Users Report

ユーザー紹介/第135回

国土交通省

国土技術政策総合研究所 企画部企画課

国交省が推進するインフラDX、
関連技術の開発を担う国総研
BIM・CIM・VR活用の一環、コロナ禍を機に
「大型4KVR 立体視DS」と「VR国総研」を導入

国交省
国土技術政策総合研究所 企画部企画課

URLhttp://www.nilim.go.jp/

所在地茨城県つくば市

企業情報
所内各研究業務の企画調整および研究環境の整備

国総研 企画部企画課
課長 尾崎悠太 氏


国総研 企画部企画課
建設専門官 湯浅亮 氏

社会の「これから」をつくる研究所
国総研が設立してから今年で20周年を迎えました。
その節目を機に20年間の活動をまとめた「国総研20年史」を刊行しました。

「国総研20年史」のダウンロードはこちらから

「国土交通省全体でインフラDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めていこうという話があり、国土技術政策総合研究所としては、その技術開発の部分を担っています」

国交省では2016年から、建設現場におけるICT(情報通信技術)の活用などにより建設生産システム全体の生産性向上を目指す「i-Construction」を推進しています。その背景には、インフラ分野において災害対策や老朽化対策の必要性が高まる一方、建設業界で人手不足の深刻化が懸念されてきた実情があります。加えて、2020年初めよりわが国を含む世界的な新型コロナウィルス感染症の広がりを受け、公共工事の現場でも感染リスクを抑えつつ国土強靭化や経済発展に資するべく、非接触・リモート型の働き方への転換が迫られてきました。そのような中、様々な施策を通じて得られるインフラ整備関連の各種データやデジタル技術を活用。社会経済を取り巻く環境やニーズの変化に対応し、社会資本や公共サービスのあり方、インフラ整備に関わる業務そのものや組織、プロセス、建設業および国交省の文化・風土、働き方を変革して、インフラへの国民の理解を促進するとともに、安全・安心で豊かな生活を実現しようという、省横断的なインフラ分野のDXが取り組まれてきています。そこで国総研では、1)BIM/CIMモデルなどの3次元データを一元的に集約し活用するための「DXデータセンター」の構築、2)無人化施工や自動施工に関する産学官の技術開発の促進などに向けた「建設DX実験フィールド」の整備といった、インフラDX推進のための環境整備に力を入れてきた、と国総研企画部企画課の尾崎悠太課長は振り返ります。

今回ご紹介するユーザーは、国総研において各研究部の企画調整や研究環境の整備を担う「企画部企画課」です。同課では、以前からのi-Constructionに関わる取り組みを通じ、BIM/CIMおよびVR技術の活用に注目。2020年度初めからフォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」をベースとする「大型4KVR立体視ドライブシミュレータ(DS)」の、2020年末からはバーチャルプラットフォームシステム「F8VPS」を適用した「VR国総研」の導入を具体化。それぞれ、前述のDXデータセンターとの連携や新たな広報ツールとしての展開も視野にあります。

FORUM8バーチャルプラットフォームシステム(F8VPS)により同研究所旭庁舎を再現した
VR国総研
バーチャルツアーで敷地内を見学できるほか、実験施設の紹介ムービーの再生なども可能

20周年迎えた国総研の活動、企画部の取り組み

国総研は、国交省内部にあって住宅や社会資本分野を担当する唯一の国の研究機関です。技術を自らの原動力と位置づけ、「現在そして将来にわたって安全・安心で活力と魅力ある国土と社会の実現を目指す」とのミッションを標榜。その具体化にあたっては、1)技術的専門家として行政の視点も踏まえ、国交省の政策展開に参画する、2)研究活動で培った高度で総合的な技術力を実務の現場に還元する、3)国土・社会の将来像の洞察と技術開発の促進により、新たな政策の創出に繋げる、― といったアプローチを描きます。

