今回お話を伺った大下先生は、従来の土木に当たるまちづくり分野の都市デザイン領域に所属。また校務分掌は研究部で、自らの専門に関わるプロジェクトゼミの企画・運営を担当しています。
そのような観点から同氏は、まちづくり分野の生徒がものづくり分野や進学クラスの生徒らとチームを組んで、例えばVRを活用した地域連携などに取り組めることを、同校プロジェクトゼミの一番の特徴と位置づけ。そもそも、VRを高校で採り入れているケースは稀なはず。しかも、それにより自分たちが考えたことを形にして見せ、それを外部の関係者などとも共有し、また新たなアイディアに繋げられる、とその独自のメリットを説きます。
大下先生はその傍ら、シビルクラブ(メンバー約20名)を顧問として指導。同クラブでは測量をはじめ橋梁模型やコンクリートカヌーの製作などを通じたコンテスト参加とともに、VRを活用した地域貢献など土木に関わる様々な取り組みを実施。一方、自身がもともと伏見工業高校の出身で、3年生当時ラグビー部の主力として全国大会で優勝(2001年)した経験を踏まえ、部員約90名を擁するラグビー部の顧問も務めています。
UC-win/Road導入から様々な地域課題に向けた活用へ
大下先生のUC-win/Roadとの出会いは京都工学院高校の前身、伏見工業高校時代の2014年に遡ります。もともと課題研究の授業で地域と連携した様々な取り組みを通じ、紙ベースの地図やGIS(地理情報システム)を使用。そうした中で「これからはプラスVRなども使えるようにならないと」と探るうち、初見でUC-win/Roadを用いた授業イメージに繋がり、その面白さを確信。自身が導入を働きかけた経緯があります。
以来、課題研究(現行のプロジェクトゼミ)の初めのひと月ほどで集中的に、併せてCADやGIS、VRの基本的な操作をローテーションで学ぶ「空間情報工学」の授業で、UC-win/Roadの使い方を指導。初年度はフォーラムエイトのスタッフが共同で講師を務め、以降はその継続的なサポート体制の下、大下先生が担当教員として主導してきています。
「今の高校生は最初にモデルの置き方やデータの作り方などをちょっと教えると、自分たちで勉強してある程度のものを作れるようになります。」実際、UC-win/Roadの基本的な操作を教えた後は、生徒自身が道路の測量や写真撮影を行い、VRを作成しているといいます。
UC-win/Roadを導入した初年度(2014年度)の課題研究では、まず当時の伏見工業高校近くを流れる東高瀬川に対し交通や防災、景観などの観点から、近隣地域住民との打ち合わせやフィールドワークを経て課題を共有。そのうち景観面の地域ニーズにフォーカスし、生徒らが同河川周辺の環境改善策のアイディアをVRでシミュレーション。その成果を基に臨んだ3D・VRシミュレーションコンテストでは、準グランプリに輝いています。
翌2015年度の同授業では同じく東高瀬川の周辺環境改善策として、前年の景観に防災や施工面の要素も加えて検討。より現実的な提案に繋げるべく、河川断面に基づく流量計算や周辺の道路幅を考慮し使用可能な重機の調査を実施。これらを踏まえつつ地域住民が集える空間を提案。同コンテストにおいてエッセンス賞を受賞しています。
京都工学院高校への統合・移転と重なった2016年度はプロジェクトゼミにおいて、旧伏見工業高校校舎を後世に残すべく3Dデータ化。UAV(無人航空機)を利用するなどして3DVRで再現。同コンテストでは再度、準グランプリに輝きました。
続く2017年度の同授業では、UAVによる撮影やSfM解析を通じて学校周辺の環境を点群データ化。大規模地震の発生を視野に避難や支援物資の供給に役立つ緊急災害対応VRを提案。同コンテストでは審査員特別賞 地域づくり賞を受賞しました。
3D・VRシミュレーションコンテスト・オン・クラウド受賞作品
第13回 準グランプリ受賞作品 (2014)
「東高瀬川周辺環境改善シミュレーション」 |
第15回 準グランプリ受賞作品 (2016)
「後世に残す我が母校、伏見工業高校」 |
|
|
住民説明会を実施しまちづくり協議を行うためポスティングによるアンケートを実施。住民の意見に基づき、蛍が生息し子供たちが遊べるきれいな川への再生を目指してVRを活用して改善案を作成 |
取り壊される建物の取材できない部分をドローン撮影しVR化することで歴史ある校舎の姿を後世に残したいという強い思いから実現 |
第16回 審査員特別賞 地域づくり賞受賞作品 (2017)
「大規模地震における緊急災害対応VRの提案」 |
第18回 エッセンス賞受賞作品 (2019)
「DSを利用した本町通りのイメージハンプシミュレーション」 |
|
|
大規模地震発生時に、ドローンによる撮影を利用して被害状況を即座に把握。点群データ化し、被害予測や災害時避難、支援物資供給に役立つような緊急災害対応VRを提案した |
