多種多様なフィールドで争われるWRCで気鋭の若手が示したスピード
トヨタのロバンペラが序盤戦で3連勝選手権トップに立ち、シーズン中盤戦に挑む
選手権リーダーは弱冠21歳!ベテランを相手に堂々たる戦いぶり
2022年の世界ラリー選手権(WRC)は、第5戦イタリアまでを終えて、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR WRT)のカッレ・ロバンペラ(フィンランド)/ヨンネ・ハルットゥネン(フィンランド)が3連勝を挙げる好調ぶりを発揮している。ドライバーとコ・ドライバー、そしてマニュファクチャラーズの3選手権で、トヨタ勢がいずれも首位を独走している状態だ。
現在選手権のトップを走るロバンペラは、2000年10月1日生まれの21歳。2020年からTGR WRTに所属し、WRC界で最も勢いのある若手ドライバーと言えるだろう。すでにキャリアで5度(2022年6月5日時点)の勝利を挙げており、そのスピードに疑いはない。ちなみに父親のハリ・ロバンペラも元WRCドライバーで、かつて北海道で行われたWRCラリージャパンへの参戦経験もあるドライバーだ(2004年はプジョー、2005年は三菱チームに所属)。
カッレ・ロバンペラの序盤戦を振り返って特筆すべきは、第2戦から第4戦まで、キャラクターがまったく異なるラリーで3連勝を挙げている点だ。第2戦は雪道が舞台となるスウェーデン、第3戦は荒れた舗装路のクロアチア、第4戦は未舗装路のポルトガル──まったく路面状況が異なるなかで、安定してスピードを発揮することは熟練のドライバーをもってしても至難の業と言える。
並み居るベテランと真っ向勝負を展開し、一歩も引くことのないハートの強さ。冷静に戦況を分析し、最適な戦略を採ることのできるラリー運び。そして、ここぞという時の爆発的なスピード。21歳の若さでこれらを備えているロバンペラは、将来のチャンピオン候補と言っても過言ではない。わけても第3戦クロアチアと第4戦ポルトガルは、その才能が遺憾なく発揮されたラリーであり、関係者にも大きなインパクトを残した。
1 第5戦イタリア、2021年2月以来の勝利で高々とジャンプするオィット・タナック。
2 21歳とは思えぬ強さとスピードを発揮しているカッレ・ロバンペラ(左からふたり目)。
第3戦のクロアチアは、2021年に初めてWRCとして開催されたラリー。舗装路ながらアップダウンが激しく、路面のグリップ力も場所によって変化する。また、コーナーの最短距離をとるべく内側の砂利部分を走る『インカット』によって、路肩部分の砂利が路面に掻き出されるため、コンディションは常に変化し続ける。そうした路面状況の変化について、多くの選手は21年大会で経験済みであり、それに合わせた対策を練って2022年のラリーに向けた準備を重ねている。一方のロバンペラは、2021年大会最初のスペシャルステージ(SS)でコースアウトを喫しており、この国特有のコンディションを経験することがないまま、2022年大会に挑まねばならなかった。もちろん車載映像などでコースをチェックしたり、チームから情報収集することはできても、ラリーのスピードで実際にその道を走ることで得られる情報量はまったく異なる。
そのような状況でありながらも、ロバンペラは序盤から好タイムを連発してトップに立ち、首位の座を終盤まで維持する強さを見せた。最終SSを前にして、ヒョンデのオィット・タナック(エストニア)に僅差ながら首位を奪われた際も、続く最終SSで堂々のSSトップタイムをたたき出し、鮮やかな逆転劇で今シーズン2勝目を獲得してみせたのだった。
1 第3戦クロアチアではカーブ内側に大きく踏み込む“インカット”が頻繁に行われ、路肩の砂利が路面にばらまかれる。難しさを増す要因のひとつだ
2 ヨーロッパではコースのすぐ脇で応援するスタイルも多い。
続く第4戦の舞台はポルトガルの未舗装路。通常、WRCでは競技初日はドライバーズ選手権のランキング上位から順番に走行する。つまりロバンペラが先頭走者を務めるわけだが、グラベル(未舗装路)ラリーにおいては一般的に“走行順が前であればあるほどタイムを出しにくい”とされる。先に走る方が路面に堆積した砂利を掃除する役割を担わなければならず、タイムロスが大きいためだ(ただし雨が降った場合は、多くのクルマが踏み荒らす前に走行できる利点もある)。
果たしてポルトガルは完全に乾いた路面でのスタート。誰もが不利を予想するなか、ロバンペラはクレバーな走りを披露して総合2番手につけ、勝利を狙える位置で初日を終えた。
「総合2番手は予想外」と、ロバンペラは初日の出来に笑顔を覗かせた。「自分としてはいい仕事ができたと思います。トラブルを抱えていたクルマが多く、チームがラフなコンディションに負けないクルマを用意してくれた点も重要なことだったと思います。路面をクリーニングしながら走るのは本当に大変でしたが、問題が起こらないように、クレバーに走ることができました」2日目以降は出走順が後方になる(上位陣は前日の順位を逆にして行われる)こともあり、ロバンペラは本来のスピードを発揮。この日の終盤にはトップを行くチームメイトのエルフィン・エバンス(英国)を捉えてトップに浮上し、最終日も僅差のままリードを守り切って勝利を挙げている。
1 WRCでは、世界各国様々な風景の中を駆け抜ける。
2 第4戦ポルトガル。砂利の多く残る路面はパワーが路面に伝わりづらく、操縦性も悪化する。
3 合間の時間には他チームのドライバーと談笑することも。
