Vol.12 

済州島:スマートグリッド・アイランド
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

  はじめに    福田知弘氏による「建築と都市のブログ」の好評連載の第12回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は済州島の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。

済州島へ

スマートグリッドは、ICT技術を駆使して電力の需要と供給を常時最適化する次世代の電力網。省エネ・低炭素社会を実現するための仕組みとして米国・欧州・東アジア諸国で取り組みが進められている。その中で韓国は官民一体となって世界のスマートグリッド市場の先行獲得を目指して積極的に取り組んでいる。その第一歩となる実証実験を済州島で開始している。

済州島は綺麗な楕円形をした島だ。面積は1845k㎡であり、我が国の都道府県で一番小さい香川県より30km2ほど小さい。また、人口は55万人であり、鳥取県より3万人ほど少ない。韓国のハワイといわれるリゾートアイランドへ向かう飛行機は、ゴルフバックも沢山積みこまれた模様。

【図1】建設中の洋上風力発電施設

三多と三無

済州島の特徴を表す有名な言葉に「三多」と「三無」がある。

三多とは、「風、石、女の三つが多い」意。まず「風」。済州島は強い季節風が吹く地域である上に、台風が度々通過する。その風を利用しようと1990年代から風力発電に取り組みはじめ、現在は海上にも建設中【図1】。次に「石」。済州島は大韓民国の最高峰・漢拏山(ハルラサン)の噴火によりできた火山島であり、島中が石だらけ。屋敷や耕地の境界には黒い玄武岩で区切られ、独特の風景を生みだしている【図2】。玄武岩の石垣は伝統的な施設だけでなく、建設されたばかりの道路にも。このような黒い石垣は日本では余り見られない。最後に「女」。これは、男性が漁に出て遭難してしまい、女性の比率が高くなったことに由来する。さらに、島に残った女性は働きものが多い、ということも指すようだ。

【図2】玄武岩の石垣で区切られた畑 【図3】住宅の門(城邑民俗マウル)

三無とは、「泥棒、乞食、大きな門の三つが無い」意。これらが無いのは、自然環境の厳しさを克服するために協同の精神が発達したためだといわれる。最後の「門」であるが、済州島の屋敷の入り口には、穴が3つ空いた石が両側に置かれ、棒を3本架けることができる【図3】。棒が1本も架けられていない時は「どうぞお入りください(在宅中)」、1本だけ架けられている時は「2~3時間留守にします」、2本架けられている時は「夕方には戻ります」、3本とも架けられている時は「2~3日留守にします」という合図だそう。

済州島の風物

済州島の風物を。食材を三つ挙げるならば、黒豚、タチウオ、ミカンか。北部・済州市の東門市場、南部・西帰浦(ソギポ)市の中央市場は市民の台所として賑わう。数々のキムチ、トッポギ鍋、そしてずらっと並べられたタチウオに目を奪われた【図4】。訪問時はイチゴのシーズンでもあった【図5】。 

漢拏山と共に世界自然遺産に登録された、城山日出峰(ソンサンイルチュルボン)【図6】。海底噴火によって生まれた海抜182mの火山島は、済州島の最東端にあるため文字通り日の出を見る場として相応しい。訪問時には、大勢の旅人が山登りをしていた。その近傍にあるソプチコジは韓流ドラマ「オールイン」のロケ地。近年、安藤忠雄先生の美術館「GENIUS LOCI」が完成【図7】。

【図4】タチウオ 【図5】イチゴまつり
【図6】城山日出峰頂上
【図7】GENIUS LOCI

島南東部にある城邑民俗マウルは民俗資料保護区に指定されており、昔ながらの町並みの中で人々が生活を営んでいる。萱葺き屋根は、地域の人々が協力して葺き替えをするそうで、そこには冬虫夏草ができているそう。案内人のもてなし方は中々参考になった。

オルレとは済州島の方言であり、元々は通りから家の門に通じる小さな路地を意味する。さらに2007年より済州島に整備されつつあるウォーキングコースもオルレと呼ばれるようになった。現在は島の南半分に森林コース、海岸コース、民家コースなど15コースが整備されている。各コース10~20kmほどである。

