のボディを使用することも許されているが、各チームともパイプフレームを骨格とする手法を選択しているのが現状だ。なお、ハイブリッドユニットの搭載により規定最低重量は70kg上乗せされ、それに伴い乗員保護のロールケージも大幅に強化されている。

“持続可能”というキーワードでみれば、ラリーを運営する側にも、環境に配慮した様々な取り組みが浸透しつつある。たとえばラリーの会場で使用するためのエネルギーを水力、風力、太陽光などで発電されたもので賄う、オフィシャルが使用する車両をハイブリッドカーに切り替える、などである。また、昨年のラリーエストニアではハイブリッド車、電気自動車、水素自動車での来場者は駐車料金を無料にするなど、観客も巻き込んだ多角的な試みがなされている点にも注目したい。

1ラリーモンテカルロで勝つことはWRCドライバーにとって特別の栄誉だ。

2 時には凍った路面をドライタイヤ(乾いた舗装路用のタイヤ)でアタックしなくてはならない場面も。

3 夜間のスペシャルステージにも大勢の観客が集まる。

ベテランの強さ光った開幕戦と若手のホープが魅せた第2戦

WRCはシーズンオフが短く、1月末のラリーモンテカルロで早々に開幕戦を迎える。このラリーは100年以上の歴史を持つ伝統的な一戦で、初開催は1911年。地中海沿岸のモナコを拠点にフランス南部の山岳地帯を舞台として争われる。山あいの天候は不安定になることが多く、コーナーを曲がった先の日陰には雪が残っていたり、雪解け水が凍ったアイスバーンが待ち受けているなど、シリーズのなかでも屈指の難易度を誇るターマック(舗装路)ラリーだ。今年は比較的晴天に恵まれ、日当たりのよい場所は完全なドライコンディションでのラリーとなった。

スウェーデンでは、雪の上をスパイクタイヤで豪快にスライド。多くの観客で賑わった(写真左)。通算3勝目を挙げたトヨタのロバンペラ(写真上)。下位カテゴリーのWRC2ではアンドレアス・ミケルセン(ノルウェー)が今季2勝目(写真右)。

新たにハイブリッドパワーを得た最高峰ラリーカーとともに世界中のラリーファンを盛り上げたのは、ふたりのセバスチャン──ワールドチャンピオン8回、このラリーモンテカルロで過去7勝(WRCのみ)を挙げているトヨタのセバスチャン・オジエ(フランス)と、ワールドチャンピオン9回、同じくモンテカルロで過去8勝を挙げているMスポーツ・フォードのセバスチャン・ローブ(フランス)だった。フランスが誇る新旧チャンピオンふたりの戦いは、ライバルがつけ入る隙のないほどに激しく、ラリーが進むごとに後続を大きく引き離していく。トヨタのオジエが約20秒のリードを築いて迎えたラリー最終日、終盤でなんとオジエがパンク。代わってローブが総合首位に立ち、ラリーモンテカルロを制してみせた。これでローブはWRC史上最年長優勝記録(47歳331日)を更新し、キャリア通算80勝目を獲得した。

特筆すべきは、大会を沸かせたふたりのセバスチャンはすでに選手権の第一線を退いているベテランであり、今季はスポットでの参戦にとどまるということ。若さやスピードだけでは勝つことができない、経験がものを言うラリーモンテカルロの奥深さを示す結果となった。

健闘を称えあうローブ(右)とオジエ。
ふたりは長年のライバルでもある。

林地帯を縫うように走る道は、最高速度が190km/hに達するセクションもあるなど、かなりのハイスピードラリーだ。大量のピン(スタッド)を備えるスパイクタイヤが路面に食い込み、氷雪路でも高いグリップ力を発揮する。

このラリーでは、WRC史上最年少優勝記録をもつトヨタのカッレ・ロバンペラ(フィンランド)が強さを見せた。ロバンペラは2020年、19歳でトヨタワークス入りを果たし、トップカテゴリー参戦わずか2戦目のスウェーデンで3位表彰台、翌21年には初優勝を達成するなど、最も勢いに乗る若手のひとり。ラリー初日を総合2番手でまとめ、2日目には首位に浮上。途中ライバルやチームメイトがミスやトラブルで遅れるなか、大きくタイムロスするようなこともなく、最後まで好ペースを発揮して自身通算3勝目を獲得するという、盤石のラリー運びを披露した。今大会最多となるSSベストタイム6回というスピードとともに、プレッシャーにも打ち勝つメンタルの強さをあらためて印象づける一戦となった。