ロバンペラは、同じく未舗装路で行われる第5戦イタリアも先頭走者でスタート。このラリーは路面の砂利がパウダーのように細かく、第4戦ポルトガルにも増して先頭走者に厳しいラリーと言える。さらに岩が点在し、気温30度〜35度という暑さはドライバーにもクルマにも試練を与える一戦だ。多くのクルマがクラッシュやトラブルに悩まされるなか、ロバンペラはリスクを避けて5位でフィニッシュ。選手権ランキングではトップをキープして中盤戦に臨む。この第5戦では、大きなトラブルに見舞われることなくラリーを走り切ったヒョンデのタナックが今シーズン初勝利を飾っている。
全13戦で開催される2022年シーズンのWRCは第5戦までを終えて、いよいよ中盤戦に入る。第6戦ケニア、第7戦エストニア、第8戦フィンランドはいずれも未舗装路での戦いだが、それぞれのコースの性格は大きく異なる。ケニアはラフな路面でクルマの信頼性が問われるラリー。2021年大会も大雨に襲われるシーンがあるなど、天候の急変にも注意が必要だ。ここでは勝田貴元が自身初の2位表彰台を獲得しており、2022年大会の活躍に期待がかかる。
一方のエストニアとフィンランドは、スムーズでハイスピードな路面が特徴。3次元的にうねる路面は多くのジャンピングスポットを生み、マシンの高速安定性と足まわりのセットアップが重要なポイントとなる。フィンランドに在住する勝田にとっては、言わばホームイベントだ。2021年はコースアウトを喫してしまったために納得のいく結果は残せていないが、快走を期待したい。
第4戦ポルトガルで表彰台目前の4位
力強いラリー運びで強さを見せた勝田
勝田は、第4戦ポルトガルでは序盤から好ペースを見せて3番手争いを展開し、ロバンペラによるトップ争いがかすんでしまうほどにラリーを盛り上げた。中盤以降はリードを保ち、2019年のドイツ以来となるトヨタの表彰台独占なるかと騒がれたが、最終SSで逆転負けを喫してしまい、4位に終わっている。ラリー終了後、勝田は次のようにラリーを振り返った。
「ラリーポルトガルは、今シーズン初の未舗装路ラリーということで、全員にとってハイブリッドのラリー1車両で戦う初めての未舗装路でした。4日間を通じてある程度安定した走りができ、競争力のあるタイムを出せたステージもありましたが、トップからは離されすぎてしまったステージもあり、なかなか難しい週末という印象でした。クルマについても大きなトラブルはなく、安定して良いパフォーマンスを発揮することができていました。それが好成績につながったのだと思います」
勝田が順位を争っていた相手は、過去10年以上ラリーポルトガルに参戦している経験豊富なヒョンデのダニエル・ソルド(スペイン)。最終ステージのコースも知り尽くしており、そうしたベテランの渾身のアタックに、勝田は対抗しきることができなかった。
「土曜日のデイ3で3番手に上がったのですが、最終的に2.1秒という差で最終ステージで逆転されてしまい、4番手となりました。もちろん、表彰台に上りたかった気持ちが大きいですが……。3位を獲れなかったというのは、自分でも悔しいですし、それ以上にチームに対して申し訳なかったという感じです。
ただ、週末を通じて秒差の接戦を展開しながら、フィニッシュまでクルマを運ぶことができた点は、自信にもつながりました。前戦のクロアチアに比べたら良いパフォーマンスを見せることができたのはポジティブな部分だと思います。とは言え、まだペースを上げられるところもありました。どこまでリスクを負って走るのか、どこまでプッシュできるのか。今後もそうした部分を見極めながら取り組んでいきたいなと思っています」
1 第4戦の3位争いを制したダニ・ソルドが勝田貴元に駆け寄り、健闘を讃えあう。観客もふたりに大喝采。
2 ソルド自身も苦労を重ねながらトップまで登り詰めた。
3 成長を重ねる勝田。11月の凱旋が楽しみだ。
今シーズン、勝田が所属するTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team NEXT GENERATIONは、マニュファクチャラーズ選手権に登録している。つまり勝田がポイントを獲得すれば“本家”であるTGR WRTの間接的な援護にもなるというわけだ。フィニッシュ後に見せた涙は、その重責を自覚したうえでシーズンに臨んでいるからこそと言えるだろう。本人が言うように、スピードとリスクを見極める力は今後も非常に重要な意味を持ってくるはずだ。
続く第5戦サルディニアでは、ペースをつかみ切れず、ラジエターを破損してしまったことでタイムロス。6位フィニッシュとなったが、「イタリアでは我慢のラリーでポイントを持ち帰れたこと、クルマをフィニッシュまで運べたことは、今後に向けていい要素でした」と、ポジティブな部分を見出している。2021年大会でキャリアベストの2位を記録したサファリについては、「(昨年2位の)プレッシャーは感じていません。本当に何が起きるか分からないラリーなので、とにかく入念に準備をして、何が起きても対応できるようにして挑むことが大切だと思っています。ヨーロッパのラリーとは雰囲気がまったく違いますし、歴史のあるラリーなので楽しみでもあります。サファリの後に続くエストニアとフィンランドは、自分も得意だと思っているので、良い流れを作っていきたいです」と、力強く意気込みを語っている。
ここからの3連戦、勝田にとっては実力を示すチャンスであり正念場と言える。大きく弾みをつけて、終盤戦、そして最終戦の『フォーラムエイト・ラリージャパン』では大きく成長した姿を見せてくれるはずだ。
(執筆:合同会社サンク)
(Up&Coming '22 盛夏号掲載)
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