未来を可視化する

長谷川章のアート眼  Vol.28

社会の未来を語るキーワード「シンギュラリティ」をテーマに、長谷川章氏のアート眼が捉えるものを連載していきます。人類が生命を超え、加速する未来を可視化する鍵を探ります。

長谷川 章(はせがわ あきら)

中国中央電視台CCTVのステーションロゴを始めNHKのオリンピックオープニング(1996)、ニュースタイトル、TV-CMなど数千本の制作してきた長谷川章が、日本人の持つ無常の精神から空間・環境のアーティスティックなソリューションであるデジタル掛軸を発明し今日のプロジェクションマッピングの創始者となった。

Akira Hasegawa

時間と空間の拘束からの解放

私の仕事は、空間と対峙することです。
映像作家という肩書きもありますが、私は「光で描く」アーティストだと思っています。
プロジェクションマッピング。今では耳慣れた言葉ですが、私がこの表現に取り組み始めた当初、まだその技術すら国内では一般的ではありませんでした。けれど私は、光に未来を見ていました。光は空間を「飾る」のではなく、「語らせる」ことができるのです。

たとえば、歴史ある寺院や自然の岩壁に映像を投影する。それは、単に映像を見せるのではなく、その場所が持つ記憶や空気を、光とともに浮かび上がらせる試みです。光は素材であると同時に、「問い」でもあります。
技術の進化は、私にとって常に味方でした。映像処理、投影技術、コンピューター制御……それらは表現の幅を広げてくれる。ただし、最も大切なのは「何を表現するか」。技術は手段であって、目的ではありません。空間と光が出会い、観る人がその場で「何か」を感じる——それこそが、私の理想とするアートのかたちです。
いま、街づくりや地域活性、観光や教育の現場でも、光と空間の融合が新たな価値を生み出し始めています。

そして2024年3月、新宿オペラシティで開催された総勢300名によるエール管弦楽団との共演では、木製の大ホール全体が、まるで宇宙に浮かぶ光と色彩のシンフォニーへと変貌しました。デジタル掛軸が音と響き合い、空間に花を咲かせるような体験となったのです。

この共演は、アートの新たなカテゴリー——「移ろいの間(あわい)の世界」を可視化する試みでもありました。音と光、時間と空間、そして人と場とのあいだに生まれる「余白」の美しさ。私はこの「間」にこそ、未来のアートが宿ると感じています。
アートは特別な場所に限らず、日常のなかにも息づくもの。私はその橋渡しを、これからも光とともに続けていきたいと思っています。

第10回記念演奏会オケフェス(2024年12月23日)
五感で体感する新次元アートの世界へ.
エール管弦楽団:鰺坂圭司(指揮・音楽監督)、橋森ゆう希(コンサートミストレス)、コシノジュンコ(オープニングプロデュース)、西島数博(ダンサー)、澤江衣里(ソプラノ)、ジョン・健・ヌッツォ(テノール)、大沼徹(バリトン)/栗友会合唱団/フレーベル少年合唱団/長谷川章(デジタル掛軸)

DKFORUM

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(Up&Coming '25 盛夏号掲載)




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