道幅の狭い通学路における、イメージハンプによる車の減速効果シミュレーションを、地域の防災訓練で住民に提案し体験を提供 |
第17回 審査員特別賞 プロジェクト賞受賞作品
「七瀬川改修計画のVRデータ活用」(2018) |
|
|
|
2019年1月、京都市役所にて門川市長(写真右下中央)はじめ、まちづくり委員会委員長、建設局長、土木技術・防災減災担当局長などの同席のもと、遊水地有効活用に関するVR披露を実施。整備前・後の切替えや、気象変化、水位の変化による増水表現などをUC-win/Roadでわかりやすく紹介した |
|
また2018年度は、京都市建設局整備課の依頼を受け七瀬川改修計画に関する地域住民説明会向けVRを作成し、実際の説明会で活用されたほか市長にも披露。このデータは同コンテストで審査員特別賞
プロジェクト賞を受賞しています。
さらに、2019年度の同授業では、一方通行で道幅が狭い上に交通量が多い同校近くの本町通りをVRで再現。各種イメージハンプによるクルマの減速効果などを探るドライビングシミュレーションを開発。やはり同コンテストでエッセンス賞を受賞しました。
新3年生が描くUC-win/Roadの 印象と活用展開
「シビルクラブの場合もありますが、UC-win/Roadはプロジェクトゼミの授業で使うことが殆ど」(大下先生)という現状を踏まえ、都市デザイン領域の新3年生4名の皆さんにもUC-win/Roadの利用についてお話を伺いました。まず、4名のうち3名はまちづくり分野の1年次、その後の専門として都市と建築いずれかの領域を選択するに当たり、VR空間に公園をデザインするデモでUC-win/Roadを初めて体験しています。
その一人、長谷川さんは自分のアイディアを絵に描く時、普通は平面的にならざるを得ないのに対し、UC-win/Roadを使い立体的に表現。分かりやすく、より想像の幅が広がることを実感。小さな子供に道を教える場合などの情報伝達手段としての可能性に言及します。
また、村尾さんはVR使用を他校では味わえない貴重な体験と形容。頭の中で考えるより視覚的で想像しやすく、距離感も掴みやすい特性に注目。津波の予測など防災対策として日常生活に即した形で見られる機会増大による実際的な危機意識の醸成に期待を示します。
さらに、西川さんは頭の中で想像したものがVRではミニチュアのように描き出せると表現。想像力が3次元で可視化できる「良い時代」になったと述懐。公共施設の内部を3D VRで作成し、それと地図アプリとの連携による歩行者目線の新たな利便性創出を描きます。
一方、中学時代に同校の学校説明会で一足先にUC-win/Roadを体験した谷口さんは、オリジナルの公園を作成する楽しさに触れ、更なる活用を着想。交通安全に資するコンテンツのドライビングシミュレーションを家にいながらPCで体験可能な展開を視野に入れます。
高まるVRニーズを想定、VDWCへの挑戦も視野
「課題を設定しその解決策を提案する授業で、アイディアを形にする一つのツールとしてすごくお勧めだと思います」。大下先生は特にUC-win/Roadの、CADなど他のソフトとの整合性の良さがもたらす使いやすさに注目。加えて、当初ハードルが高いのではと懸念もあった3D・VRシミュレーションコンテストへの参加は、むしろ高校生の挑戦意欲をかきたてるなど、良い刺激になってきたと振り返ります。
そのような中、最近のプロジェクトゼミではUC-win/RoadによるVR作成からメタバース展開を試みるチームも出現。大下先生はプロジェクトゼミの取り組みはあくまで生徒の自主性に委ねられ、「こちら側からこうしてみたら」などと言うことはないとしつつ、課題解決という授業趣旨からその成果を基に具体的な提案できれば、これからの技術者に求められるDX(デジタルトランスフォーメーション)対応にも繋がるのではとの見方を示します。
同氏はまた、前述のシミュレーションコンテストと併せ、「VDWC(学生BIM&VRデザインワールドカップ)」(同じく毎年秋、フォーラムエイト主催)挑戦への期待に触れます。ただそこでは複数の専門的なソフトの活用や英語でのプレゼンテーションが条件となるなどさらにハードルが高いと指摘。それをクリアするには生徒自ら必要な知識や技術を学びに行く姿勢が欠かせない。それはまさに同授業の目指すところでもある、と位置づけます。
さらに、授業を通じた提案手法としての有効性はもちろん、特にBIM/CIM適用が加速化する中でVRに関する知識や技術は高校卒業後、土木系では益々重要になると大下先生は説きます。
「測量など基礎的な土木の技術が必要なのはもちろんですが、VRは年々進化しその使い方も変わっていくはずで、そうした動向に対応した授業を行っていかなければならないと考えています」
|
|
大下先生と都市デザイン領域の新3年生のみなさん |
|
|