2001年に国交省の土木研究所、建築研究所および港湾技術研究所が統合。国総研をはじめ土木、建築および港湾空港技術を担う独立行政法人(その後、国立研究開発法人)の各研究所が役割分担する体制として再編されました。以来、国総研では国交省とタッグを組みながら同省所管事業に繋げていけるような技術の研究開発が多く行われてきている、と尾崎課長は述べます。

国総研は現在、管理部門3部(総務部、企画部および管理調整部)と研究部門11部(下水道研究部、河川研究部、土砂災害研究部、道路交通研究部、道路構造物研究部、建築研究部、住宅研究部、都市研究部、沿岸海洋・防災研究部、港湾研究部および空港研究部)プラス1センター(社会資本マネジメント研究センター)より構成。各部・センターは、茨城県つくば市をはじめ神奈川県横須賀市、熊本県南阿蘇村に拠点を配置。それらの活動は、1)国土交通政策の企画・立案、普及を支える研究開発、2)災害・事故対応への高度な技術的支援と対策技術の高度化、3)地方整備局等の現場技術力の向上を支援、4)政策形成の技術的基盤となるデータの収集・分析・管理、社会への還元、― を柱に展開されています。

発足から20周年を迎えた国総研では今年度、1)防災や減災を含む、国土を強靭化し国民の命と暮らしを守る研究、2)インフラDXやi-Constructionの推進を含む、社会の生産性と成長力を高める研究、3)スマートシティの推進や3D都市モデルの活用促進を含む、快適で安心な暮らしを支える研究、― といった各領域で専門に応じた様々なテーマを設定し、研究が取り組まれています。

このような国総研にあって企画部は、企画課、研究評価・推進課、施設課および国際研究推進室から構成。その中で企画課は、国総研の各研究部で研究業務が円滑に進められるようにするため、企画の調整や研究環境の整備などを担っています。近年はその一環として、それまでのi-ConstructionあるいはBIM/CIMなどへの取り組みに加えてインフラDXの推進が求められてきたのを受け、前述のように3Dデジタルデータ活用の核となるDXデータセンターの構築や関連する技術開発のベースとなる建設DX実験フィールドの整備が進められてきています。

研究プラットフォームとして大型4KVR立体視DS導入、DXデータセンターとの連携も視野

国交省がインフラDXを通じ実現したいと思っていたことの中に、i-Constructionとして従前から取り組んできた「生産性の向上」があります。またそれ以外にも、かつて「3K」と呼ばれた土木業界を、工事現場をはじめ業界内で働く全ての人々にとってより良い職場環境となるよう変えていこうという、「働き方改革」が目指されました。そのような観点から、国総研企画部企画課の湯浅亮建設専門官は「BIM/CIMやVR技術は大きな武器になるのでは」と注目されてきた、といいます。

つまり、実験などを現場で行うのと比べ、それら技術をうまく活用することで危険や費用面の無駄を排しながら最大限の成果に繋げ得るはず、と着想。また、大掛かりな実験となると研究者にとっては時に敷居が高くなるようなケースでも、シミュレータであれば気軽に試してみるといったスタンスで臨めるメリットも想定されました。

加えて、2020年の初めから急速に広がった新型コロナウィルスの感染拡大は、接触型の仕事のウェートが高い土木業界においても働き方の改革を迫る流れが現出。実験も含め、極力人と接触することなく、あるいは遠隔地から作業に従事。その結果、生産性向上にも資するという大きな転換に歩み出す契機ともなっています。

もともと各研究部では、VR技術やDSを個別に活用しているケースがありました。「この時期に、働き方を変えていかなければならないということも踏まえて、所内で簡単に利用できるものを構築しようと思いました」と尾崎課長は解説します。

しかも、様々なものを3Dで可視化できるDSであれば、インフラ構造物の点検技術や河川の氾濫状況の再現なども可能。そこで、専門の異なる各部でプラットフォームとして分野横断的に有効活用できるシミュレータの導入が求められました。