これでドライバーズ選手権はロバンペラが46点で首位、チームで争うマニュファクチャラーズ選手権はトヨタが83点で同じくトップに立っている。

第3戦は、2カ月ほどのインターバルを挟んで4月21日〜24日に開催されるクロアチアラリー。首都のザグレブを拠点とするターマックラリーだ。ラリー自体は70年代から開催されている歴史あるもので、WRCとしての開催は21年が初めて。昨年はトヨタのオジエがチームメイトのエルフィン・エバンスと接戦を繰り広げ、勝利を獲得している。

2022年世界ラリー選手権主要ドライバーズラインナップ

チーム

TOYOTA GAZOO Racing

WORLD RALLY TEAM

マシン

トヨタGRヤリス・ラリー1

No.

ドライバー ※スポット参戦含む

1

セバスチャン・オジエ(フランス)

33

エルフィン・エバンス(英国)

69

カッレ・ロバンペラ(トヨタ)

4

エサペッカ・ラッピ(フィンランド)

チーム

TOYOTA GAZOO RACING
WORLD RALLY TEAM NEXT GENERATION

マシン

トヨタGRヤリス・ラリー1

No.

ドライバー

1

勝田貴元(日本)

チーム

HYUNDAI SHELL MOBIS

WORLD RALLY TEAM

マシン

ヒョンデi20 Nラリー

No.

ドライバー ※スポット参戦含む

8

オィット・タナック(エストニア)

11

ティエリー・ヌービル(ベルギー)

6

ダニ・ソルド(スペイン)

2

オリバー・ソルベルグ(スウェーデン)

チーム

M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAM

マシン

フォード・プーマ・ハイブリッド・ラリー1

No.

ドライバー ※スポット参戦含む

42

クレイグ・ブリーン(アイルランド)

44

ガス・グリーンスミス(英国)

16

アドリアン・フルモー(フランス)

19

セバスチャン・ローブ(フランス)

注目の日本人ドライバー勝田貴元 着実な走りで第2戦を4位完走

トヨタの若手育成企画である『TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラム』から参戦する勝田貴元は、開幕戦、第2戦ともコースオフなどによるタイムロスはあったものの、これまで乗ってきたトヨタ・ヤリスWRCとの違いを学びながら、GRヤリス・ラリー1をモノにしつつあるという印象だ。特に重たいハイブリッドユニットを車両後部に搭載しているため、車重バランスが従来と大きく異なり、ドライビングもそれに合わせていかなくてはならないなど、どのチーム、どのドライバーにとっても試行錯誤を続けながらの戦いとなっている。

 

特に第2戦は、開催地が変更されたことによって全員が初体験のコースとなる。2回のレッキ(下見走行)で作るペースノート(コーナーの曲率やコースの状況を記したノート)の精度とコ・ドライバーとのコンビネーションが大きなカギであると同時に、未体験の路面に対する即応力が求められる一戦だ。当然のことながらドライバーが安心して乗ることができるクルマ、セットアップであることも欠かせない。勝田はそうした状況の中できっちりと生き残り、昨年のサファリラリーで獲得した2位表彰台に次ぐ好成績を残した。その点は、今後に向けて大きなステップのひとつと言えるだろう。

トヨタから全戦に参戦する日本人ドライバー、勝田貴元。第2戦スウェーデンでは初日にスタックし観客の助けを借りる場面もあったが、その後は安定した速さでラリー1車両の習熟をさらに深めた。最終戦のフォーラムエイト・ラリージャパンではさらなる強さを見せてくれるはずだ。

 