スマートグリッド

韓国政府は2010年1月に「スマートグリッド国家ロードマップ」を策定した。これには、5つの推進分野、スマートな電力網、スマートな消費者、スマートな電気自動車及び充電インフラ、スマートな再生エネルギー、スマートな電力サービスとともに、時間軸として第1段階(実験場の建設と運営。2010~2012年)、第2段階(主要都市への拡張。2012~2020年)、そして第3段階(全国展開の完成。2021~2030年)が示されている。そして、第1段階における実証実験場として済州島が指定を受けた。済州島には実証実験の様子を紹介するPRセンターが島北東部に複数完成しており、今回は2か所訪問した。この辺りは、風力発電施設も数多い。

まず、中心施設である韓国電力 スマートグリッド・インフォメーション・センター【図8】。ここではスマートグリッドのコンセプト、及びその必要性、そして済州島におけるテスト・ベッド(実験場)の位置、及びその内容が詳しく紹介される。

【図8】スマートグリッド・インフォメーション・センター

特に見応えのある展示はスマートホーム【図9】。ここでは、スマートメーターが設置され、家庭内における電力使用状況の見える化、電力の需要供給状況による照明やテレビなどの家電製品の制御や最適化などがデモされていた。対応する家電製品は、照明、テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機など多岐にわたる。生活者は電気代が安い深夜電力に合わせて洗濯機を動かしたり、電気自動車の充電を行ったり、供給がひっ迫している時に余分な電気の使用を控えたりできる。もちろん、太陽光発電により自家発電した電力のうち、余剰分の売電などの調整も可能である。これらは、壁面に設けられたIHD(In Home Display)やスマートフォンで閲覧や遠隔操作する【図10】。

【図9】スマートホーム 【図10】IDHとスマートフォン

もう一つ、SK/HHI スマートグリッド・体験ホールでは、スマートプレイス、スマート輸送、スマートリニューアブルというテーマで、展示が行われていた。展示内容は、先のスマートグリッド・インフォメーション・センターとよく似ているが、こちらではフォーラムエイト社が開発した「電気自動車と充電システムのドライブシミュレータ」が展示されていた【図11】。これは、電気自動車でドライブを楽しみながら充電場所を探していくというものである。シミュレータのコックピットはCT&T社の電気自動車そのもの。その後、本物の電気自動車に乗車。平均時速50kmで走れば、60kmの距離を走行可能だそうだ。SKの管轄だけで既に電気自動車15台、充電場所が46基整備されている【図12】。

【図11】電気自動車ドライビングシミュレータ 【図12】電気自動車と充電施設

おわりに

スマートグリッドの普及に向けては消費者の心を掴むことが大切だ。スマートグリッドによって我々の生活がどう変わるのか。人々は果たして幸せになるのか。見えにくい部分を見える化、いや、見せる化する努力がまだまだ必要だ。加えて、専門的な数字は消費者には実感しにくく、それらを理解しやすい指標に置き換えていく努力も必要だと感じる。

自然溢れるリゾートアイランド・済州島で進められている、スマートグリッドの実証実験の成果が楽しみである。




3Dデジタルシティ・済州島 by UC-win/Road
「済州島」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
UC-win/Roadによる3次元VR(バーチャル・リアリティ)モデルを作成したものです。火山の噴火により済州島独特の風景を生みだしている、玄武岩で形成された石垣の屋敷囲いや、市民の台所として賑わう市場の様子のほか、韓国が官民一体となって積極的に取り組むスマートグリッドの実証実験として整備され始めている、電気自動車と充電施設を再現しました。また、PRセンターに展示されている、フォーラムエイト開発の「電気自動車と充電システムのドライブシミュレータ」もモデル化しました。自然溢れるリゾートアイランド・済州島の風景と、そこで始まったスマートグリッドの普及に向けた実証実験の様子を表現しています。

 
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(Up&Coming '11 盛夏の号掲載)
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