以前、道路交通に関する研究に取り組んでいた際に同様なDS使っていた経験のある尾崎課長は、今回DSの検討に当たり必要なスペックとして、1)自動車はもちろん自転車や歩行者のシミュレーションも考慮し視覚的に足下までカバーして没入感を得られること、2)リアリティのある運転環境、3)構造物の点検を想定し歩き回る時の視点をリアルタイムに反映する臨場感の実現、4)構造物の診断研修を想定し一つの構造物に対して複数の技術者が同時に同じ状況を共有可能、5)将来的な発展性を見据えた高い解像度などを2020年秋に設定。これらの仕様を満たすシステムを広く募集し、同年末にUC-win/Road DSの採用が決定。その後、年度末までに広い視野角と高い没入感を実現する大型4面スクリーンの没入型立体表示システムを有し、実際の自動車部品を利用してリアルな運転環境を再現する「大型4KVR立体視DS」の基本的なシステムが構築されています。

「必要最低限のスペックを備えたプラットフォームを作ったというところで、あとはそれを各研究部でうまく活用していってもらいたい。さらに所外の方々にも活用して戴けるような活用方策を検討していきたいと思っています」

そうした観点から湯浅建設専門官は国総研が注力して取り組む「DXデータセンター」に触れます。これは、超高速通信インフラで繋がる国総研の大容量サーバに同省直轄事業のBIM/CIMなど3Dデータを一元的に集約し、最低限のCIMソフトも搭載してVRやAR、建機の自律施工などでの活用を促そうというもの。並行して整備が進む「建設DX実験フィールド」と併せ、大型4KVR立体視DSとの連携による可能性の広がりに期待を示します。

BIM/CIMデータ利用のモデルケースとして「VR国総研」のデータを3Dプリンタで出力した模型を展示

大型4面スクリーンの没入型立体視表示システムで広い視野角と高い没入感を伴う運転シミュレーション

新たな広報ツール「VR国総研」、発展的な活用にも期待

「私たちは広報にも力を入れていこうと、年に複数回、子供たちに実験施設などを見学してもらうイベントを実施しています」

それが今般の新型コロナの流行により、そうした一般公開に制約が生じてきたことから、遠方に住む人らを含め子供から大人まで国総研の施設について知ってもらうための新たなアプローチを模索。前述の大型4KVR立体視DSと同様、2020年春頃から検討を始め、同年末に「F8VPS」の導入を決定。2021年春には国総研旭庁舎の敷地内を3DVRで再現した「VR国総研」を作成。その後、微修正を重ねつつ、去る6月より国総研のWebサイトから公開。ネット環境があれば基本的にVR内の国総研を散策でき、国総研の数多くの実験施設を間近に感じ、スケールの大きさをある程度理解できるようになっている、と湯浅建設専門官は語ります。

「企画部門としてはこの『VR国総研』が所内全体の広報のためのプラットフォームになれば良いと思っています」。国総研の各研究部では常に様々な実験や技術開発が取り組まれており、その実験や成果に関する動画や情報をVR国総研上に置き、アクセスできるような仕組みに発展させていきたいとの構想にも言及します。

F8VPS バーチャルプラットフォームシステム 
フォーラムエイト東京本社ショールームを3DVRで再現

バーチャルキャンパス事例
東京工業大学 Tokyo Tech ANNEX

ICTの広い自由度と大きな発展性に注目

ただ今回、i-ConstructionやインフラDXなど国交省が注力する施策との関わりに加え、新型コロナ対策にも通じる効果への期待からVRなど先進のICTを駆使する「大型4KVR立体視DS」や「VR国総研」を導入。例えば、VR国総研などを一度使ってみることで、そのもたらす再現性や更なる発展の可能性を実感したといいます。

「ICTは自由度がかなり広く、発展性が大きいものです。そのため、うまくきっかけを掴んで、出来るだけ導入していくと良いのではと思います」

執筆:池野隆
(Up&Coming '21 秋の号掲載)