第2戦を終えて、勝田はプレスリリースのなかで次のように語っている。
「ラリー序盤は苦労しましたが、終盤はクルマが乗りやすくなり、ステージを楽しむことができました。サービスごとにセッティングを色々と変えた結果、最後はクルマのフィーリングが完璧になったので、チームには本当に感謝しています。特に土曜日以降は、クルマがとても乗りやすく感じられました。パワーステージ(最終SS)では、少しでも多くポイントを稼ごうとかなり攻めて走り、2ポイントを獲得することができました。もう少し速く走ることもできたとは思いますが、満足しています。しかし、なによりも重要なのはラリーを最後まで走り切ったことです」

 

まだシーズンは始まったばかり。1年を通じてさらなる研鑽を積み、11月の最終戦『フォーラムエイト・ラリージャパン』では力強い走りを見せてくれることを期待したい。

2022年WRCドライバーズチャンピオンシップ

2022年WRCマニュファクチャラーズチャンピオンシップ

2022年世界ラリー選手権 開催予定カレンダー

勝田貴元に続き、世界に羽ばたけ!トヨタが若手トレーニング候補生を発表

22年2月7日、TOYOTA GAZOO Racingは『WRCチャレンジプログラム』に新しく参加する3名のドライバーを発表した。21年の全日本ラリー選手権JN3クラスでチャンピオンを獲得した大竹直生、東日本ラリー選手権でランキング2位を獲得した小暮ひかる、そして全日本ラリー選手権JN6クラスの2戦に出場し2勝を挙げた山本雄紀の3名だ。

21年8月に新規募集が始まったこの企画は、『世界の舞台における日本人ドライバーの地位を確固たるものとするため、次世代の日本人ラリードライバーを発掘する』ことが狙い。14歳~24歳のモータースポーツ経験者を対象とし、書類選考や面接を経て、フィンランドでのトレーニングキャンプと最終選考を行うというものだ。

合格者はフィンランドに移住し、TOYOTA GAZOO Racingの講師陣からドライビング技術、フィジカル、メンタル等、一流のラリードライバーとしてのあり方をたたき込まれる。60名の応募者の中から最終的に8名がフィンランドで2週間のトレーニングキャンプに参加し、最終的に3人が合格を果たしたというかたちだ。

選考では、現時点のスキルよりも今後プロのラリードライバーになるためのポテンシャルを考慮し、学習能力と適性を見極めることに重きが置かれたという。

3人は4月上旬にフィンランドに移住し、厳しいトレーニングをこなす日々を送る。同じプログラムで抜擢され、現在はトップドライバーのひとりに名を連ねる勝田貴元の背中を負う彼らの今後に注目だ。

トヨタの若手候補生。左から大竹直生、小暮ひかる、山本雄紀。

北は北海道から南は九州まで 全8戦の全日本ラリー選手権も開幕

22年の3月から、日本国内でのラリーシーズンも本格的なスタートを迎える。全8戦で争われる全日本ラリー選手権は、6クラスに分かれて身近な車種が覇を競うシリーズだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、開幕戦の新城ラリー(愛知、3月18〜20日)は無観客での開催となるなど、観戦に足を運ぶにはまだまだ予断を許さない状況が続いているが、主催者によってはライブ配信など様々な試みを行っており、自宅からでもラリーを楽しめる機運が高まりつつある。

トップカテゴリーでは、トヨタGRヤリスやスバルWRX STIといった国産スポーツカーと、WRCにも参戦するシュコダ・ファビアが対決。ドライバーは前年のチャンピオンであるトヨタの勝田範彦(貴元の父)、スバルの新井敏弘や鎌田卓麻といったベテラン勢に、シュコダの福永修、元F1ドライバーのヘイキ・コバライネンらが名を連ねる。その他のクラスでもトヨタGR86やスバルBRZ、スズキ・スイフトスポーツやトヨタ・ヤリスなど、車種バラエティが豊富なため、走りを眺めているだけでも楽しめる。

今季は北海道、群馬、愛知、岐阜、京都、愛媛、佐賀と、7道府県が舞台となる。前述のとおり新型コロナウイルス感染拡大の脅威はいまだ去らず、観客動員については各主催者とも慎重な対応となることが予想されるが、いずれ観戦が可能になった暁には観光も兼ねて実際に会場を訪れ、ラリーの雰囲気を楽しんでみてはいかがだろうか。

2022年全日本ラリー選手権 開催予定カレンダー

(執筆:合同会社サンク)

(Up&Coming '22 春の号掲載)



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