11月3日、文化の日。今年(2023年)の文化勲章は、狂言師の野村万作氏、作家の塩野七生氏、経済学者の岩井克人氏ら6名とともに、日本サッカー協会最高顧問で、元サッカー協会会長、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏に授与された。
この意味は、極めて大きい。
スポーツ界からの受賞は、水泳の古橋廣之進(08年)、野球の長嶋茂雄(21年)の両氏に次いで、わずかに3人目。
それだけスポーツの「文化としての認定度」が低いとも言えるが、今から40年ほど前、私が関西のテレビのワイドショー番組に出演したときには、こんなこともあった。
小生が、「野球やサッカーなど日本のスポーツは、現在のようにただスポーツを見たりやったりして楽しむだけでなく、文化として根付いて発展しなければいけません」と話したところが、司会の桂三枝(現・文枝)さんの隣にいた女子アナが、驚いた様子で声を張り上げ、こう言ったのだ。 「エエ-!? 玉木さんのいらした学校では、野球部やサッカー部は、運動部ではなく、文化部だったんですかぁ!?」
このときスタジオは大きな笑い声に包まれた。が、「文化として根付き発展するスポーツ」とはどういう状態をいうのか? その回答を正確に口にできる人は少なかったはずだ。
また女子サッカーの日本代表選手として大活躍し、2011年のワールドカップ・ドイツ大会決勝でアメリカを破り、日本チームを世界一に導いた宮間あや選手は、優勝後のインタヴューでこう語った。 「これをきっかけに、日本でも女子サッカーが文化として根付いてほしい」
世界一になったあとのインタヴューだったから、この言葉は多くの日本人が耳したに違いない。が、彼女の「真意」を正しく理解できた人は、少なかったのではないだろうか?
何しろ日本の多くの学校では、スポーツが「文化」でなく「運動」に分類されているのだから、先の女子アナのようにスポーツを「文化」とは考えない人々がいても不思議ではない。
おまけに「スポーツは文化……て、どういう意味?」と考える前に、そもそも「文化とは何?」と訊かれて、正しく答えられる人がどれくらいいるだろうか?
この少々難しい質問の正解を導き出すために、私にはスポーツライターをめざしたいという人に向かって必ず発する「問い」がある。それは「文化の反対語は何?」という質問だ。
この質問を投げかけられた人は一瞬キョトンとした顔をして戸惑う。そこで、「文」の反対語は? と訊き、さらに「ナントカ両道」という四字熟語は? と訊くと、たいていの人は「文武両道」という言葉を思い出して、「文」の反対語が「武」であるとわかる。
ならば「文化」とは「武化」の反対語で、武力で人々を支配・統治する「武断政治」とは正反対に、武力ではなく文書(法律)や言葉で人々を統治し導く「文治政治」のことが文化であり、そのような非暴力的な社会から生み出されるモノが「文化」とわかるはずだ。
江戸時代には「文化・文政」という元号の時代があり、その平和な(非暴力的な)時代には、江戸を中心に、豊かな文学・美術・工芸・芸能・音楽、そして様々な学問が生み出された(読本、俳句、浮世絵、歌舞伎……等々「化政文化」と呼ばれている「文化」ですね)。
さらに明治時代に入って欧米からカルチャー(Culture)という言葉が伝播したとき、当時の日本人は、その言葉に「文化」という訳語を当てはめた。カルチャーとは「みんな(社会)で実らせた(創り出した)モノ」といった意味で、たとえば「土 agri」から「実らせたモノ」は「アグリカルチャー agriculture=農業」となる。
ここまで「文化」という言葉を理解できると、川淵三郎氏が「文化勲章」を受賞した意味の大きさも理解できるだろう―。
過去にスポーツ界から文化勲章を受賞した古橋、長嶋の両氏は、スポーツマンとしての素晴らしい活躍で、社会に大きな影響を与えたことが高く評価されての受賞と言える。が、川淵三郎氏の場合は、早大や古河電工のサッカー部で活躍したのち日本代表チームの監督を務めたこともあったが、それ以上に今年30年目を迎えたJリーグの創設に初代チェアマンとして尽力したことが高く評価されての受賞と言えた。さらに組織の分裂で国際連盟から資格停止処分を受け、20年東京オリンピックへの出場が危惧されていたバスケットボール協会の会長に就任し、改革に大鉈を振るい、Bリーグを発足させたことも評価された。
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